浦和が川崎との勝ち点差29を超えるために必要な補強とは
浦和が上に行くために補強が必要なポジションは
劇的すぎる天皇杯優勝で幕を閉じた、浦和レッズの2021年。宇賀神友弥や槙野智章らの置き土産であるACL出場権を得て、来季はリーグ、カップ、ACLの過密日程を戦うことになる。
すでにレジェンドたちが抜けた穴を埋めるべく、DFやボランチなど幅広いポジションの選手に白羽の矢が立っているようだ。だが一方で、単なる戦力の穴埋めではなく、王者・川崎との勝ち点差29を詰める“上積み”を考えるなら、攻撃陣、特にターゲット型のセンターフォワードと、縦突破に行けるスピード型ウイングの補強は必要だろう。
今季の終盤戦は、清水、名古屋、C大阪など、自陣で堅牢なブロックを敷くチームの攻略に手を焼いた。江坂任のゼロトップを中心に戦ってきた浦和が、引いた相手をどう崩すか。似たような課題の試合が続いたためか、内容は一戦毎に向上し、天皇杯決勝の大分戦の前半は良いサイド攻撃を見せ、先制ゴールも奪った。
だが、依然として仕上げの迫力に物足りなさは残る。崩したサイド攻撃の仕上げとして、ハイクロスから点を奪えるターゲット型のセンターフォワード、あるいはサイドをより深くえぐる突破力のあるウイングは欲しいところ。
その上積みが成功した場合、浦和は新しいシステムも見えてくる。世界中のリーグ王者や強者に好まれる[4-3-3]は、FWの個の力を活かし、ポゼッションやショートカウンターを中心とした攻撃的なゲームプランを実装しやすい形だ。逆に自陣で低く構える堅守速攻系のプランには適さないので、中位以下のクラブはあまり採用しない。
今季の浦和は[4-2-3-1]、守備時[4-4-2]を採用し、ポゼッションを基盤としつつも、試合毎には相手の戦術に対して柔軟に戦う傾向が強かった。横浜FM戦でポゼッションを捨てて勝利を掴んだり、あるいは無理なハイプレスに行かず、ブロックを敷いて構えたり。
その柔軟性は良いが、一方で浦和の目標設定から逆算するとどうか。つまり、化け物じみた川崎の勝ち点に追いつくことを考えれば、よりリスクのある攻撃戦術を多くの場面で選択し、相手を真っ向から叩き潰し、取りこぼしなく連勝できるチームでなければならない。
そこで鍵を握るのは、負ったリスクを上回るリターンを保証してくれる、個の力だ。つまり、ハイプレスに行くリスクよりも、ショートカウンターを成功させるリターンのほうが遥かに大きいからこそ、攻撃的に行ける。今季、前半戦までの川崎がそうだったように。
また、そうした個が揃えば、横浜FMのように振り切ったハイプレスを仕掛けてくるチームに対しても、たとえばキャスパー・ユンカー、レアンドロ・ダミアン(仮想)、三笘薫(仮想)によるロングカウンターの刃を備え、相手に大きなリスクを負わせることができる。MSN(メッシ、スアレス、ネイマール)時代のバルセロナ、あるいは今のリヴァプールもそんな感じだ。
だからこそ、浦和はセンターフォワードとウイングに個の補強が欲しい。もしかすると、そこは夏の市場に持ち越されるのかもしれないが。
ACLを勝つために求められるプレー
それ以外に、もう一つ気になるポジションはGKだ。
西川周作は言うまでもなく、良い選手だ。足元のテクニックは世界屈指。35歳の年齢を感じさせないパフォーマンスを発揮し続けている。
ただし、天皇杯決勝では気になるプレーもあった。それは終了間際に許した同点ゴールの場面だ。大分は意表を突くFKのリスタートから、サイドを侵攻し、下田北斗が右足でクロスを入れてきた。中央では槙野が相手の長身選手3人に対してマークが混乱し、ボールへの目測を誤り、フリーのペレイラに頭で合わされてしまった。
