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現在0.850! 藤井聡太三冠(19)は中原誠五段(当時20)の史上最高勝率0.855を抜けるか?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 今年度もすさまじい勢いで勝ち続けている大天才・藤井聡太三冠(19歳)。10月20日現在の公式戦成績は34勝6敗(勝率0.850)です。

 前人未到の4年連続8割超えを達成している藤井三冠。この勢いならば5年連続も見えてくる勢いです。

 さてその藤井三冠をはじめ、過去から現在に至るまで、名だたる強豪が乗り越えられなかった将棋史上不滅の大記録があります。それが中原誠16世名人が1967年度、20歳五段当時に達成した年間最高勝率0.855(47勝8敗)です。

 この年度、中原五段は順位戦ではC級1組に在籍。デビュー以来の順位戦連勝記録を18に伸ばしました。これは藤井現三冠と並び、現在も残る史上1位の記録です。

 順位戦は1敗して連勝はストップしたものの、あとは全部勝って11勝1敗でB級2組昇級を決めています。

 当時まだ新人王戦はありませんでしたが、順位戦C級1組、C級2組と奨励会三段の参加する古豪新鋭戦でも優勝を果たしています。

 また棋聖戦(当時は年2期制)ではトーナメント準決勝で当時の絶対王者・大山康晴名人を降し、五番勝負で山田道美棋聖に挑戦するという偉業も達成しています。

 いまも昔も出世街道を駆け上がっていく過程の若手は勝ちまくるものです。それでもこの中原16世名人の最高勝率記録だけは、誰も抜くことができませんでした。

 藤井三冠はすでに王位、叡王、棋聖をあわせもつ、トップクラスの棋士です。

「だいたい高勝率っていうのは、実力は高くてクラスはまだ低いというギャップが生じている若手棋士が記録するもの。いまの藤井聡太は押しも押されもせぬタイトルホルダー。トップクラスの棋士ばかりと当たるんだから、いくらなんでも、立場的にもう、年間最高勝率の更新は不可能だろう」

 そう考えるのが常識的かもしれません。しかしそんな常識を超越し、過去にタイトルホルダーながら、中原16世名人の記録に迫った例があります。それが1995年度、奇跡のタイトル全冠制覇を達成した、羽生善治七冠(当時25歳)です。

 羽生七冠は当時のトップクラスをなで斬りにして勝率0.836(46勝9敗)でした。

 羽生九段はこの年度、七大タイトルだけでなく、テレビ棋戦の早指し選手権とNHK杯も優勝。さらには全日本プロトーナメント(のちに朝日オープン将棋選手権から現在の朝日杯将棋オープン戦)も制すれば、全棋戦優勝でした。

 しかし羽生七冠は全日プロ準決勝で屋敷伸之七段(当時)に敗れています。もしそこで勝っていれば47勝8敗で、中原16世名人の成績にぴったりと並んでいたところでした。(このときの全日プロ決勝五番勝負は翌年度4月、5月に対局)

 以上の通りで、輝ける羽生七冠の年、タイトルホルダーが年間最高勝率に迫ったという例がありました。

 ちなみに年間勝率8割以上を複数回達成した棋士は、中原16世名人、羽生九段、藤井三冠の3人しかいません。

 藤井三冠は自身の年少記録や勝率などの成績記録については、一貫してほぼ関心がないようです。しかし観戦する側の立場としては、そうした点も大いに気になるところでしょう。

 今年度の藤井三冠がここから竜王、王将を取って五冠。さらには銀河戦、NHK杯、朝日杯も優勝。そしてB級1組を勝ち抜いてA級昇級・・・となれば、年度成績もまた、おそろしい成績となります。

 藤井三冠はあと2連勝すると36勝6敗(勝率0.8571)。もしそうなれば暫定的にせよ、中原五段の最高勝率を抜くことになります。

 8割を超える高勝率ともなれば、1敗でもすると途端に勝率はガクンと下がり、新記録更新は途端に難しくなります。今後も藤井三冠の一戦一戦から、目を離すことができません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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