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やっぱり「反省」していない? ワタミが「第三者委員会」を繰り返す理由とは?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです。(写真:アフロ)

ワタミの告発から1ヶ月が経過したが、事実関係は明らかにならず

 「ワタミの宅食」の営業所の所長による、筆者の記事を通じた告発から、1ヶ月以上が経過した。群馬県のワタミの宅食の営業所で所長を務めているAさんが、労働基準監督署からの残業代未払いの是正勧告、長時間労働、勤怠記録の改竄などを告発した事件である。

参考:「ホワイト企業」宣伝のワタミで月175時間の残業 残業代未払いで労基署から是正勧告

参考:ワタミがホワイト企業になれなかった理由は? 勝手に勤怠「改ざん」システムも

 ワタミの労働問題はその後、どうなったのだろうか? Aさんは個人加盟の労働組合・ブラック企業ユニオンに加入し、10月30日にようやく団体交渉が開かれた。しかし、 Aさんの労働問題の実態については、ほとんど明らかにされなかったという。

 長時間残業の原因をどう考えているのか。勤怠記録の改竄の実態についてどう考えているのか。会社はAさんに謝罪するのか。回答は一切拒否されてしまったというのだ。

 告発の直後、ワタミは「当該社員の主張を真摯に受け止めて、当該社員に深く謝罪いたします。 労働基準監督署に未払い賃金の内容についてご指示をいただきながら精査を行い、全面的に当該社員の主張を受け入れる所存です」とまで言い切ったはずだった。一体、この一ヶ月で何があったのだろうか。

 実はワタミは「特別調査委員会」、いわゆる「第三者委員会」を立ち上げ、その調査の報告が出るまでの間は、Aさんの労働問題について回答できないという主張を展開しているという。この委員会の調査には、3ヶ月かかるとのことだ。

 Aさんからすれば、調査結果まで3ヶ月間も待たされるわけだ。しかも、この特別調査委員会には疑問ばかりだという。一体、何が起きているのだろうか。

Aさんへの説明は9日後! 一方的に設置・公表された特別調査委員会

 まず、経緯を確認してみよう。 Aさんが9月28日から告発を続け、ワタミに団体交渉を求めていた矢先の10月7日、ワタミの公式ホームページに、「特別調査委員会(仮称)の立ち上げについて」と題された書面が突然公表された。「会社から独立した中立・公正な社外有識者のみで構成される「特別調査委員会」を設置することを決定」したというのだ。「調査の期間は、3か月を目途」としているという。ホームページを見たAさんは、何の相談もない立ち上げと公表に驚いた。

 この日、ブラック企業ユニオンの担当者のもとに、特別調査委員会の委員を名乗る弁護士から電話がかかってきた。Aさんに対して、労働問題に関するヒアリングをしたいというものだ。

 しかし、特別調査委員会の構成員、調査の目的や調査したい内容、調査のスケジュール、事実を認定する手続きについては、何も知らされていない。そんななか、実態が不明である調査委員会から、一方的に協力を求められても約束できるはずがないというものだ。

 ユニオン側は、協力以前に書面で情報を提示するように求めたところ、書面が送られてきたのは9日後の10月16日のことだった。

 そもそも調査委員会の設置については、Aさんは全く同意したこともなければ、打診されたわけでもない。一方的に設置を決定した事実がワタミの公式ホームページで先行的に世の中に発表され、詳細についてAさんに知らされたのが9日後というのでは、信頼してくれというほうが無理があるだろう。

 

本当にこの委員会は「中立」なのか?

 しかも、この調査委員会は、ある一つの法律事務所の弁護士が担当することが分かったのだが、この弁護士事務所の弁護士が労働者の視点に立った調査ができるのかどうかにも疑問符がつく。

 まず、この法律事務所のホームページを見る限り、労働者による権利行使という観点はほとんどなく、「労働法」というカテゴリはあるものの、基本的に企業側の弁護が主な業務とされており、わざわざ「労働組合対策」という項目まで挙げられている。

 実際、ブラック企業ユニオンでは、この弁護士事務所に所属する弁護士が相手方企業の代理人となった団体交渉を行ったことがあり、ユニオンの担当者は、そのときの経験からこの弁護士事務所の弁護士の対応に不信感があったという。

