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ホンダの体制発表で見えてきた、2018年の2輪ロードレースで楽しみなこと。全日本はワークス復活!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ホンダワークスに移籍する高橋巧【写真:本田技研工業】

本田技研工業は1月12日(金)に東京オートサロン会場で4輪レースの「SUPER GT」のチーム体制を発表すると同時に、国内選手権を含む2018年の2輪・4輪のモータースポーツ活動の体制を一挙にプレスリリースで発表した。「SUPER GT」の発表が中心だったため4輪レースの体制に注目が行きがちだが、2輪レースの体制からは実に興味深い要素が見えてきた。発表された今季の2輪・ロードレースの体制から読み取れるホンダの本気度を探っていこう。

MotoGPクラスにはルーキー3人

ロードレース世界選手権の最高峰「MotoGP」クラスは昨年11月に体制を発表している。今季もファクトリーチームは「Repsol Honda Team」としてマルク・マルケス(スペイン)、ダニ・ペドロサ(スペイン)で3年連続の最高峰クラス王座を狙う。マルケスとペドロサの組み合わせは今季で実に7シーズン目となる鉄板コンビだ。それに加えて、チームマネージャーには元500ccクラスのライダーでケーシー・ストーナーやダニ・ペドロサを見出したスペイン人、アルベルト・プーチが就任したことを発表した。

2017年のコンストラクターズタイトルを獲得した記念写真。左からクラッチロー、マルケス、ペドロサ。【写真:本田技研工業】
2017年のコンストラクターズタイトルを獲得した記念写真。左からクラッチロー、マルケス、ペドロサ。【写真:本田技研工業】

また、サテライトチームの「LCR Honda」が今季は2台体制に。「LCR Honda Castrol」はカル・クラッチロー(イギリス)が継続し、新規参戦となる「LCR Honda IDEMITSU」で中上貴晶(なかがみ・たかあき/25歳)が日本人ライダーとしては4年ぶりにMotoGPクラスにフル参戦する。マルケス、ペドロサ、クラッチロー、そして中上の4人がHRC(株式会社ホンダレーシング)の契約ライダーとなり、中上はデビューイヤーからファクトリーライダーの座を獲得。近年の日本人ライダーの中では最も恵まれた体制で出場することになる中上の初年度からの活躍に期待がかかる。

もう一つのサテライト「Estrella Galicia 0,0 Marc VDS」からは2017年に中上のライバルだったフランコ・モルビデリ(イタリア)とトーマス・ルティ(スイス)が参戦。今季、ホンダは最高峰クラス経験者3人に加え、「Moto2」からステップアップするライダーを3人も起用するというチャレンジングなラインナップになっているのが特徴だ。近年は「Moto2」からステップアップしたヤマハのヨハン・ザルコやジョナス・フォルガーらがいきなり「MotoGP」クラスで活躍するようになっており、実力派揃いのファクトリーライダーの後釜を狙うルーキーたちがホンダ内でも熾烈な戦いを見せる点も今季楽しみな要素だろう。

マレーシアGPでMoto2王者を獲得し、ウイニングランするフランコ・モルビデリ。将来を嘱望されるイタリアンライダーだ。
マレーシアGPでMoto2王者を獲得し、ウイニングランするフランコ・モルビデリ。将来を嘱望されるイタリアンライダーだ。

また、「Moto2」クラスは全車がホンダのエンジンを使用するレースのため、ファクトリー活動には当てはまらないが、昨年まで中上が所属した「IDEMITSU Honda Team Asia」に昨年から同クラスに復帰参戦した長島哲太(ながしま・てつた/25歳)が起用されることになった。昨年はプライベート参戦でランキング26位と苦しんだが、長島はしぶとく追い上げる力強いレースを何度か披露。「Moto2」のエンジンをホンダがデリバリーするのは今季で最後(2019年からはトライアンフ)になるので、そういう意味でも長島は次のステップに向けて勝負の年となる。

WSBKは3台体制で巻き返す

ファクトリー活動ではないが「スーパーバイク世界選手権(WSBK)」の体制も多くの変更があった。昨年、CBR1000RR SP2を投入するも不振のシーズンに終わり、シーズン中にはニッキー・ヘイデンを交通事故で失うという不幸な出来事があった。

WSBKのレギュラーとなるジェイク・ガニエ【写真:本田技研工業】
WSBKのレギュラーとなるジェイク・ガニエ【写真:本田技研工業】

今季は「Red Bull Honda World Superbike Team」にレオン・キャミア(イギリス)がMVアグスタから移籍。チームメイトには昨年ニッキー・ヘイデンの代役として参戦したジェイク・ガニエ(アメリカ)が起用される。そして、もう1チーム「Triple M Honda World Superbike Team」が1台体制で参戦するがこちらも名称を見てわかる通り、ホンダのトップチーム体制としての参戦で、ライダーにはスーパースポーツ世界選手権でMVアグスタを駆りランキング6位につけたパトリック・ジェイコブセン(アメリカ)が乗ることになった。ジェイコブセンはかつてホンダのライダーであり、2016年はホンダのライダーとして鈴鹿8耐に参戦し印象的な走りを披露したが、排気量1000ccの「WSBK」のフル参戦は初めてとなる。

全日本ロードレースはファクトリー復活!

