張本勲氏の「J2は野球でいうと2軍」発言にモノ申す 野球とサッカーの仕組みの違いをもっと勉強せよ
今朝のTBS系列の報道番組サンデーモーニングで、キングカズこと三浦知良選手の最年長ゴール記録更新のニュースについて、野球解説者の張本勲氏がこんな主旨の発言をして物議を醸している。
選手個人に対する評価は人それぞれ違うため、キングカズに対する「アドバイス」については特に言及するつもりはない。問題は「J2は野球でいうと2軍」という発言だ。この認識は間違っている。
プロ野球が戦前から国民的スポーツとして親しまれてきた日本において、まだJリーグが発足して20年余りのサッカーがこのように誤解されてしまうのは致し方ないとも言える。私も先週、すすきので飲んでいる時にご年配の日ハムファンの方に「コンサドーレは所詮2軍みたいなもんだ」と揶揄されたばかりだ。
ここでその誤解を解くために、日本において根本的に異なる野球とサッカーの仕組みについて解説する。
野球とサッカーとの間で最たる相違点とは?
まず野球とサッカーで大きく異なる点は、上位リーグと下位リーグで毎年チームの入替が行われるか否か、というポイントだ。
野球は長年、セ・リーグ6球団、パ・リーグ6球団と固定されており、1シーズンでどんなに負けがこんでも(最悪全敗したとしても)、翌年もその球団は同じリーグでプレーできる。イースタン・リーグ、ウエスタン・リーグという2軍のためのリーグが存在するが、1軍2軍の間で選手の行き来があっても、球団の入替は行われない。加えて各地域に独立リーグが存在し、全国ではアマチュアの社会人野球も行われているが、日本野球機構(NPB)との間で球団の入替は発生しえない。
それに対してサッカーはJ1リーグをピラミッドの頂点にして、J2、J3、JFL、地域リーグ、都道府県リーグと全国にすそ野が広がっている構造になっている。各カテゴリーの上位下位で毎年、数クラブの入替が行われるルールとなっており、地方の弱小クラブでも上のカテゴリーを狙える仕組みだ。
サッカーにおいても、2軍のリーグ(Jサテライトリーグ)が2009年まで運用されていたが、現在は廃止された。セカンドチーム(2軍)が下位カテゴリーのリーグに参加しているクラブはファジアーノ岡山などの事例があるが、全体的にはレアなケースである。
J2のクラブは決して「野球でいう2軍」ではない
この仕組みを見てもらえばわかる通り、J2に所属するクラブは個別経営がなされたプロフェッショナルのクラブであり、決して経営母体が上のカテゴリーにいる2軍チームではない。
J2に所属するクラブからもサッカー日本代表選手に選出されることが多々あるし、今季は5年前のワールドカップで得点王となった元ウルグアイ代表のフォルランがJ2でプレーしている。そんなワールドクラスな選手が2軍でプレーすることなんて、野球でもありえないだろう。
国を代表するような選手が所属するリーグが「所詮2軍」と揶揄されるのは、J2に所属するクラブのサポーターも黙っていられないはずだ。今年はJ1経験クラブが半数の11チームに達しており、J1に全く引けをとらないクオリティがJ2リーグには存在する。
常に「世界」とつながっているサッカーの仕組み
余談だが、日本サッカー界には天皇杯というカップ戦がある。毎年元日に決勝戦が行われる大会といえば、サッカーに興味のない人でもご存じではないだろうか?
このカップ戦は基本的に全国の都道府県リーグに所属するチームが予選に参加可能で、トーナメントを勝ち上がっていけば最終的にJリーグ上位のクラブと対戦できる仕組みになっている。
Jクラブにも勝って天皇杯を優勝すれば、アジアのクラブ王者を決めるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)への出場権を得ることができる。更にそのACLを優勝すれば、毎年12月に開催されるクラブワールドカップへの出場権を獲得でき、ヨーロッパのクラブ王者(昨年はレアル・マドリード、一昨年はバイエルン)への挑戦権を得ることができるのだ。
つまり、どんなに地方の弱小チームでも地域予選を勝ち上がって天皇杯を優勝すれば翌年のACLに出場できて、「世界一」を目指す道が構造上は用意されているということだ(追記:ACLへはJ1ライセンスを保持したクラブのみ出場可能なため「どんなに地方の弱小チームでも」という表記は誤りでした。この場で訂正して謝罪します。申し訳ありませんでした)。こんなに夢のある仕組みがあるスポーツ競技は、世界で最も人気のあるサッカー以外にありえないだろう。
キングカズを含めて、J1より下位のカテゴリーに所属する選手たちも、そんな果てない夢をみながら日々トレーニングに励んでいる。「所詮2軍」というレッテルは是非外してもらって、下位のカテゴリーのリーグにもたくさんの人に興味を持ってほしい。J2クラブのいちサポーターとしての願いだ。