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主演作が続く松本穂香が『君が世界のはじまり』で見せた青春像 「本人がわかってなくても出たものが正解」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『君が世界のはじまり』に主演する松本穂香(撮影/河野英喜)

昨年から『おいしい家族』、『私は光をにぎっている』、『酔うと化け物になる父がつらい』と主演映画の公開が続いている松本穂香。退屈な町で何者でもない自分を持て余す高校生たちを描いた『君が世界のはじまり』でも、悩みがないように見えて秘密を抱える主人公を演じている。若手女優の中でも独自の存在感を漂わす彼女が、この青春映画に何を刻んだか?

基本フラットで色を付け過ぎないように

『君が世界のはじまり』で松本が演じた縁(ゆかり)は大阪の高校2年生。自分のことを“えん”と呼ぶ幼なじみの琴子(中田青渚)につき合って、よく授業をサボるが、成績は学年で1番。どこの大学にも行けるため、逆に迷っている。

――『君が世界のはじまり』はいわゆるキラキラ系ではない青春映画ですが、リアリティを感じたところはありましたか?

松本  人を好きになる気持ちとか、片想いで悩んだりとか、そういうものは映画の登場人物たちと同じように、私も学生時代にあったんじゃないかと思います。

――「軽音楽部にいた好きな男の子が……」とのコメントが資料にありました。

松本  そういう時期もありました(笑)。青春ですね。

(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会
(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会

――えんを演じるうえで大切にしたことには「いい意味でこだわりを持たない」を挙げてました。直感的に今回はそうしようと?

松本  えんという子は、あまり自分の中のものを出さないので。みんながいろいろ考えている中で基本フラットでいるから、色を付け過ぎないほうがいいかなと、台本を読んでいるうちに思いました。ハッキリではないですけど、観ている人と同じ立場という役回りに感じました。

――つまらなそうにしていたかと思ったら、急に笑ったりもしてました。

松本  本当にフラットなんだと思います。たたずまいがちょっと不思議な感じがしました。でも、人を好きになる気持ちや温かいものを感じる心はあるので、純粋さは大事にして演じました。

撮影/河野英喜
撮影/河野英喜

追い掛けても追いつけないのが魅力的で

――えんは成績は学年で1番。幼なじみで親友の琴子は奔放で口が悪くて、成績は学年ビリ。そんな2人の関係性はどう捉えました?

松本  えんを優等生とは意識しなかったです。琴子は学校でも街の中でも他と違って光る存在というか、追い掛けても追いつかないようなところが魅力的だなと思いました。

(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会
(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会

――松本さんの高校時代にも、そういう存在はいました?

松本  琴子ほどの人はいませんけど、自分と性格が全然違って活発な子を羨ましいと思う瞬間はありました。自分もそうなりたいとか憧れるわけではなくても、自分にないものを持っている人には、やっぱり惹かれますね。

――えんも琴子につき合って授業はよくサボりながら、成績は1番というのはカッコよくないですか?

松本  本当は勉強が好きで夢もあって、でも、サボる理由もちゃんとあって……。そこはあまりわかりやすく出ていませんけど、複雑な面があるのかなと思いました。

高校生の頃も今も自信はなかなか持てません

――クライマックスの走るシーンは大変でした?

松本  そうですね。カメラマンさんとの呼吸もあるし、なかなかうまく撮れなくて、何度も挑戦しました。でも、息が切れるくらいが、ちょうど良かったのかもしれません。

――普段から体力作りで走っていたりは?

松本  あまり激しく動くことはないです。でも、撮影では走るシーンが結構あります。

――今回はOKが出たらヘトヘトに?

松本  そのあとに水たまりのシーンも繋がっていたので、本当にそうなりました。

(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会
(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会

――あの水たまりのシーンは青春っぽい感じがしましたが、松本さんの中で自分の青春時代の象徴として記憶に残っているような場面はありますか?

松本  部活動ですかね。演劇部でぶつかり合うこともありました。1対1でケンカというより、「ここはこうだよね!」とかみんなで言い合って、泣いちゃう子もいました。そういうのは今思えば、青春だったかなと思います。

――今も高校生の頃と変わってない部分はありますか?

松本  いっぱいあります。というか、ほとんど変わってません。たぶん人って、そんなに変わらないと思うので。いろいろ勉強したり、経験から学習して、一度失敗したことはやらないとかはあっても、性格の根本的なところは変わってない気がします。

――では、高校生の頃と同じようなことで悩んだりも?

松本  自信がなかなか持てなかったり、自分の中のマイナスな部分は今もあるかなと思います。

――女優さんとしてこれだけ活躍していても、自信が持てないと?

松本  うーん……。何て言ったらいいかわかりませんが、そういう部分はずっと持ち続けているかもしれません。お芝居をやっていて悩んだり、ネガティブになることもあります。すごく悩むまではいかなくても、そういう瞬間はあります。

撮影/河野英喜
撮影/河野英喜

わかりやす過ぎても面白くないから

――『君が世界のはじまり』の撮影でも、悩むことはありました?

