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なぜバルサはシャビを選ぶのか?メッシ、ネイマール、スアレスの「MSN」時代と差し込む希望の光。

森田泰史スポーツライター
アル・サッドのシャビ監督(写真:ロイター/アフロ)

後任監督決定は時間の問題かもしれない。

バルセロナは先日、ロナルド・クーマン監督を解任。セルジ・バルフアン暫定監督を据え、クラブは再出発を図った。

得点を喜ぶファティ
得点を喜ぶファティ写真:ロイター/アフロ

正式な後任として、ジョアン・ラポルタ会長が白羽の矢を立てているのがアル・サッドのシャビ・エルナンデス監督だ。すでにスポーツ部門副会長のラファ・ジュステとゼネラルディレクターのマテウ・アレマニーがカタールを訪れ、交渉に入ったとされている。

シャビ監督は、今年5月にアル・サッドと契約延長を行った。両者は2023年までの新契約を締結。その際、バルセロナ行きに関する特別な契約解除金が設定されたと報じられたが、これはシャビ自身が「正しくない情報だ。あと2シーズンのアル・サッドとの契約を尊重する。もちろん、公式なオファーと交渉があるのなら、その時はそれを尊重するつもりだ」と話していた。

2022年には、カタール・ワールドカップが控えている。シャビは、その親善大使を務めており、それまでシャビを監督として据えたいというのがアル・サッド側の本音だろう。

テーマになっているのは、シャビの違約金の支払いだ。500万ユーロ(約6億円)の違約金の支払いをめぐり、交渉が続いている。

■バルセロナとカタールの関係

バルセロナとカタールの関係は、因縁が深い。

2010年にサンドロ・ロセイ当時会長がスポンサーをユニセフからカタール航空に変更。6年半契約で、2億ユーロ(約264億円)が支払われた。

そこまでは良好な関係だった。だが、2017年夏に両者の間に決定的な溝が生まれる。

ネイマール・ジュニオールの移籍である。

QSI(カタール・スポーツ・インベストメンツ)がバックにつくパリ・サンジェルマンが、ネイマールの獲得に動いた。マルキーニョスやマルコ・ヴェッラッティと主力選手を毎年のように狙っていたバルセロナに対して、彼らは不満を抱いていたのかもしれない。いずれにせよ、契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)が支払われ、ネイマールはパリへ渡った。

■MSN時代の記憶

ネイマールの移籍は、大きかった。

だが、第一に、ネイマールの加入がバルセロナに及ぼした影響を考えなければいけない。

ネイマールは2013年夏にサントスからバルセロナに移籍した。その前年にクラブ・ワールドカップ決勝でバルセロナと対戦して、ペップ・グアルディオラ監督に移籍を志願したというのは有名な話だ。

ネイマールの加入で、バルセロナは、強力なアタッカーを擁することになった。【4−3−3】の左ウィングで、1対1の強さを誇り、突破力を武器に状況を打開する。それはリオネル・メッシへのマークを分散させた。一方で、圧倒的な攻撃力に、チームが依存し始めていた。

2014年夏にルイス・スアレスが加入すると、その傾向は強くなった。メッシ、スアレス、ネイマールの3トップは「MSN」と呼ばれ、スペインと欧州の脅威になった。そして、2014−15シーズン、ルイス・エンリケ監督の下、トリプレテ(3冠)を達成した。

だが、その14−15シーズン、「MSN」に頼るチームで、出場機会を失って行ったのが、他ならぬシャビだった。

前へ前へと攻撃の重心が傾いたチームで、全体は間延びした。中盤には、試合をコントロールできる選手ではなく、走れる選手が必要になった。そのため、L・エンリケ監督はシャビではなくイバン・ラキティッチを重宝するようになった。

14−15シーズン、バルセロナはビッグイヤーを獲得した。バルセロニスタは歓喜に酔った。ポゼッションを捨て、クラブ哲学に反したフットボールが展開していたにもかかわらず、だ。

MSN時代のバルサ
MSN時代のバルサ写真:なかしまだいすけ/アフロ

“国家クラブ”との宿縁でいえば、昨季レアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長が欧州スーパーリーグ構想をぶち上げた際、それに乗じてラポルタ会長は「このプロジェクトに関心を抱かないところがある。自分の国から投資ができる国家クラブが、そうだ」と言い放っていた。

今回についても、アル・サッド側はラポルタ会長が直々にカタールまで出向いて交渉の席に就くことを望んでいたようだが、ラポルタ会長はその要求を突っぱねている。

ただ、バルセロナとしては、このシャビ監督の招聘は失敗できない。2020年1月の段階で、ジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長がシャビを呼ぼうとして失敗した経緯がある。エルネスト・バルベルデ当時監督を解任して、その後任にシャビを据えようとしたものの、物事は順調に進まなかった。

解任されたクーマン監督
解任されたクーマン監督写真:なかしまだいすけ/アフロ

「僕はポジティブな性格だ。両クラブは話し合いを行なっている。共通認識の問題だ。最終的には、まとまるだろう。バルセロナとアル・サッドは僕のスタンスを知っている。この問題が迅速に解決することを願っている」

「メシア(救世主)になるかどうかの問題ではない。再び希望を抱けるようにならなければいけない。良いチームがあるが、ハードワークする必要がある。“イズム”を捨てて、同じ方向に向かうべきだ」

これはシャビの言葉である。

バルサはシャビの監督就任を疑っていない。シャビの“初陣”は現地時間11月20日のエスパニョール戦になるとみられている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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