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ファティ、久保、ハーランドの眩しさ。メッシ・ロナウド時代を超えるのは?

小宮良之スポーツライター・小説家
バレリーナのように華麗にボールをコントロールするジョアン・フェリックス(写真:ロイター/アフロ)

 メッシ・ロナウド時代に変革を起こすようなアタッカーは台頭しつつある。しかし研究されていないルーキーは数試合、半年程度までは勢いで活躍できる。正念場はそこからだ。

 相手や状況次第で、変身する力が求められる。アタッカーとして、新しい時代を切り開くのは誰か?

メッシの後継者候補筆頭

〇サイドアタッカー、もしくはセカンドストライカー

 アンス・ファティ(FCバルセロナ、17歳)は、リオネル・メッシの後継者として一番手と言える。ファティは16歳でトップデビュー。アフリカ、ギニアビサウ(ポルトガルが元宗主国)出身で、幼少期に渡ったセビージャで下部組織に入団後、10歳でラ・マシアへ。当時から実力は別格で、久保建英とはチームメイトだった。ファティが久保のパスを受け、ゴールを決めていたのだ。

 ファティは体の動きがしなやかかつダイナミックで、ペレが現代に生きていたら、こんな選手だったかもしれない。卓抜としたゴールセンスも備える。メッシと共通しているのは、ゴールに近づくたび、たいていの選手は技術の精度が下がるが、少しも落ちない点だ。

 デビュー2戦目でいきなりゴールし、クラブ史上最年少得点記録を更新。昨年末にはチャンピオンズリーグ(CL)、インテル・ミラノの夢を打ち砕くミドルシュートを決め、CL史上最年少得点者にもなった。昨年12月には契約を2022年まで延長し、違約金は1億7千万ユーロ(約200億円)にアップした。

 ファティの課題は、メッシのように戦うたびに成長できるか。キケ・セティエン監督には、右サイドで起用される機会が多いが、これまで主戦場としてきた左サイドと違い、フィットできていない。17歳の選手には酷な要求だが、ピッチの中でどこにいても自分の生きる形を探し、周りを生かせる選手だけが、バルサでは生き残れる。

ルイ・コスタ、カカらの力をかけわせた才能

 メッシ・ロナウド時代を継ぐ、もう一人の最有力候補は、ポルトガル代表ジョアン・フェリックス(20歳、アトレティコ・マドリー)だ。

 J・フェリックスのサッカーセンスは群を抜いている。際立ったボールコントロールとキックスキル。同時に神がかったプレービジョンで、スペースを見つけ、もしくは作り出し、決定的なチャンスを作り出せる。そしてドリブルは、常に相手の動きの裏をかく。体重移動まで見極めることで、魔法を使ったようにすり抜け、スピードで上回れる。カウンタータイプのサッカーでも適応し、アトレティコでもリーダーだ。

 なにより、高い技術をゴールのために使える。ベンフィカ時代から、ストライカーのように裏に抜け出し、ボールを呼び込み、ゴールを量産してきた。ボレーも得意とし、“嗅覚”と“当て勘”に優れる。ファーポストへ逃げる動きでクロスに合わせるゴールが多い点は、フランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンとも共通する。

「ジョアン・フェリックスは、ルイ・コスタ、カカ、ジョアン・ピントを掛け合わせたような選手」

 ポルトガル史上最高のアタッカーの一人、パウロ・フットレは表現しているが、決して大げさではない。

 課題は体力面か。メッシ、ロナウドは、拮抗した試合を最後の最後で決着をつけられる。J・フェリックスが90分間、その技術を出せるようになった時――。時代の旗手になっているはずだ。

久保の可能性

 久保建英(マジョルカ、18歳)も新時代の旗手の候補だろう。バルサで培った高度なテクニックを土台に、鮮やかに成長を遂げつつある。彼の異能は、自らの能力をアップデートする力。相手や味方に応じ、プレーする中で成長できる。

