シッチェス映画祭レポート1日目。映画祭とナショナリズム、独立に燃えるカタルーニャで起こった意外な変化
スペイン、シッチェスの国際ファンタスティック映画祭(10月5日から15日)が始まった。
昨年は『君の名は。』がアニメーション部門の最優秀長編作品賞を受賞し「世界が認めた!」と大いに話題になったが、実はその前年も日本のアニメ『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』が同賞を受賞済み。昨年は『アイアムアヒーロー』も観客賞を獲った。ファンタスティック(ホラー、スリラー、SF、サスペンス、アニメ)は、世界に誇る”日本のお家芸”であり、今年も公式コンペティションだけで3本(三池崇史監督『無限の住人』と矢口史靖監督『サバイバルファミリー』、黒沢清監督『散歩する侵略者』)、全体では17本も大量ノミネートされており、賞獲りが期待される。
そんなシッチェスなのだが、スペイン在住ジャーナリストとしては別の興味もあった。
シッチェス事務局の勇気ある決断
10月1日にカタルーニャ独立を問う非合法(政府側見解)の住民投票(民主主義の権利。投票者側見解)が強行されたことで、緊張感が極限に高まっているカタルーニャは、どうなっているのか?ということだ。だが、ここシッチェスには抗議デモも張り紙もない。バルセロナから車で30分ほどの高級リゾート地だから「金持ち喧嘩せず」なのか。
逆に、カタルーニャ独立を残念に思う私には意外な良いニュースがあった。去年まではカタルーニャ語だけだった記者会見に、今年はちゃんとスペイン語の通訳が付いているのだ。
去年ここでも書いた通り、園子温監督が来てもクリストファー・ウォーケンが来ても通訳は、日本語⇔カタルーニャ語、英語⇔カタルーニャ語オンリーだった。カタルーニャ語を理解できない方が悪い、と言わんばかりに(ちなみに、やはり独立運動が盛んなバスク地方、サン・セバスティアン映画祭では、バスク語ではなくスペイン語訳だった)。
760万人のカタルーニャ語話者を優先して4億2000万人のスペイン語話者を無視することは、明らかに国際交流にマイナスだが、そのマイナスをあえてすることが、カタルーニャの国際社会へのアピールだったのだ。だが、独立の機運がにわかに高まっている今年、事務局はスペイン語に門戸を開いた。愛する国のことを世界へ伝えるのにはその方が良い。これを“反ナショナリズム”だと言い出す馬鹿がいないことを期待する。
さて、この事務局の勇気ある行動を称え、6日記者会見に臨んだ『エクソシスト』、『フレンチ・コネクション』の監督ウィリアム・フリードキンがカタルーニャ独立運動について語った言葉を紹介しよう。
フリードキン「アメリカでは多くの人々が犠牲になった」
「アメリカは反乱を起こした。あれも合法ではなかったが、それでも止めなかった。民主主義に政府の合意は不可欠だ。我われは平和的な合意への道を探さねばならない。
アメリカもまた分裂した国だ。文化的、人種的、政治的にいくつもの亀裂がある。アメリカは暴動も経験しているが、カタルーニャでは暴力的なものは目にしていない。住民投票の日はフランスにおりテレビで見ていたが、デモは平和的に見えた。今マドリッド側との平和的な対話が求められている。それが唯一の道だ。
私はどっちが正しくてどっちが悪いのかはわからない。昨日のインタビューで同じ質問をされた。そのジャーナリストは60歳代前半でここ(カタルーニャ)で生まれ育った人間だった。彼の意見を聞くと『私は独立派だ』と答えた。その理由は『マドリッドに多くのものを与えたのに、少ししか尊重されていない』だった。住民投票が非合法だったのを知っているが、アメリカの反乱もまた非合法だったのだ。
イギリスは軍艦をアメリカへ送り込み、多くの人々が犠牲になった。そしてそれはアメリカの武装をも促した。そんなことをここでは繰り返して欲しくない。
ここ(会見場)にいる者全員が求めているのは平和だと確信している。なんと美しい街、バルセロナ……。平和な対話を期待したい。
あなたたちへ神のご加護がありますように」