介護崩壊の瀬戸際 コロナ流行下の高齢者施設から
沖縄県における新型コロナの流行は、直近1週間の人口10万人あたり感染者数が300人を超えました。全国で最悪レベルの流行が続いています。
当然ながら、離島県の医療には限界があります。いま、病院から在宅医療まで、投入できる資源を総動員していますが、もはや持ちこたえられそうもありません。そして、よく医療崩壊が語られますが、介護崩壊の危機も迫っています。
先週から、ある有料老人ホームへの医療支援に入っています。この施設では、これまでに25人の入所者のうち18人が感染しています。4人は救急搬送できましたが、あとの14人はどうしても入院先が見つかりません。なるべく毎日訪問しながら、入所者の診療をさせていただいています。
以下、施設が特定されないよう、具体的な記載は避けます。ただし、感染者数や病態については、沖縄の現実が伝わるよう事実のままに紹介します。
この施設に入った初日・・・、すでに3人の呼吸状態が悪化していました。
1人目は、60代の男性。発熱と呼吸困難があり、SpO2 82%と低下してましたが、在宅酸素を開始したところ回復しました。コロナに感染していることを伝えると、ビックリされていました。医師と看護師が出向いて、しっかり見守って差し上げることを伝えると、少し安心いただいたようです。ステロイド投与もはじめましょう。
2人目は、80代の男性。発熱に加えて、ひどい下痢が続いています。咳あり、SpO2 80%前後にまで低下していましたが、在宅酸素により回復しました。自覚症状は薄いようで、呼びかけに笑顔で答えてくれます。診察していると「がんばりなさい」となぜか励まされました。私たち若者が、あまりに絶望的な顔をしていたからかもしれません。酸素吸入とステロイド投与を始めましたが、厳しい経過が予想されます。
3人目は、50代の男性。解熱剤が効かず、40近い高熱が続いています。呼吸苦の訴えありませんが、SpO2 88%と低下していました。糖尿病がベースにあるので、定期的な血糖測定が必要です。近隣の訪問看護ステーションに依頼したところ、対応いただけることとなりました。何とか命が繋げそうです。電話口で所長が言いました。「どこも手一杯です。でも、少しずつでも何かさせてください」
ところで、この施設には、もともと13人の職員がいましたが、感染したり、家族の事情などで9人が休職してしまいました。施設看護師は全滅です。ただ、皆さんワクチンは接種しておられたようで、軽症や無症候であるのは救いではあります。まずは、しっかり回復されてください。
残されたのは、たった4人の介護スタッフ。彼らは24時間対応で、家に帰ることもなく、14人の感染確定者と7人の検査陰性者のケアを行っています。連日、3時間の仮眠のみだそうです。ただ、こういう苦境にありながらも、冗談を飛ばし、いたわり合い、頑張られる様子が沖縄らしさでもあります。
それから、2日が経過しました・・・。
働いている介護スタッフのうち2人が発熱しました。解熱剤の内服で速やかに軽快しましたが、抗原定性検査を実施したところ、2人とも陽性でした。つまり、新型コロナに感染しておられます。
ワクチン接種後ということもあり、現時点では極めて軽症です。代わりに働いてくれる介護職を探しましたが、どこの介護現場も手一杯であり、しかもレッドゾーンで働こうという方は見つかりません。施設長は、苦肉の策として、この2人に引き続き働いてくれるよう頭を下げました。
ひとつだけ良い面があるとすれば、2人とも感染しているので、施設内のレッドゾーンでガウンもフェイスシールドも不要ということ。そのことを彼らに伝えると、ずいぶんと喜んでいました。ただし、他のスタッフや私たち支援者を守るため、マスクは着けていただいてます。
さらに、3日が経過しました・・・。
その日は、とりわけ暑い日でした。換気のために風通しを良くしていますが、吹き込んでくる熱風でガウンの中に汗がたまります。そんななか、入所者の死亡を確認いたしました。診察する私に、「がんばりなさい」と声をかけてくださった80代の男性です。開始した治療への反応は乏しく、ゆっくりと意識を失っていかれました。
亡くなる数時間前・・・、不思議なことがあったそうです。
介護スタッフの方が、本人が好きだった久米仙(泡盛)で口元を湿らせてあげたところ、ニッコリと微笑まれたとのことでした。酸素飽和度は測定できないほどに低下していましたが、残された私たちには救いとなりました。ご冥福をお祈りします。
感染しているスタッフの方々には、本当にご苦労をおかけしています。ただ、いつ話しても、ニコニコかつ豪快に仕事をされています。それでいて、とっても温もりのあるケアを続けておられます。ここは居心地の良い場所です。何とか集団感染を乗り切って、日常を取り戻していかなければと思います。
ただし、沖縄全体の状況は、底なしの溝を伝っているかのようです。私たちは足場を探しながら歩いています。でも、じっとして待っているよりは、何かをしつづける方がずっとましです。そして、ふと空を見上げると、突然の青空だったりします。