 そして、厳しい状況で力を発揮できるパーソナリティも瞠目に値する。

「Tirar del Carro」

 スペイン語で「一番つらい仕事を引き受ける、先頭に立ってやる」という意味で、荷車を引く、というのが語源だが、その資質を久保は備えている。一つのリーダーシップだが、厳しい状況で自分のプレーを出し、チームを勝利させる力を指す。マジョルカでも先頭を走る。

 マドリードが一番求める人材が、荷車を引ける選手である。例えばラウール・ゴンサレスが愛されたのは、単純なゴール数ではない。勝負を決めるゴールが多かったからなのだ。

島育ちのアタッカー

 もう一人、スペインU―21代表ペドリ(ラス・パルマス、17歳)は、同郷のファン・カルロス・バレロンが太鼓判を押す才能の持ち主だ。スペイン2部のラス・パルマスでポジションを確保し、現在26試合出場、3得点。ラス・パルマスはカナリア諸島の一つだが、伝統的にファンタジスタ、テクニシャンを多く生み出してきた。

 ペドリは左サイドのアタッカーだが、中盤に落ちてゲームメイクするなど、ジョゼップ・グアルディオラ時代のバルサのアンドレス・イニエスタと似たプレーを見せる。左サイドに人を集め、右サイドに一気に展開するパスは秀抜。すでにバルサが所有権を持ち、来シーズンは移籍することになるだろう。

 爆発的な得点力はないが、プレーの渦を作り出す知性を持っている。バルサでは、ファティとポジションを争うことになるか、あるいはファティがゼロトップに入るか。同じタイプのポルトガルU―21代表フランシスコ・トリンコン(ブラガ、20歳)もバルサ入団が内定しており、競争は激しい。

次世代の世界最高のストライカー

〇ストライカー

 刮目すべきは、ノルウェー代表アーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント、19歳)だろう。単純に、ストライクする(打撃する)能力が尋常ではない。194センチの巨躯から繰り出すプレーはパワー満点。相手を引きずってもボールを前に運び、かまわずに足を振り切り、ネットを揺らす。痛快なゴールゲッターだ。

 守備や駆け引きでは十代の若さが出る。しかし、いったんボールを運び出したら、止められない。スピード以上に、体を合わせた時、跳ね返されるような衝撃をディフェンスは受けるだろう。

 そして、ゴールセンスは突出している。マークを外し、ボールを受け、それを叩く。単純な動きの質が高く、力強い。高い打点で打ち込むヘディングやアクロバティックなシュートはド派手だが、ファーポストで折り返しを押し込むだけのボールを呼び込むところに、真の才気を感じさせる。トップレベルでは、ファーポストで待てる選手が得点を増やすのだ。

 メンタルも強く、物おじしない。今年1月、ザルツブルグからブンデスリーガに移籍後も得点を取っているし、チャンピオンズリーグでも貴重なゴールを決めた。世界最高のストライカーになる資質はすべて備えている。

イブラヒモビッチに近づけるか

 最後に、レアル・ソシエダのスウェーデン代表アレクサンダー・イサクを推薦したい。身長192センチを生かしたプレーはパワフルで、足元の技術は繊細さが際立ち、スピードにも優れる。母国では、ズラタン・イブラヒモビッチと比較されるが、そのポテンシャルは異次元だ。

 イサクは移籍したレアル・ソシエダでシーズン前半、リーガに適応しきれず、ウィリアン・ジョゼの控えに甘んじていた。しかし、居残りで単純なクロスやミドルシュートの練習をしつこく繰り返した成果だろう。スペイン国王杯決勝進出に大きく貢献し、7得点は現在、ゴールランキングトップだ。

 いずれも、メッシ・ロナウド時代の後の世界を作る資格がある。彼らのプレーがサッカーファンを陶酔にいざなう。その日が、やがて来るはずだ。

(DF、MFは以下のURL)

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20200403-00170740/

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20200404-00170797/

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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