実兄を射殺されたフェザー級の新星
ニューヨーク、ブルックリン出身の新鋭フェザー級、ブルース・キャリントン(27)が、デビューからの連勝を13に伸ばした(KOは8)。※直近のファイトは、2-0の判定勝ちで、非常に微妙な判定だった。このファイトを中継したESPN +、一人のジャッジがドローと採点した事に、筆者も同意する。
とはいえ、キャリントンがWBC3位のサウスポーに負けなかったことは評価したい。
ブルックリンといえば、ご存知のようにあのマイク・タイソンの故郷である。フェザー級でこれまでにWBCシルバー、WBOインターコンチネンタル、IBFインターナショナル、北米タイトルなどを獲得し、将来を嘱望されるキャリントンは語る。
「俺の故郷、ブルックリンのブラウンズビルはギャングの抗争が止まらないトラブルだらけの街だった。そのほとんどを、両親が俺から遠ざけてくれたけれどね…。
初めて目の前で人が殺害されるのを目撃したのは、おそらく5、6歳の頃だった。トラウマになったし、悪夢を見て育った。でも、そんな日常に身を置いていると、自然になっちまう。普通に『ああ、今日は火曜日だな』みたいな感覚さ」
しかし、2014年に起こった“事件”だけは、よくある話では済まされなかった。兄と共にTVゲームソフトを買おうと外出した折、その4歳上の兄、アイクが射殺されたのだ。
「アイクを撃ったのは、ギャングのメンバーだったらしい。俺が7歳だった時から、一緒にジムに通い、ボクサーとして出世しようと誓った兄だった。アイクの存在があったから、ボクシングで夢を描き、集中できたんだ。
今、この瞬間も、兄を失った経験が俺の体の中に刻み込まれている。アイクの死は、俺を大きく変えた。彼は俺がボクシングでトップとなることを望んでいた。だから、今も一緒に戦っているつもりだ」
キャリントンは、自身が着用するトランクス、ガウン、グローブ、タオル等、全てにアイクの名前を入れている。
「兄の死以降、俺は生き方をより真剣に考えるようになった。彼が亡くなった際、もちろん精神的には落ち込んだよ。今ほどの自信や確固たる信念、ボクシングへの献身的姿勢が足らなかった。アイクを失ったことで、人生がいかに脆いものか、物事が簡単に奪われてしまうのかを理解したんだ。生命を最大限に活用しなければいけないと、思い知らされた。いつも100パーセントの気持ちで、何事も全力で向かわねばならない。それは兄が望んでいたことなんだ」
直近のファイトで10回判定勝ちを収めたキャリントンは言う。
「自分の不幸を誰かのせいになんか出来やしない。思い通りにコトが運ばなくても言い訳なんか誰も聞いちゃくれないのさ。すべては自分次第。何かが上手くいかない場合は、他の方法を見つけなければ。
俺はボクシングを通じて、生きることを学んだ。人間性を構築してくれたのはリングだよ。お陰で、成長したと感じている。俺、故郷の評判を変えたいんだよね。 素晴らしいものがたくさん生まれている。善良で賢く、そして意欲的な人々の存在がある。メディアがそういったことを報道しないだけで、素敵な場所なんだぜ」
兄の死を乗り越えながら上を目指すブルース・キャリントン。現在、WBA、WBC、WBOで2位、IBFで8位にランクされている。タイトル挑戦の日は、いつになるか。