松本  えんの役柄自体がちょっと難しかったです。琴子や周りの人への気持ちをどこまで出すか。あまり答えを出し過ぎても、観る方に楽しんでもらえないので、そのあんばいをどうするか。監督のふくだ(ももこ)さんと相談しながらやらせていただきました。

――確かに、えんはつかみどころのないキャラクターでした。

松本  わかりやす過ぎても面白くない。たぶん観る人によって感じ方が全然違って、答えという答えはなく、いろいろな解釈があっていいと思います。最後に何か見えるものがあれば。

(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会
(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会

――ピンポイント的に、えんの心情が掴みにくかったシーンはありませんでした?

松本  あまりなかったですね。そこで出たものが正解でいいと思ったりもしました。本人もわかってない気持ちがいっぱい詰まっている作品なので、それでいいのかなと。

――琴子がひと目惚れした業平に、「ごはん食べた?」って、家族との夕食に誘ったのは唐突な感じもしました。

松本  それも面白いなと思いました。えんも別に考えて言ってないというか、つい口に出ちゃったんだけど、業平くんとは言葉にできない繋がりがあったと解釈しました。

――えんは業平にはからかうようなことをしたり、お茶目なところもありますね。

松本  業平くんと一緒だったから、出てきた部分があると思います。琴子といるときはどうしても受け身で、業平くんとは同じ空気感だからリラックスしていたんでしょうね。

撮影/河野英喜
撮影/河野英喜

「今回は引っ張ってほしい」と言われました

――ふくだももこ監督とは『おいしい家族』に続くタッグとなりました。何か言われたことはありました?

松本  前回と違って、演技経験の少ない方や私より年下の方がいらっしゃったので、「穂香ちゃんに引っ張ってもらいたい」と言われました。それで、私も「ちょっと違う意識で臨まなきゃ」と思っていました。

――現場で引っ張るためのふるまいをしたんですか?

松本  とにかく、えんと琴子がいつも一緒にいることが大事かなと思ったので、ずっと中田さんといるように心掛けました。あとは撮影に入る前のリハーサルから、琴子との関係性をみんなで話し合いながら作っていった感じです。

――松本さんは現在23歳で、「高校生役は最後のほうかな」みたいなことは考えました?

松本  「大丈夫かな?」と思ったりはしましたけど、CMでもやっているし、周りも「大丈夫だよ」と言ってくれたので、いつまでできるかはわかりませんけど、お話があれば……という感じです。

――今、高校生に戻れるとしたら、どんな学校生活を送りたいですか?

松本  もっと真面目に授業を受けます(笑)。でも、たぶんそんなに変わらない高校生活を送ることになりそうだなと思います。

撮影/河野英喜
撮影/河野英喜

周りが変わっても自分の日常は変わりません

――この映画も含め主演級の作品が相次いで、充実感は大きいですか?

松本  いろいろなジャンルのお仕事をやらせていただいて、それぞれに得られるものがあるのはありがたいです。たくさんの方と繋がるきっかけにもなって、いろいろなお話を聞けることも多くなって、何かしら活かせているとは思います。

――この1年くらいで、特に嬉しかった評価はありますか?

松本  声を誉めていただくことが最近増えてきて、今まであまり考えてこなかったゾーンだったので、「そういうことを言ってもらえるんだ」と思いました。自分の新しい一面が見せられるんじゃないかと。

(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会
(C)2020『君が世界のはじまり』製作委員会

――主人公の声優を務めたアニメ映画『君は彼方』の11月公開も決まりました。そんなこんなで、ますます売れっ子になっていく中で、日常で変わらずにいたい部分もありますか?

松本  周りが変わっても、私の日常はそんなに変わってません。考え方とか何かしら、少しは変わってはきているでしょうけど、基本的なスタンスは変わらないようにして、向上心を持ち続けてやっていきたいです。

――仕事量は増えているかと思いますが、忙しい中で「こういう時間は確保したい」みたいなことは?

松本  友だちと会う時間ですかね。やっぱり、ちょっと息を抜ける瞬間がないとやっていけないので、お芝居と離れられる時間は大事にしたいです。

――ちなみに、外出自粛中のおうち時間はどう過ごしてました?

松本  映画を観ていることが多かったですね。最近観たのだと『パターソン』が面白かったです。アダム・ドライバーさんの日常っぽい感じのやさしい演技がすごく好きです。

――最後に『君が世界のはじまり』にちなんで、何かこれから始めたいことはありますか?

松本  楽器を弾く役がこれからあるので、ひとつの武器として、何かできるようになりたいです。まずは役のために、ギターをしっかり弾けるようになりたいと思います。

――歌はどうですか?

松本  歌うのは好きです。そんなに上手ではないので、なかなか人前で歌うことはなくて。でも、求められたら、やれることはやりたいなという気持ちです。

撮影/河野英喜
撮影/河野英喜

Profile

松本穂香(まつもと・ほのか)

1997年2月5日生まれ、大阪府出身。

2003年に主演短編映画『MY NAME』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『ひよっこ』、『この世界の片隅に』、『JOKER×FACE』、『病院で念仏を唱えないでください』、映画『おいしい家族』、『わたしは光をにぎっている』、『酔うと化け物になる父がつらい』など。ドラマ『竜の道』(カンテレ・フジテレビ系)に出演中。映画『君が世界のはじまり』が公開中。8月12日放送のコメディ番組『ん』(NHK)に出演。映画『青くて痛くて脆い』が8月28日、『みをつくし料理帖』が10月16日、アニメ映画『君は彼方』が11月27日に公開。

『君が世界のはじまり』

監督/ふくだももこ 配給/バンダイナムコアーツ

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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