2018年のホンダのレース活動の中で最も注目すべき点はファクトリーチーム「Team HRC」の全日本ロードレース選手権・JSB1000クラス(排気量1000cc)への参戦だ。リーマンショック以降、全日本ロードレースから姿を消したホンダワークスが復活し、マシン名も「CBR1000RRW」とワークスマシンの証である「W」の文字が帰ってきた。ホンダは全日本JSB1000では王座奪還を果たしたものの、鈴鹿8耐ではヤマハに3連敗を喫し、もうこれ以上の負けは許されない状況。そんな中、高橋巧(たかはし・たくみ)をライダーに起用して「HRC」(ホンダレーシング)本体として鈴鹿8耐の王座奪還を狙う。

全日本JSB1000王者に輝いた「MuSaShi RT HARC PRO.Honda」と高橋巧【写真:本田技研工業】
全日本JSB1000王者に輝いた「MuSaShi RT HARC PRO.Honda」と高橋巧【写真:本田技研工業】

また、ホンダCBR1000RR SP2を使用し、全日本JSB1000に出場するプライベートチームのラインナップも興味深い。「MORIWAKI MOTUL RACING」からは高橋裕紀清成龍一の2人が継続、「au&テルル MotoUP Racing」には秋吉耕佑と有力プライベーターからベテランライダーが起用されるのは変わらない。しかしながら、高橋巧のワークス移籍で「MuSaShi RT HARC PRO.Honda」の空いたシートには昨年のJ-GP2クラス(600cc)の王者、水野涼(19歳)が起用されることに。

さらに驚いたのは名門「Team桜井ホンダ」がJSB1000にフル参戦し、濱原颯道(22歳)がヨシムラスズキから電撃移籍することになった。さらに全日本JSB1000には新規参戦となる「Honda Asia-Dream Racing」(前Honda Team ASIA)からはザクワン・ザイディ(マレーシア・22歳)が起用され、ライダーの若返りも顕著だ。

そしてベテランの山口辰也を中心に動いていた「TOHO Racing」はJSB1000での活動を休止し、山口は「Team SUP Dream Honda」に移籍。新たな環境で山口はレースを戦うことになる。

鈴鹿8耐のラインナップは?

ホンダワークスの復活、全日本JSB1000の体制拡充で気になるのは夏の「鈴鹿8耐」の体制だ。ワークスは当然、ファクトリーマシンを使用し、ホンダの意向が直に反映される形となるため、現役MotoGPライダーの起用も期待したい。そんな中でMotoGPライダーとなった中上貴晶は有力候補。また、WSBKライダーのレオン・キャミアも過去に8耐への出場経験があるためそれを見越しての移籍とも考えられる。もちろんファンが期待したいのはマルケス、ペドロサといった正真証明のファクトリーライダーの登場だが、果たしてどうなるか。

中上貴晶は現役MotoGPライダーとして鈴鹿8耐出場なるか。今季最も活躍が期待されるライダーだ。
中上貴晶は現役MotoGPライダーとして鈴鹿8耐出場なるか。今季最も活躍が期待されるライダーだ。

スケジュール面で考えると鈴鹿8耐のテスト走行は例年、7月上旬から中旬に開催されているが、MotoGPは7月1日にオランダGP、7月15日にドイツGPがあるので、MotoGP参戦組はヨーロッパと日本を行ったり来たりの過密スケジュールになる。さらに、鈴鹿8耐(7月29日決勝)の翌週、8月5日にはチェコGP、8月12日にはオーストリアGP、8月26日にはイギリスGPが設定されている。7月と8月だけで5戦も設定されている中で怪我できないことに加え、今年のMotoGPはサマーブレイクが2週末しかなく鈴鹿8耐への参戦はかなりタフな日程と言える。一方でWSBKは7月8日のミサノ(イタリア)以降は9月中旬までレースが無いおかげでかなり参戦しやすいスケジュールになっている。

ファクトリーチームに加えて、全日本JSB1000チャンピオンチーム「MuSaShi RT HARC PRO.Honda」、FIM世界耐久選手権(EWC)の「F.C.C. TSR Honda France」が鈴鹿8耐の有力チームとなる可能性が高いが、MotoGP参戦組のスケジュールが限られるとなると、プライベーター含めてライダーラインナップ決定はかなり難しいパズルを強いられそうだ。

いずれにせよ、シーズン開幕前には想像もしていなかったマジックが起こるのが「鈴鹿8耐」の楽しさでもある。だからこそ、ファンをワクワクさせる決断とドリームチームの結成を期待したい。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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