もちろん、槙野やその周囲にいた選手の対応に疑問符は付くが、個人的に気になったのは西川だ。ペレイラが合わせた地点はゴールエリアの中。クロスもゆっくりとした軌道だった。西川は前に出られたのではないだろうか。
とはいえ、こうした場面で彼が飛び出すことは、元々少ない。ハイボールに対してはゴールラインで構える傾向が強いGKだ。ある意味、いつも通りの西川のプレーだった。
大分はCKの場面でも西川に向けてクロスを蹴り、西川の手前か、あるいは頭上を越えたハイボールに頭で合わせようと徹頭徹尾ねらってきた。それに対し、西川もさすがと言うか、終始冷静に対応はしたが、とはいえ対戦相手にこうしたねらいが増えると、特にACLは不安が増すかもしれない。韓国勢を筆頭に、勝負所では大分のようにパワープレーを仕掛けてくる場面は訪れるはず。
そこでぱっと頭に浮かぶのは、今季6試合に限りスタメンを与えられたGK鈴木彩艶だ。彼が再びポジションを西川に明け渡すきっかけになったのは、第18節の湘南戦だった。鈴木はウェリントンをねらったクロスへ飛び出すも、ボールに触れず、ビルドアップ時の失敗と共に2失点に絡み、以降は出場機会を失った。
飛び出して失点した鈴木と、飛び出さずに失点した西川。これをどう考えるか。
西川の判断基準は安定していたし、ミスが少ないのはGKの信頼の証だ。ただ一方で、鈴木のアタックには伸びしろの大きさを感じさせる。湘南戦で失敗したとはいえ、飛び出して成功すれば、GKが防げる場面自体が増えるわけで、大分戦の同点ゴールも、鈴木なら防いだかもしれない。
ここまでは行ける、これ以上行けばやられる。
その判断基準が鈴木なりに整理されれば、彼は空中戦では最強のGKだ。そのスタイルはACL向き、とも言えるかもしれない。また、リカルド・ロドリゲスが指揮する浦和は、足元に優れたセンターバックを重視しているので、その分、GKが空中戦を補完できるタイプだと有り難い。鈴木の成長は、上積みと年齢構成の両方を踏まえて期待される。
補強は選手だけではない
そんな折、ジョアン・ミレッが浦和のGKコーチに就任すると確定的な報道が出てきた。
ジョアンは個人的にも知っているが、スペインの1部クラブや世代別代表でプレーするGKを、一介の街クラブから次々と育て上げた、超・実力派のGKコーチだ。過去にはレアル・ソシエダや、あるいはカタールの金満クラブからも億単位のオファーを受けたことがあるが、それらをすべて断り、日本人のサッカーへの情熱や国の美しさ、サッカーへの吸収力に感銘を受け、湘南のオファーを受諾した変わり者でもある。推測だが、年俸は1~2ケタ違ったのではないか。湘南以降は、FC東京等でもGKコーチを務めてきた。
ジョアンは人間性豊かな指導者であると同時に、“超”が付くほど、理詰めのGKコーチでもある。
飛び出すべきか、待つべきか。その答えを直感や好みで下すことはない。クロスを蹴ってからゴール前に落ちるまでに、1.◯秒。その間にGKはこの場所までは行ける。だから飛び出しはOK、NGなどと、ポジショニング一つとっても緻密に、論理的に答えを出す。基礎的な技術も非常に細かい。研究に研究を重ね、ジョアン流の指導メソッドを作り上げ、その手腕でスペインや日本で数々の選手を、トップクラスのGKに成長させてきた。鈴木という大器を整えるGKコーチとして、これ以上の指導者はいないのではないか。
最近の浦和の補強センスには恐れ入った。昔の浦和と言えば、資金力を背に「いっちゃんええやつ買い」を続けてきた印象だが、今はがらりと変わっている。今の浦和は買い物上手だ。名に惑わされず、よく品を見ている。
劇的な天皇杯優勝から1週間足らず。もう来季が楽しみになってきた。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など