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こびとも多様化?「リトル・マーメイド」以上に目立つ「白雪姫」物議。名作の現代的実写化、受難の時期?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
実写版で白雪姫=スノーホワイト役のレイチェル・ゼグラーは、ストライキにも参加(写真:REX/アフロ)

このところ、何かと物議を醸すのが、ディズニー名作アニメの実写化である。

今年(2023年)公開された『リトル・マーメイド』では、早くから主人公アリエルのキャスティングが波紋を呼び、作品自体の評価よりも、そちらの話題が先行してしまった。過去の同種の実写化作品、『美女と野獣』や『アラジン』がスムーズに受け止められた状況から、様相が一変したようでもあった。

結果的に、『リトル・マーメイド』は観た人の反応が全体的に良好だったものの、興行収入としては、やや伸び悩んだ感もある。

そして次なる実写化作品についても何かと、お騒がせの情報が相次いでいる。ディズニー・アニメーションの“原点”とも言われる、1937年の『白雪姫』。その実写化『スノーホワイト(原題)』である。2024年3月にアメリカほか各国で公開が決まっており、日本でもそのあたりの公開になりそうだ。

つい先ごろも、オリジナルのアニメーション版を手がけた監督の息子が、今回の実写版における改変について否定的なコメントを発表。「ストーリーやキャラクターの心情を、現代に合わせた“意識高い系”にするのは、クラシックの名作には侮辱的」とまで語り(The Telegraghのインタビューより)、それが日本のニュースでも取り上げられると、コメント欄も賑やかに。なんかこれ、炎上商法なのか……。

実写版『スノーホワイト』の主人公、つまり白雪姫のキャスティングの際にも、『ウエスト・サイド・ストーリー』のレイチェル・ゼグラーが選ばれたことで、「なぜ白雪姫がラテン系?」と、ちょっとした波紋を広げた。レイチェルは母がコロンビア系、父がポーランド系なので、そこまで違和感はないものの、『リトル・マーメイド』におけるアリエル役、ハリー・ベリーの件があったので、“意識高い系”キャスティングを敏感に察知した人も多かったよう。

さらに『白雪姫』といえば、7人のこびとが重要キャラだが、その表現方法に対し、「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジや、身長132cmの人気プロレスラーが場外乱闘も繰り広げ、話題になったりも。つい先日も、今回の実写版の撮影風景で、この7人のこびとに相当する「Magical Creatures/魔法の生き物たち」のメンバーらしき画像が出回ると、「ポリコレに迎合しすぎでは?」などと批判も見られるように。たしかに人種や性別、身長もバラバラ(身長の低いキャストは1名のよう)。この画像に対してディズニー側が「フェイク」「代役によるリハーサル」と発言したりと、なんだかよくわからない状態。魔法の生き物(7人のこびと?)のキャラがどう映像化されているかは、まだ秘密のようだが、実写版『リトル・マーメイド』に登場した、人種も年齢も性別も多様なマーメイドたちを思い出してしまう。

多様性への意識が全体として高まるハリウッドにおいても、元ネタが“レジェンド”的に存在するディズニー実写化では、その部分が変に際立つ格好になっているようだ。

考え方として、長年、親しんだキャラクターのイメージを打破する、つまり固定観念を変えて作品の新たな魅力を開拓するーーと捉えられつつも、なかなか感覚として追いつかない人も多いのだろう。ただ、そもそも新たなアイデアが枯渇している映画界の現状を表しているともいえ、定番の作品を、手を替え品を替えで新商品にするという、商業主義の匂いも人は敏感に察知してしまう。

「多様性を重視するなら、新たなアイデアの作品でやればいい」というコメントが目立つのは、そのせいかもしれない。

『マレフィセント』や『クルエラ』のようにサブキャラを主人公にしたパターンは別として、ディズニー名作アニメーションの実写化、その世界興行収入の推移を振り返ると……

2010年 アリス・イン・ワンダーランド 10.2億ドル

2015年 シンデレラ 5.4億ドル

2016年 ジャングル・ブック 9.6億ドル

2017年 美女と野獣 12.6億ドル

2019年 ダンボ 3.5億ドル

2019年 アラジン 10.5億ドル

2019年 ライオン・キング 16.6億ドル

2023年 リトル・マーメイド 5.6億ドル

北米では配信のみだった2020年の『ムーラン』は約7000万ドルで、億単位には到達しなかった。

監督のティム・バートンらしいテイストと、ディズニーの王道感が曖昧だった『ダンボ』あたりは別として、世界的なメガヒットをとばしてきた作品群。それが『リトル・マーメイド』で、やや失速した印象は否めない。

『スノーホワイト』の後も、『リロ&スティッチ』や『モアナと伝説の海』、『ヘラクレス』、『バンビ』、『ノートルダムの鐘』などの実写化プロジェクトが存在。『モアナ〜』は、あのドウェイン・ジョンソンが演じるということで違和感は少なそうな予感も。

『リトル・マーメイド』や『スノーホワイト』のように、いわゆる炎上ネタも増えるのは、それだけディズニーアニメ名作の実写化が注目を集めているわけで、これもまた事実。今後も公開まで、『スノーホワイト』のどんな情報が出るのか、楽しみにしている人も多いはず。

『スノーホワイト』の監督は『(500)日のサマー』や『アメイジング・スパイダーマン』のマーク・ウェブで、脚本には『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督も参加しているので、とりあえず現代の映画としてのアレンジに期待を高めたい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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