北海道新幹線2030年度末の開業断念、開業未定に 倶知安町の主張する2025年山線廃止で何が起きるか
現在、建設が進められている北海道新幹線の札幌延伸工事について、建設主体である鉄道・運輸機構は8日、当初予定していた2030年度末の開業を断念する考えを示した。複数の工区での遅れが生じており、作業員の確保が難しくなっていることも要因だという。羊蹄トンネルの比羅夫工区では巨大な岩盤に当たったことにより工事が4年遅れで進められているが、最近また新たな岩盤が出現し、工事が停滞している。
また、2024年度を迎え、作業員の残業規制が強化されたこと、千歳市で次世代半導体工場ラピダスの建設工事に関連した作業員不足も指摘されている。さらに、札幌と小樽の間を結ぶ札樽トンネル工事では、基準値を超えるヒ素や鉛などの重金属を含む残土処理の問題も表面化している。北海道新幹線の新たな開業時期については示されていないが、2035年以降にずれ込むという見方が濃厚だ。
解決しない並行在来線問題
北海道新幹線の札幌延伸に伴って並行在来線としてJR北海道から経営分離される函館―長万部―小樽間についても、問題は山積みだ。2022年3月、北海道庁が主導する密室の並行在来線対策協議会で、地元のバス会社を協議の場に呼ぶことなく長万部―小樽間の廃止を決めた。
しかし、昨今、深刻化したバスドライバー不足の問題から、バス転換のめどが立たず協議は1年以上止まったままだ。特に輸送密度が2000人を超える余市―小樽間については、朝のラッシュ時に新たに10台程度のバスと運転士の手配が必要になるというが、北海道中央バスは、5月5日にBSフジで放送された鉄道特番の中でこの区間のバス転換は「無理」だと回答している。2023年以降、北海道内では、バスドライバー不足を理由に、地方だけではなく札幌市内でもバス路線の大幅な減便や廃止が相次いでいる。
倶知安町では並行在来線の2025年廃止を主張
倶知安町では、北海道新幹線の新駅整備に支障することを理由に、並行在来線の2025年での廃止を主張している。しかし、こうした状況の中で倶知安町の主張通りに並行在来線の早期廃止を行ってしまえば、いったい何が起きるのだろうか。倶知安町は、国際的なニセコリゾートエリアの玄関口として、多くの外国人旅行者が訪れる街だ。
こうしたことから、現在の在来線である倶知安―小樽間の利用客は多く、この冬の観光シーズンには日中に運行されている2両編成の列車では、乗客を積み残してしまう事態も発生したことから、急きょ3両編成に車両数を増やして列車の運行が行われた。
こうした状況の中で、倶知安町の主張通りに2025年で並行在来線の廃止を行ってしまえば、倶知安町は北海道新幹線開業までの10年以上に渡って鉄道もバスもない陸の孤島と化してしまい、ニセコバブルの崩壊を心配する声もある。
早期廃止は観光客や住民の足を奪いかねない
クルマがあるから問題ないという主張もあるかもしれないが、すでにこの冬のニセコリゾートエリアでは、朝夕の通勤時間帯に慢性的な渋滞が発生していることも地元紙の報道により明らかにされた。こうした中に、さらにこれまでの鉄道利用者がマイカー移動に移行するとなると、交通渋滞のさらなる悪化を招きかねなく、こうした交通渋滞の悪化がニセコリゾートエリアの価値の毀損にもつながりかねない。
さらに、これまで鉄道で通学していた高校生も通学の足を奪われることになる。高校生の通学問題は倶知安町に限った話ではなく、沿線9市町すべてに当てはまる話だ。高校生の通学の足が奪われると、保護者によるクルマでの学校への送り迎えが必須となる。
また、免許返納世代が増えるなかで公共交通機関がなくなってしまうと沿線住民が家に引きこもりがちになり、地域の活力がより失われることにもつながりかねない。こうしたことから、倶知安町が主張する2025年での並行在来線の廃止は、地域経済の破壊と住民生活の破壊の危険をはらんでいるといっても過言ではない。
(了)