世界水泳を100倍楽しむ方法
世界水泳の楽しみ方
19日にバルセロナで開幕した世界水泳。競泳競技は、28日からレースがスタートする。今回は、水泳の観戦ポイントを紹介したい。選手の泳ぎやタイム、結果だけではなく、選手の表情、身体の動き、レース展開や水の中での姿勢、チームワークなどに注目することで、また違った楽しみ方ができる。
選手のパフォーマンスに注目!
選手がプールへ入場し、コース前へ立つ。名前がコールされたその瞬間を見逃さず、パフォーマンスをチェックすることで、それぞれの選手の特徴や個性を知ることができる。ユニフォームの日の丸をギュっと握り締める姿、笑顔で手を振る姿やカメラに向かってアピールする選手もいる。選手たちが、世界の舞台で、どんなアピールをしてくれるのかも面白味のひとつ。1レース1レース、違ったパフォーマンスが見られるはずだ。
男子においては、前日まであった髭をレース当日、綺麗さっぱり剃って気合いを入れる選手もいる。中には、予選、準決勝までは髭を剃らず、決勝の舞台で髭を剃ってくる選手もいる。選手の変化に注目することも面白い。
そしてレース前に選手たちが行っているストレッチや体操。腕を大きく回したり、ジャンプをしたり・・・その動きをマネすることで、観戦しながら体を動かす機会になる。きっと身体の柔らかい選手の動きに驚くはずだ。無理に真似をして、体を故障しないように注意(笑)!
水中映像を参考に
ここ数年、水中カメラの精度が上がり、レース中、水中映像を見ることができる。水泳は、水の抵抗をできる限り少なくすることがポイントになる競技だ。抵抗の少ない状態で進むことができる秘密は、水中にある。選手たちは、特にスタートやターン後、水中を一本の棒のような姿勢で進んでいる。これは、一般的に蹴伸びと言われており、小学校で習った人もいるだろう。この一本の棒のような姿勢を「ストリームライン」と言う。このストリームラインを無重力の水中で保つためには、体幹の強化が大切になる。逆を返せば、水中でストリームラインを練習することで、体幹トレーニングにも繋がるのだ。今後、プールへ行く機会がある方は、ぜひ試してほしい。
そしてもうひとつの注目点は、水中映像で見ることができる足の動きだ。フィンのようにしなやかで、ムチのようにしなっているのが分かる。足首の柔軟性によって、ムチのようにしなり、力強いキックが打てる。自由形の短距離種目においては、素早いキックを打つため、足が船のスクリューのようになっている。
泳ぎの部分では、選手の手のかき(ストローク)数を数えてみるのも面白い。平泳ぎやバタフライは、ストロークを数えやすい。選手たちは、50mをどのくらいのストロークで泳ぎ切れるのかを数え、プールへ行って試してみると、選手たちのストローク数の少なさにビックリすることだろう。
SNSにも注目
現在、アスリートも「Facebook」や「Twitter」「blog」などを活用し、情報発信をしている。競泳日本代表選手の中でも、北島康介選手をはじめ、松田丈志選手、入江陵介選手、立石諒選手、萩野公介選手、鈴木聡美選手・・・などが、SNSを使って情報発信や情報交換をしている。レース前日の状況や想い、レース前後にも「つぶやき」をする選手もいる。選手間のやりとりも行われているため、温かいチーム雰囲気も伝わってくる。
日本代表の公式アカウントもあり、チームや選手の状況をいち早く伝えてくれる。レースを観戦しながら、並行してチームや選手の「つぶやき」にも注目!選手の熱い想いや葛藤などを身近に感じることによって、より選手への応援に力が入ることだろう。
レースまでの道のり
試合直前、選手たちは、それぞれのペースに合わせ、泳ぎのチェックや体調管理、ケアをしっかり行ってきた。レースまえの最終チェックによっても、結果が大きく変わってくる。厳しくツライ泳ぎ込みの時期を乗り越え、しっかりトレーニングが積めていたのが、最後に体調を崩し、それまでの積み重ねが水の泡になってしまう危険性もあるのだ。
