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マスク氏発信の偽誤情報87件「20億回閲覧」、米大統領選で英NPOが分析

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
トランプ氏の選挙集会で登壇するマスク氏=10月27日、ニューヨーク(写真:REX/アフロ)

Xのオーナー、イーロン・マスク氏による米大統領選関連の投稿のうち、偽誤情報と判明している計87件の閲覧数は20億回に上る――。

英NPO「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」は11月4日、そんな調査結果を公開した。

マスク氏は7月に共和党大統領候補のドナルド・トランプ前大統領の支持を表明。それ以来、マスク氏が続けてきた政治的な投稿の閲覧数は、計171億回になるという。

マスク氏のXのフォロワー数は2億人超、バラク・オバマ元米大統領を超えて世界トップだ。その影響力を、米大統領選における「拡声器」として活用してきたことになる。

●間違った主張「有権者の輸入」

マスク氏の今年の投稿のうち、少なくとも87件が、ファクトチェッカーが虚偽または誤解を招くと評価した米国の選挙に関する主張を宣伝しており、20億回の閲覧数を獲得した。これらの投稿はいずれも、Xのユーザーによるファクトチェックの名称であるコミュニティノートはついていなかった。

「デジタルヘイト対策センター」は米大統領選投票日の前日、11月4日に公表した調査結果で、そう指摘している。

調査によると、マスク氏の偽誤情報を含む投稿の中でも目立つテーマが、移民問題に関する民主党、および同党大統領候補、カマラ・ハリス氏への攻撃だという。

マスク氏は10月20日、別のアカウントによるグラフを引用する形で「過去4年間、主要州で不法入国者が3桁増加。かつてない規模の有権者の輸入!」と投稿。閲覧数は2,120万回に上る。

マスク氏はこれ以外にも、民主党を標的とした「有権者の輸入」という主張の投稿だけで66件、閲覧数は約13億回に上るという。

「彼ら(民主党)は有権者を輸入している。それは明らかだ」との9月27日の投稿は、閲覧数4,730万回となっている。

米ファクトチェック団体「リードストーリーズ」のファクトチェックでは、上述の引用グラフは不正確で、「有権者の輸入」については、移民がただちに投票権を得ることはない、と指摘している。

「有権者の輸入」が誤りであることは、他の複数のメディアのファクトチェックでも、繰り返し指摘されている。

マスク氏はこのほかに、投票の信頼性を巡っても、郵便投票と電子投票機を批判する偽誤情報を含む19件の投稿を行い、約5億3,200万回の閲覧数を獲得しているという。

マスク氏は9月3日、「身分証明書を必要とせず、それを郵便投票と組み合わせることで、不正を証明することが完全に不可能になる」と投稿し、閲覧数2,390万件を集めた。

だが独公共メディア「ドイチェ・ヴェレ」の報道によると、郵送投票による不正行為は極めてまれだとされている。

●2億フォロワーの影響力

今回の大統領選で注目されるのが、偽誤情報拡散におけるXのオーナーとしてのマスク氏の影響力だ。

「デジタルヘイト対策センター」の調査では、さらにこんな結果も明らかにしている。

マスク氏が7月にトランプ氏支持を表明して以来、政治的な投稿の閲覧数は171億回に上る。「デジタルヘイト対策センター」は、マスク氏の投稿を調査し、Xの米国政治キャンペーン広告の公開データセットの一部として公開された広告と比較。マスク氏の投稿と同程度の閲覧数の政治キャンペーン広告を出すには、2,400万ドルの費用がかかると見積もった。

X・ツイッターのフォロワー数の従来のランキングでは、トップの常連は元米大統領、バラク・オバマ氏だった。

だが、マスク氏による買収から5カ月後の2023年3月末、オーナーであるマスク氏がオバマ氏を抜きフォロワー数トップに躍り出る。

そして現在では、フォロワー数は2億300万人に上り、オバマ氏の1億3,200万人を大きく引き離す。

米メディア「ヴァージ」は2023年2月、マスク氏のX・ツイッター投稿を優先表示させるよう、アルゴリズムを大幅改修した、と報道した。

ウォールストリート・ジャーナルが2024年10月29日の検証報道でも、マスク氏の投稿が目立つ形で表示されることが確認できた、としている。

●オーナーの拡声器

マスク氏は「表現の自由の絶対主義者」を標榜し、偽誤情報対策などのコンテンツ管理も後退させてきた。

※参照:「ジャーナリスト追放」「マストドン排除」マスク氏の「表現の自由」の意味とは?(12/17/2022 新聞紙学的

※参照:「マスク流」フェイクニュース対策の後退がMeta、YouTubeに広がるわけとは?(08/28/2023 新聞紙学的

今回の米大統領選では、自らが偽誤情報を含む情報拡散の先頭に立ち、Xをその主張の「拡声器」としてフル活用している。

その結果が、間もなく判明する。

(※2024年11月6日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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