 この弁護士は、会社側の残業代不払いを正当だと主張し争ったという。第三者委員会を任せるのであれば、「企業側の残業代対策のプロ」ではなく、労働者側の見解を受け止められる人物にすべきだろう。

 そもそも、特別調査委員会を設立するにしても、なぜこの弁護士事務所をワタミは選んだのだろうか。団体交渉でも、回答は得られなかったという。せめて誰を委員に選ぶかについて、Aさんやユニオン側の意見を聞いても良かったのではないだろうか。

過去にも行われていたワタミの第三者委員会とその限界

 さらに、ワタミと第三者委員会に関する問題は、今回にとどまらない。実は、ワタミが第三者委員会を設立するのはこれが初めてではない。会長の渡邉美樹氏が参議院議員選挙に出馬した2013年、投票日を前に「ブラック企業」との批判が再燃する最中に、同社の法令遵守について調査すべく「外部有識者による業務改革検討委員会」の立ち上げを発表している。

 この委員会が2014年に出した報告書では、同社に「労働基準法等の労働者保護法規を遵守しようとする努力を行なっていることは認められている」としながらも、「始業終業時刻の適正な打刻がなされていない場合がある」と指摘されていた。

 今回のAさんの労働問題もまさに、「始業終業時刻の適正な打刻がなされていない場合がある」という問題だ。すでに告発している通り、上司であるエリアマネージャーの圧力のもと、Aさん自身が勤怠記録を短めに打ったり、それをさらに全体の残業時間を睨みながら月末に短く修正せざるを得なかったし、何より上司が勝手に労働時間の記録を変更することもあった。

 2014年の第三者委員会の報告書で指摘された問題がいまだに改善されずに繰り返されており、その結果、月175時間という時間外労働が野放しにされていたというのでは、第三者委員会による調査や指摘は、ワタミにとって効果がなかったと言わざるを得ないだろう。

 こうした理由から、Aさんはワタミにおける第三者委員会の機能そのものに疑問を抱いているというが、それは当然のことだろう。むしろAさんは、ワタミが自分たち自身で調査を行い、団体交渉の場でAさんの指摘を受けながら、自分たちの問題に自分の力で向き合い、改善してほしいと願っている。

労働者に向き合うことを避け続けるワタミ

 しかし、ワタミは自社で正確な調査ができないとして、特別調査委員会を設置し、それを理由として労働の実態についての回答を一切拒否している状態だ。特別調査委員会ですら、「当委員会の調査によって労働者の団体交渉権が阻害されるような事態は想定しておらず」と言っているにもかかわらずである。

 さらにワタミは、調査委員会を理由として、長時間労働などによるAさんの精神障害の労災申請にすら、調査委員会の結果が出るまで協力できないという。精神障害の労災申請は、通常6ヶ月間で決定する。そのうち3ヶ月間も会社が協力しないのであれば、Aさんの労災申請の妨害である。

 「全面的に当該社員の主張を受け入れる所存」「深く謝罪」とまで言っておきながら、Aさんとの話し合いを実質的に避けるのは、矛盾していると言わざるをえないだろう。それは、結局これまでのワタミの体質から何ら抜け出せていないということになる。

 ワタミはこれまでも、労働者と向き合うのではなく、常に社会的な批判に対する「火消し」のアピールにばかり終始してきた。「ホワイト企業大賞」に自ら応募して「特別賞」を受賞したことを大々的に発表したこともそうだ。

 Aさんの労働に対する労働基準監督署の是正勧告が9月15日に出ていたのにAさんに対して2週間の間向き合わず、9月28日の告発を受けてその当日にホームページに謝罪文を掲載したことも同じだ。

 もちろん、迅速な対応自体は必ずしも悪いことではない。しかし、その狙いは対外的な「火消」であって、本当に問題と向き合うことを巧みに避けることなのではないか。

 今回の特別調査委員会も、3ヶ月間ものあいだ、「調査委員会が調査中なので答えられない」という、事実関係を明らかにしないで良い「口実」を得ることによって、「ブラック企業」という批判のほとぼりが冷めるまで「時間稼ぎ」をしようとしているように見えてならない。

 ワタミには、この機会に労働者にしっかり向き合ってほしい。そしてワタミで働く労働者は、ぜひ会社に対して声を上げてみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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