私は現役時代、最後の体調管理に失敗し、悔しい思いをした経験がある。冬場の泳ぎ込みを順調にこなし、調子は絶好調! しかし・・・そこに大きな落とし穴があった。試合前の大切な時期、体調も泳ぎの調子も最高の状態だった私は「もっと頑張れる!」という気持ちになり、オーバーワークをしてしまった。そのため、試合までに疲労感が抜けず、体重まで減少してしまい、レースで思うような泳ぎができなかった。レース前は、しっかりと休む勇気を持つことも大切になってくる。
昔、日本代表チームにいた際、「調子のいいときは慎重に。調子が悪いときは大胆に」と話してくれた指導者がいた。調子がいいとき程、頑張り過ぎるため、体にかかる負担も大きくなるのだ。
狙ったレースで、最高のパフォーマンスをすることは、とても大変なこと。指導者の的確なアドバイスや自分自身の体と会話で、微調整を繰り返していく。ひとつひとつの努力があるからこそ、選手たちは、輝いて見える。
「チーム力」で「絆リレー」を
最近、日本水泳チームの選手たちは、口々に「チームに勢いをつけたい」と話している。昨年のロンドン五輪では、「チーム力」が話題になった。「チームの為に」その言葉通り、選手から選手へ、素晴らしいバトンが渡された。観戦しているこちらにも伝わるチームの温かく強い雰囲気。スポーツの素晴らしさを実感することもできた。
競泳は、個人競技であって、決して「チーム力」の言葉を使える団体競技ではない。入場し、スタート台へ立った時、たった一人で臨まなければならない。誰も助けてくれる訳でもなく、一人でスタートし、一人で泳ぎ切る。その為、レース前に大きなプレッシャーを感じ、不安や恐怖心を一人で抱えることになる。スタート前は、「孤独」との戦いになると言ってもいいだろう。この「孤独」との付き合い方が、パフォーマンスにも影響を及ぼす。
12年前の2000年シドニー五輪前、当時、競泳日本代表の上野広治ヘッドコーチ(現在、監督)が中心となり、ヘッドコーチ、スタッフ達は、ミーティングを重ねた。そこでヒントを得たのは、団体競技の「チーム力」だった。個々の力を結集し、それぞれの気持ちをひとつにすることで、チームの目的意識を統一できる。世界の大きな壁を乗り越えようとチーム作り、雰囲気作りを行ってきた。
大舞台で、極限の緊張感を感じたとき、選手は精神的な面で、「失敗したらどうしよう」「勝てなかったらどうしよう」とマイナス方向へ気持ちが進んでしまうこともある。マイナス思考を始めると、不安は大きくなり、当然のことながら、ベストパフォーマンスができるコンディション作りは難しい。
そんなとき、チームの存在感があったら、どうだろうか。「チームの為に」「次の人にいい形で繋げよう」「チームに勢いを付けよう」と自分自身の内側と向き合い、孤独を感じるのではなく、「チームの為に、自分自身ができることは何か」と考えることにより、プラス方向へベクトルを向けることができる。
日本代表チームとして選出された選手や指導者が、所属の垣根を越え、研究や情報交換、アドバイスをし合う雰囲気を作り出した。「チームの輪」「オープンマインド」をチームのスローガンに掲げ、意思統一を図った。孤独を感じることなく、プレッシャーや不安、恐怖心をみんなで共有し、みんなで乗り越えていくスタイル。大会前のミーティングでは、メダリストや指導者が、メダルを獲得した時のプロセスや心構えを離した。初出場の選手は、何度も五輪を経験しているような気持ちになり、本番で落ち着いてレースができたと言う。まさに、自分自身の為に、そして、チームの為に。
今回の世界水泳の舞台でも、競泳日本の「チーム力」が発揮されるだろう。選手たちが、どんな「絆リレー」を見せてくれるのか。選手の言動にも注目してほしい。