ワインへの情熱が600年を超える気温の記録を残す
ボジョレー・ヌーボーにちなんで、地球の気候の歴史を知る「古気候学」についての話をしましょう。ご存じのとおり、ボジョレー・ヌーボーは仏ブルゴーニュ地方ボジョレー地区でその年に収穫されたブドウでつくられる新酒のワインです。仏ブルゴーニュ地方といえば、世界最高級ワインの産地として有名です。
ワインへの情熱が600年を超える気温の記録を残す
ブドウが成熟する時期は一般に、気温が高ければ早く、気温が低いと遅くなるため、ワイン用のブドウを収穫する時期も、年によって違います。仏ブルゴーニュ地方では1370年から教会などに収穫開始日の公式記録が残っていて、仏国立科学研究センターは世界最高級のワイン「ロマネコンティ」が造られる赤ワイン用品種の「ピノノワール」の収穫期の記録から、春夏の気温変動を調査したそうです。
西暦1370年といえば、足利義満が将軍となった室町時代です。日本でも室町時代から続く長野県諏訪湖の「御神渡り」の記録が日本の冬の気候を知る貴重な記録となっています。
八剣神社の御渡帳
諏訪湖を覆った氷が昼夜の気温の変化に伴って収縮と膨張を繰り返すことで、湖上には氷の裂け目による氷の峰ができます。これを「御神渡り」といって、神が湖面を渡った跡と伝えられています。この御神渡りは室町時代から現在に続く神事で、長野県諏訪市の八剣(やつるぎ)神社にはせりあがった氷の筋や方向を記録した御渡帳(みわたりちょう)が残っています。
この御渡帳をみれば、その冬の寒さが推測できます。1980年代までは毎年のように、御神渡り神事が行われていましたが、1990年以降は、諏訪湖が全面結氷しない冬が増えて、最近20年間で御神渡りはわずか6回だけです。
グリーンランドは「緑の島」だった?
過去の気温変化を知る研究は「古気候学」といい、地球温暖化を考えるうえでも、過去の気温変化を知ることはとても重要です。仏のワインや日本の御神渡りでは、断片的な気温の変化しか分かりませんが、最近の研究では、グリーンランドの氷床を深さ2537メートルまで掘り、取り出した氷床コアに含まれていた空気を分析したところ、今から約12万年あまり前は現在よりも気温が約8度高かったことが分かりました。
北極圏に位置するグリーンランドは、大半が一年を通して厚い氷に覆われた世界最大の島です。でも、グリーンランド(Greenland)の名のとおり、昔は緑に覆われた島でした。それを裏付ける発見とも言えそうです。
【参考資料】
ブドウの収穫期で昔の気温推定 2004年11月21日付、日本経済新聞