YouTube、ロシアでしぶとくサービス継続できる理由
ウォール・ストリート・ジャーナルは8月、米グーグルの動画共有サービス「YouTube(ユーチューブ)」が、ロシア政府をいら立たせており、時折罰金を科されるなど、制裁を受けていると報じた。
しかし、それでもYouTubeはロシアで遮断されることなく、ウクライナ戦争に関する動画を配信し続けている。ロシア国民にとって、独立系メディアによる情報を得るための数少ない場所の1つになっているという。
露政府、FacebookやInstagramなど西側SNSを遮断
ウクライナ侵攻以降、ロシア政府は情報統制を強めている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、これまでに米メタのSNS(交流サイト)「Facebook(フェイスブック)」や写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」、米ツイッターのSNS、グーグルのニュース配信などを遮断してきた。
しかし、YouTubeは遮断措置を免れている。一方、グーグルはウクライナ侵攻後、ロシアで検索とYouTubeの広告を停止。モバイルOS「Android」向けのアプリストアでは有料アプリやサブスクリプション(定額課金)の提供をやめた。また、YouTube上で偽情報を拡散したとして、ロシア政府系メディア動画の配信を全世界で停止した。
一方で、ロシア通信規制当局は2022年7月、政府の方針に反するコンテンツの削除を怠ったとして、グーグルに対し3億6000万米ドル(約517億円)の罰金を科した。
先ごろは、グーグルのロシア子会社がモスクワの裁判所に破産を申請したと報じられた。当局がグーグルの銀行口座を差し押さえたことで、給与や取引先への支払いなどが困難になり、オフィスが機能しなくなった。グーグルは従業員の大半を出国させ、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイなどの拠点からロシア向けサービスを提供している。
「YouTubeは大きすぎて遮断できない」
そうした中でもロシア政府はYouTubeを締め出していない。西側メディアの専門家はその理由について「YouTubeはロシアで人気があるため、遮断できないと政府が考えている可能性がある」と指摘する。
グーグルやメタ、ツイッターで政策コミュニケーションを担当したことのあるヌー・ウェクスラー氏は「大きすぎてつぶせない銀行もあれば、大きすぎて遮断できないアプリもある」と述べている。
イスラエルのウェブアクセス分析企業、シミラーウェブによると、ロシアにおける22年6月のYouTube月間利用者数は8500万人超。またロシアの独立系調査機関レバダセンターが22年4月に同国民を対象に行った調査では、47%がYouTubeを利用していると回答した。ロシア企業VKが運営するSNS「VKontakte(フコンタクテ)」に次ぐ規模である。
ロシアには、国営ガス大手ガスプロムの傘下企業が運営する動画共有サービス「Rutube(ルーチューブ)」がある。しかしシミラーウェブによると、その22年6月の月間利用者数は970万人と、YouTubeの1割程度。ウェクスラー氏は、「YouTubeのような人気アプリを遮断すれば、国民から反発されることをロシア政府は分かっている」と述べている。
グーグルは現在、ロシアで広告事業をはじめとする商業活動を停止している。ただ、持ち株会社アルファベットのルース・ポラットCFO(最高財務責任者)によると、グーグルの21年売上高全体に占めるロシアの比率は約1%。業績全体に及ぼす影響は小さい。
それでもグーグルはロシア向けにYouTube動画を配信し続ける方針だ。YouTubeのスーザン・ウォシッキーCEO(最高経営責任者)は22年5月、「市民が、何が起きているのかを知り、外の世界の視点を持てるように支援したい」と述べた。
YouTubeは今後も偽情報の排除に力を注ぐ意向。同社の広報担当者によると、これまでにウクライナ戦争に関して、約7万6000本の動画と、約9000件のアカウントを削除した。YouTubeの規則では、「すでに十分に立証されている、戦争などの暴力的な事件の存在を否定したり、ゆがめたりする動画」の投稿を禁じているという。
- (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年8月10日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)