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AIで量産のメディア偽装サイト「ピンクスライム」の数が、本物のニュースサイトと同規模に

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By francois karm (CC BY 2.0)

AIで量産するメディア偽装サイト「ピンクスライム」の数が、本物のニュースサイトと同じ規模になっている――。

米ウェブ評価会社「ニュースガード」が、そんな実態を明らかにしている。

米国では、ローカルメディアを模した政治色の強い偽装サイト「ピンクスライム」の増殖が数年前から指摘されてきた。

それが、11月に米大統領選を控え、保守、リベラル双方が「ピンクスライム」の展開を拡大。地盤沈下を続ける本物のニュースサイトと、数の上で並ぶようになったという。

一方では、全米最大の新聞チェーン、ガネットが、「ピンクスライム」提供企業のコンテンツを採用する事態も起きている。

メディア偽装サイトは米国だけの問題ではない。AIの普及と高度化が後押しし、情報戦のツールとしても、グローバルに広がっている。

●本物のニュースサイトとほぼ同数

ニュースガードは、全国で運営されている1,162件のピンクスライムサイトを確認した。これは、実在する日刊ローカル紙が運営する本物のニュースサイト約1,200件とほぼ同数だ。

米ウェブ評価会社「ニュースガード」のサイト「リアリティチェック」は3月25日付でそんな調査結果を明らかにした。

またフィナンシャル・タイムズは、4月1日時点の「ニュースガード」のデータとして、ピンクスライムの数を1,197件と報じている

一方、本物のローカルメディアは右肩下がりの減少傾向を続ける。

ノースウェスタン大学メディル校客員教授のペネロペ・アバナシー氏の2023年11月発表の調査では、米国のローカル紙のうち、日刊紙の数は1,200としている

米国では、ローカル紙が消滅する地域が増えていく「ニュースの砂漠」が深刻化する。その現状を明らかにしてきたアバナシー氏のこれまでの調査では、米国の新聞の数は2004年時点の8,891(日刊紙1,472、非日刊紙[週刊紙など]7,419)から、2020年時点には6,736(日刊紙1,260、非日刊紙5,476)と、16年で24%の減少となっている。

その情報空間の空白を埋めるように急拡大しているのが、ローカルメディアの体裁をとった模造サイトだ。廉価な肉の加工材料にちなみ「ピンクスライム」の名称がついた。

「ピンクスライム」は、前回の米大統領選を控えた2019年に、その問題が指摘された。メディアの地盤沈下とAIの高度化がけん引する形で急速に拡大。「ニュースのディープフェイクス」とも呼ばれた

※参照:「ニュースのディープフェイクス」AIで量産、200の偽“地元メディア”が増殖(12/20/2019 新聞紙学的

その実態継続的報じてきたメディアサイト「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」によると、2019年当初は450件程度だったサイト数は、大統領選の2020年には1,200件超と3倍ほどに膨れ上がったという。

その後、「ピンクスライム」は増減を繰り返す一方、ローカル紙は減少を続け、サイト数が拮抗するようになったようだ。

●保守もリベラルも、全米最大の新聞チェーンも

「ピンクスライム」の広がりは当初、保守派のサイトを展開する代表的な企業「メトリックメディア」などの動きとして注目された。

だが「ニュースガード」は、「ピンクスライム」が党派を超えて広がっている、とも指摘する。

リベラル派とのつながりが指摘される「ステーツ・ニュースルーム」は、42州で「ピンクスライム」を展開。ユタ州、ネバダ州で新たなサイトを立ち上げているという。

このほかにも、ネバダ州やニューハンプシャー州で展開する「クーリエ・ニュースルーム」などのネットワークがあるとする。

さらにメディアサイト「ニーマンラボ」の3月14日付の記事によると、USAトゥデイなどを擁する米国最大の新聞チェーン、ガネットも、「ピンクスライム」のネットワークの1つとして知られる「アドバンテージ・インフォマティクス」から、記事広告の提供を受けていたことを認めているという。

偽装ニュースサイトが本物のニュースサイトと数で拮抗するだけでなく、その中に浸透し始めている、ということだ。

「ピンクスライム」の広がりは、11月の米大統領選に向けた政治的な対立の中で位置づけられている。

米国ではこれに加え、チャットGPT登場以降の生成AIブームの中で、広告収入目的の偽装ニュースサイト「コンテンツファーム(工場)」の乱立も目立ってきた。

※参照:「ニュースを盗む」生成AIで検索最適化、それをブランド広告が支える仕組みとは?(09/04/2023 新聞紙学的

「コンテンツファーム」は、主要ニュースサイトなどのコンテンツを盗用し、さらに検索エンジンへの最適化に注力することで広告収入を獲得。本物のニュースメディアの体力を奪う。

問題は米国だけではない。偽装ニュースサイトは、情報戦の側面からもグローバルに広がっている。

●「ドッペルゲンガー」への制裁

我々は、有権者を欺き、米国および世界中の民主主義制度に対する信頼を損なうことを意図した、ロシア政府主導による広範な欺瞞キャンペーンを暴くことに全力をあげている。

米財務省は3月20日、親ロシアの影響工作ネットワークとされる「ドッペルゲンガー」に関与しているとして、ロシア企業「ソーシャル・デザイン・エージェンシー(SDA)」「ストラクトラ」とその創業者らの資産凍結を発表した

「ドッペルゲンガー」は、欧州や米国の主要なニュースメディアサイトを偽装する親ロシアの影響工作ネットワークとされる。

2022年4月ごろから欧州連合(EU)やウクライナを中心に活動が確認されてきた。2023年7月末にはEUの制裁対象にもなっている

※参照:偽装メディア・偽スウィフト…親ロシア影響工作ネット「ドッペルゲンガー」にも生成AIの影(12/14/2023 新聞紙学的

今回の米財務省の措置は、やはり2024年米大統領選に向けた措置だ。

また、カナダのトロント大学マンク国際問題・公共政策大学院の「シチズンラボ」は2月7日、中国発とみられる、やはりローカルメディアを偽装したサイトのネットワーク「ペーパーウォール」の存在を明らかにしている

それによると、欧州、アジア、中南米30カ国で、ローカルメディアを装う123のサイトが確認できたという。それらのサイトでは、親中国のメッセージが発信されていた、という。この中には日本も含まれる。

日本のケースでは、「福岡新聞」「銀座新聞」などと名付けた15サイトが確認されている。

NHKの3月2日付の記事によれば、これらのサイトは、NHKや日本の大手ニュースサイトなどから画像などを無断使用していたという。

●偽装メディアがニュースメディアを飲み込む

AIを活用した米国のメディア偽装サイト群「ピンクスライム」や、情報戦のネットワークとみられる「ドッペルゲンガー」「ペイパーウォール」などのサイト群は、偽情報・誤情報による情報空間の汚染を加速する。

米国では、そのメディア偽装サイトが、本物のサイトと拮抗する勢いを見せる。

AIが量産する偽物が大勢となった情報空間に残るのは、不信と混乱だけだろう。

(※2024年4月5日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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