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急にお腹周りが大きくなったら要注意  5月8日は世界卵巣がんデーです

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
下腹部の違和感が続くようなら婦人科系疾患かも(写真:アフロ)

サイレント・キラー

卵巣がんは、女性特有のがんの中でもマイナーな存在だ。それでも世界中で毎年25万人もの女性が卵巣がんの診断を受け、14万人が卵巣がんのために命を落としている。卵巣がんは、早期に発見して治療できれば治癒率が非常に高い。しかし現在までのところ、早期に発見できる有効な検査がなく(子宮がん検診では、発見できません)、自覚症状に乏しいため、大半の患者はがんがすでに進行した段階で診断を受ける。

このため、例えば乳がんの診断を受けた人の5年生存率は89%だが、卵巣がんでは45%にとどまっている。残念ながら婦人科がんの中では一番、死亡率の高いがんであり、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれている。

私自身、卵巣がんの診断を受けた時も、たまたま下腹部にコブのようなしこりがあるのに気づいただけで、特に不調を感じた覚えもない。少し食べただけで膨満感があり、食事量が増えたわけではないのに、ウェスト回りだけ急に太くなったのは40歳を過ぎた証拠だと思い、腹筋運動に精を出していたのだが、後になってこれも卵巣がんの初期症状だと知った。

孤独な卵巣がん患者

筆者は米国在住のため、米国で手術と化学療法による治療を受けた。明るく誠実な医師、頼もしい看護師のおかげでスムーズに治療を終えることができたが、診断を受けるまで卵巣がんに対する知識は皆無。テレビで乳がんや肺がんのニュースは目にしても、卵巣がんが話題に上ることはなく、取り残されたように感じ、不安は大きかった。

心配してくれる家族や友人の存在はありがたかった。けれど「健康な人には、私の気持ちはわからないだろうな」と皮肉な感情を抱いては、孤独感を深めてしまうこともあった。こんな時、気持ちの拠り所になるのが、患者会である。家族に言えないことも、似たような境遇にある患者、サバイバー同士なら、言える時もある。

だいじょうぶ、ひとりじゃないよ

2013年5月8日からはじまった「World Ovarian Cancer Day(世界卵巣がんデー)」は、こうした世界各地の卵巣がん患者会が、連帯を感じながらともに卵巣がん啓発に取り組もうという試みである。これまで31カ国から、100を超える患者団体が参加。今年もすでに卵巣がん患者らがフェイスブック、ツィッターなどを使い、世界各国から卵巣がんについて発信しはじめている。

日本からも「卵巣がん体験者の会 スマイリー」(片木美穂代表)が、初年度から参加している。スマイリーは、「だいじょうぶ、ひとりじゃないよ」を合言葉に、オンライン上で卵巣がん患者と家族の交流や活動を行っている患者会である。治療ガイドラインや臨床試験に関する情報を、患者目線でわかりやすくまとめた冊子も、スマイリーのホームページ上で公開しており、頼りになる存在だ。

また5月20日には、世界卵巣がんデーのイベントとして、専門家、医師を招いての東京卵巣がんフォーラム2017を開催する。(一般受付は5月1日より)

卵巣がんに立ち向かう患者会

患者会というと、患者同士が悩みを打ち明ける場といったイメージを持つ人がいるかもしれないが、米国の患者会は交流活動だけではなく、資金集めをしては、啓発運動や患者学会の開催、研究予算の確保に向けた政府への陳情と、幅広い活動を行っている。

米国には多数の卵巣がん患者会があるが、2015年の夏からは、がん研究の募金プロジェクトS↑2C(スタンドアップ・トゥー・キャンサー)と卵巣がん研究基金(OCRF)、卵巣がん全米アライアンス(OCNA)、全米卵巣がん連合(NOCC)が共同で資金提供し、がん研究を進める試みも行われている。全米から選ばれた研究者らによる「ドリーム・チーム」が、卵巣がんのDNA修復セラピーや予防、早期発見にむけた研究に今も取り組んでいる。

日本でもスマイリーも活動を開始した2006年から、当時、米国では再発卵巣がんの治療に使われていた薬剤が、日本では卵巣がんには未承認で使えないという事態について署名活動やシンポジウムで広く社会に訴え、この「ドラッグ・ラグ問題」解決に向けて国に働きかけた。

卵巣がんは手術と抗がん剤で効果的な治療を行うことができるが、再発治療を繰り返すうちに、薬に耐性を持つようになり抗がん剤が効きにくくなっていく。このため卵巣がん患者が命をつないでいくためには、使える抗がん剤の確保や、耐性がネックにならないような新たなタイプの治療薬の開発が不可欠なのだ。

医療は日進月歩。より効果的な治療を求めて世界中で行われている研究の成果が、すべての卵巣がん患者のもとに一日も早く届いて欲ほしいと思う。

体からのSOSを無視しないで

5月8日の世界卵巣がんデーに向けて、ぜひ、卵巣がんという病気について知り、家族や友人と話題にしてみてください。

卵巣がんのうち、約15%は遺伝性といわれています。血縁者に卵巣がん体験者がいる場合、あるいは50歳未満で乳がんを発症した人がいる場合は、卵巣がんを発症するリスクが高いといえます。特にBRCA1、BRAC2の遺伝子変異を持つ人、遺伝子変異により大腸がんになりやすいリンチ症候群の人、そして子宮内膜症がある人も要注意です。

一般的には50歳以上の女性が卵巣がんを発症するリスクが高まりますが、若くても油断は禁物です。初期症状は下腹の痛みや違和感、膨満感があり少し食べただけで満腹になる、ウェストのサイズが急に大きくなる、トイレが近くなるなど。「体の変わり目かな」と見過ごしやすい症状ですが、こうした症状が続くようなら必ず婦人科で診てもらって下さい。不調がなくても、心配な時に相談できるかかりつけの婦人科医を見つけておくのもいいですね。

女性のがんは、男性にとっても重要な問題です。卵巣がん患者は、男性達の大切な母であり、妻であり、娘であり、姉、妹、友人なのですから。

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』(エスコアール)がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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