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「試合」に向かう58歳の元統一ヘビー級王者

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:REX/アフロ)

 現地時間7月17日、マイク・タイソン(58)の代理人であるアンドリュー・ラフが、『USA TODAY』に、「元統一ヘビー級チャンピオンが練習を再開し、今月末にはボクシングジムに戻る予定である」と告げた。

 今日、開催されるはずだったジェイク・ポールとの2分×8ラウンドの試合は、テキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで11月15日セットされている。タイソンの胃潰瘍が再発し、治療を要したからだ。UCLAの消化器内科医であるダニー・イッサの治療を受けながら、この数週間は筋力トレーニングと有酸素運動をしているとのことだ。腹筋、背筋、体幹トレーニング、ロードワークをこなしているようである。

写真:REX/アフロ

 ラフは「何もかもが順調に進んでいます。UCLAの担当医は、タイソンを注意深く監視し、回復力に満足しています。7月末からジムワークを再開すべく、良い兆しを見せています。ドクターは、〇〇してはいけない等と、制限をかけずに済んでいます」と同紙にコメントした。

写真:REX/アフロ

 タイソン戦が流れた27歳のポールは、元総合格闘家のマイク・ペリーと戦うことになった。今夜、そのゴングが鳴る。ポールがこの試合に勝とうが負けようが、11月15日のタイソン戦は催されるという。同試合を配信するNetflixは、是が非でもこのファイトを実現する構えである。2分とはいえ、エキシビションではなく、ボクシングの公式戦だとアナウンスしている。

写真:REX/アフロ

 今が旬のYouTuber、ポールは唸るほどの財を成した。一見、ボクサーとしても真面目にトレーニングしているように映るが、この手の輩は目立つこと、ビューが伸びることを前提として動く。けっして、ボクシングという競技を極めようと努力するタイプではない。この、単なるエンターテイナーとしてリングに上がる点が、往年のチャンピオンたちから毛嫌いされている。

 タイソンの心境は、鬼退治ならぬ珍獣退治であろう。

写真:ロイター/アフロ

 しかし、タイソンが最後の世界タイトルマッチを戦ったのは、2002年6月8日で、当時の統一ヘビー級チャンプ、レノックス・ルイスに完膚なきまでに叩きのめされた。その後、引退までに3戦こなしたが、全て無名選手とのファイトである。

写真:ロイター/アフロ

 それでも、1度しか勝てなかった。白星も、直前まで「試合に出ない。キャンセルする」と駄々をこね、相手のモチベーションを下げたうえで、「やっぱり戦う!」とリングに上がるという姑息な手段を用いてのものだった。

写真:ロイター/アフロ

 確かに現在の最重量級はお寒い。だが、58歳のタイソンをリングに上げる意味が、本当にあるのか?

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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