なでしこジャパンが強豪カナダと対戦。W杯の悔しさをバネに、東京五輪へ最高のリスタートを
【リスタート】
なでしこジャパン(日本女子代表)は10月6日(日)、静岡市のIAIスタジアム日本平でカナダ女子代表と国際親善試合を行う。
今年6月の女子W杯で、なでしこジャパンはベスト16で大会を去った。ラウンド16では、最終的に大会準優勝のオランダをギリギリまで追い詰めるなど、試合ごとに成長を見せたが、結果は1勝1分2敗。男子強豪クラブを持つ欧州を中心に、本格的に女子サッカーに力を入れる国が増え、世界的な女子サッカーのレベルアップを実感する大会となった。
大会後3カ月を経て迎える今回のカナダ戦は、来年7月の東京五輪に向けたリスタートという重要な位置付けの一戦となる。カナダはFIFAランク10位の日本に対して7位。
日本はW杯で参加国中2番目に若い(平均年齢24.0歳)チームだったが、カナダは4番目(24.7歳)の若さで、理想的な好敵手といえる。本大会では最終的に3位になったスウェーデンに敗れ、日本と同じくベスト16で敗退している。
カナダとの最後の対戦は2018年3月のアルガルベカップで、そのときは0-2で敗れた。パワー、高さ、スピードと身体能力の高い選手が多く、攻守に組織的で、1年7カ月前の対戦では内容も結果もスコア通りの印象だった。FW菅澤優衣香は、カナダの印象を次のように話す。
「パワーとスピードがあるチームで、やりづらい相手という印象があります。でも、昨年から様々な国と戦って経験を重ねたなかで培ったものもあるので、またチャレンジしたいです。カナダのような相手には前半は無失点に抑えることが大切だと思うし、その中で自分たちフォワード陣がしっかり点を取りたいと思います」
カナダで警戒したい選手の一人が、女子W杯5回と五輪1回に出場し、国際Aマッチ286試合で182得点を挙げているFWクリスティン・シンクレアだ。若い選手が多いチームで、勝負どころを知り抜いた36歳のベテランはいつものように試合を引き締めるだろう。
高倉麻子監督は、今回のカナダ戦に向けて、W杯に参加したメンバー17名、初招集3名を含む25名の選手を呼んでいる。
「(五輪に向けて選手選考の)枠を大きく広げることはないと思います。おおよそはW杯で選んだ選手をベースに、今回選んだ選手を含めて、チームを磨いていきたいと思います」
高倉監督は、メンバー発表でこのように語っている。7日に予定されているテストマッチ(一般非公開)と合わせて2試合を戦えるため、初招集の選手にもアピールのチャンスは巡ってくるだろう。
25名の内訳をみると、海外組は主将のDF熊谷紗希1人だけで、国内組が中心の構成だ。MF栗島朱里、DF清家貴子、DF高橋はなの初招集3名はいずれも、なでしこリーグで首位を走る浦和レッズレディース所属。日テレ・ベレーザから25名中11名が選ばれ、INAC神戸レオネッサから5名と、リーグで上位3チームの選手が大半を占めた。その3チームに共通するのは、ボールをしっかり繋げることと、攻守の切り替えの速さだ。そのエッセンスは、なでしこジャパンでも重要なキーワードとなる。
高倉監督は今回のカナダ戦でチームとして掲げるテーマについて、次のように明かしている。
「トランジション(攻守の切り替え)のところで、ボールを奪われたらすぐにボールを奪い返すことは強調してやりたいと思います。攻撃では『決めきる』ところです。フォワードも含めてシュートレンジを広げて、FWだけではなくどこからでも点を取れるように促していきたいです」
【6日間の合宿を経て迎えるカナダ戦】
静岡のJ-STEPで9月30日から行われた合宿では、1対1や3対3、クロスやセットプレーの守備対応などに多くの時間を割いた。地元の男子高校生、男子大学生との合同トレーニングで、フィジカルの強い海外勢を想定した強度の高いトレーニングも行った。
攻撃陣では、W杯では選出外となったFW田中美南が復帰。田中はリーグ3年連続得点王で、今季も13試合で17ゴールを決め、トップを快走している。得点ランキングでは2位の浦和の菅澤や、W杯ではエースとして攻撃陣を牽引する存在感を放ったFW岩渕真奈、攻守の切り替えが速く、判断に優れたFW小林里歌子、高いシュートセンスを持つFW宝田沙織、精度とパワーを兼ね備えた左足を持つ最年少のFW遠藤純。多彩な顔ぶれのフォワード陣の中で「どのような形で、誰が」点を取るのか。W杯で悔しい思いをした選手たちがどのように“反発力”を見せるのか、期待とともに注目したい。
サイドには、浦和の清家や高橋、ベレーザのMF宮澤ひなたや遠藤など、今季リーグ戦で活躍しているスピードスターが揃う。
清家は、W杯直前合宿ではトレーニングパートナーとしてチームに帯同したが、正式なメンバーとしては今回が初招集となる。
「守備のリスク管理への意識が、代表では強く求められています。得点に絡むプレーがしたいのでさじ加減は難しいところですが、戦術理解を深めながら、1対1で負けないことや前への推進力を出していきたいです」(清家)
W杯では直前まで候補入りしながら選外となった宮澤も、強い思いで臨んでいる一人だ。
「(ベレーザでは)外にポジションを取ることが多いので、(代表では)中に絞るタイミングなどが変わる部分もありますが、後ろの選手と目を合わせながら動き出すことを続けてきました。スピードに自信があるので、GKがキャッチした後のスタートダッシュや、カウンターの時は前への意識を常に持っています」(宮澤)
また、中盤で初招集となった栗島は、浦和の中盤に欠かせない存在として輝きを放っている。156cmと小柄だが、予測とポジショニングに優れ、今回の合宿ではボール奪取で持ち味を発揮する場面が見られた。
そして、今回のカナダ戦で背番号10を背負うのがMF籾木結花だ。新しい背番号は、直接監督から告げられたわけではなく、ホワイトボードに貼られたメンバー表を見て知ったという。だが、年代別代表や、リーグ4連覇中のベレーザで10番を背負ってきた23歳にとって、その数字は重圧にはなっていないようだ。
「(以前の)15番だろうと10番だろうと、サッカーに対する自分の向き合い方とか、プレーの上でやることは変わりません。周りの見方が変わることはあるかもしれませんが、数字にとらわれないようにしたいと思っています」(籾木)
籾木は、フランス女子W杯では左足の違和感で別メニューが続き、ラウンド16のオランダ戦が最初で最後の試合となった。だが、1-1で終盤の72分からピッチに立つと際立った存在感を発揮。出場時間20分未満で4本のラストパスを記録(2011年以降のW杯で最多)し、自身も決定的なシュートを放った。このシュートは結果的に、大会でゴールデングローブ(最優秀GK)賞に輝いたGKサリ・ファン・フェーネンダールに鋭い反応で弾き出され、「最後の局面で、国内リーグなら決まったと思える場面で決まらないのが世界との差だと感じました」と、悔し涙を流した。
現代表では最も小柄な153cmだが、自分よりも大きく、リーチのある相手の懐に入る術を心得ており、間合いを掴むのが早い。緩急をつけたドリブルは、屈強なカナダの選手も手こずらせるのではないだろうか。
そういった個々のプレーにも注目しながら、試合を楽しみたい。W杯で結果が出ず、女子サッカーから離れがちな世の中の関心を取り戻すためにも、カナダ戦は結果と内容の両方で観客を大いに沸かせてほしい。
試合は14:30キックオフ。TBS系列で生中継される。