プロの腕がカギを握る「富士24時間」。GTドライバーに加えて、デイトナ優勝の鈴木利男も電撃参戦!
5月31日(金)〜6月2日(日)の3日間、富士スピードウェイ(静岡県)で今年も「富士SUPER TEC 24時間レース」(=富士24時間)が開催される。スーパー耐久シリーズの天王山として位置づけられる同大会には、排気量やマシンタイプ別に振り分けられた全8クラスに合計48台が出場する。今年の見どころをご紹介していこう。
今年もサバイバル戦に?
昨年、50年ぶりに開催された「富士24時間」は24時間耐久レースの厳しさを象徴するサバイバル戦だった。富士スピードウェイは天気に恵まれ、ドライコンディションで24時間の戦いが繰り広げられたものの、各クラスの主役級チームに相次いでトラブルが発生。夜間には接触が発端となったアクシデントも発生し、赤旗でレース中断となる場面もあった。
FIA GT3規定のレーシングカーから市販車ベースのコンパクトカーまで全8クラスのマシン、レーシングドライバーとしての経験値がバラバラの選手たちが混走する「スーパー耐久」だが、富士スピードウェイはコース幅やランオフエリアが広いコースであるため速度差による危険は思ったほど大きくない。しかし、日本では24時間レースが10年ぶりの開催だったこともあり、各チームは順風満帆という言葉とは無縁の厳しい戦いを強いられたのだ。
昨年24時間レースを経験しているチームが多いとはいえ、何が起こるか予測がつかないのが24時間レースの難しさでもある。今年もサバイバルレースになることは確実だろう。
日本車は総合優勝を守れるか?
そんな中で今年は総合優勝を争う最高峰の「ST-X」クラスのエントリーが4台と少ない(昨年は7台)。ランキング首位のアストンマーチン・ヴァンテージAMR(D’station Racing)は富士24時間への参戦を見合わせた。FIA GT3規定のレーシングカーが戦う同クラスは海外でも多くの耐久レースを経験しているマシンであるため耐久性には問題ないが、他車との接触などによるトラブルにいかに早く対処できるかが勝負の鍵となる。
4台の内訳は「日産GT-R」が3台、「アウディR8」が1台。どちらもニスモとアウディからスペアパーツのバックアップ体制が整っているので、マシン破損に対してはすぐに対処が可能だが、先週は富士も路面温度が50度を超える真夏のようなコンディションになったことから、晴天に恵まれた際の真夏のような気温、路面温度になると、最高峰クラスのマシンは苦しいレースになるだろう。なんせ4台しかいないため、超サバイバル戦になった場合、総合優勝も危ういという事態にもなりかねない。
そんな中、過去3回(1967年、68年、2018年)と開催された「富士24時間」では、67年がトヨタ2000GT、68年が日産フェアレディ2000、そして昨年は日産GT-R GT3が優勝と全て日本車の優勝になっている。ただ、昨年もドイツ車のアウディR8が首位を走行した局面があったし、唯一のアウディR8を使う「X Works」は昨年も速さを見せたアジアのドライバーたちが揃っているチームだけに、日本車とドイツ車の総合優勝争いはドラマに満ちたものになりそうだ。
KTM X-BOWなど珍しいマシンも
最高峰「ST-X」クラスに次いで総合優勝のチャンスがあるのが、FIA GT4規定の「ST-Z」クラス。昨年は1台のみのエントリーだったが、今年はポルシェ ・ケイマンに加えて、メルセデス・AMGとKTM X-BOW(クロスボウ)が参戦する。
KTM X-BOWはオーストリアの2輪メーカーであるKTMが2008年から発売しているスポーツカーをベースにしたGT4マシン。日本のレースには今年から登場だが、ニュルブルクリンク24時間レースなどで耐久性をすでに実証しているだけに要注目のマシンである。コンパクトなコーナリングマシンであるがためにストレートスピードが厳しいが、淡々と走ることで勝てるチャンスは生まれてくるだろう。
また、TCR規定のマシンで争う「ST-TCR」クラスは昨年より2台増加の9台が参戦。昨年は大本命のホンダ・シビックがトラブルで無念の後退を余儀なくされ、アウディRS3 LMSが優勝を飾った。今年は台数増加でレースがさらに激しさを増しているだけに、最も見応えのあるクラスは「ST-TCR」クラスになるだろう。
鈴木利男と荒聖治、24時間男が組む
その「ST-TCR」クラスには脇阪寿一、千代勝正、安田裕信、中野信治、野尻智紀といった有名トップドライバーが参戦することになり、そういった意味でも激戦区になっている。
そして、エントリーリストの発表と共に超大物ドライバーのエントリーも発表になった。108号車「冴えカノFineレーシングwith RFC」からホンダ・シビックTCRで参戦するのが荒聖治と鈴木利男だ。
荒といえば、2004年にアウディR8でル・マン24時間レースの総合優勝を成し遂げ、「世界の荒さん」の異名を持つ日本を代表するトップドライバー。そして、鈴木利男(すずき・としお)は元・全日本F3000(現在のスーパーフォーミュラ)の95年・王者であり、F1経験者。そしてル・マン24時間レースに12回出場しているだけでなく、1992年には米国のデイトナ24時間レースで日産・R91CPで総合優勝を飾ったドライバーである。
日産GT-R(R35)のテストドライバーとしても有名な鈴木利男は久しぶりのレース参戦。ブランクが長いためプラチナドライバーの認定は受けていない。レース復帰は東海大学と組んで参戦した2008年のル・マン24時間レース以来ではないだろうか。なんとル・マンとデイトナ、2つの24時間レースのウイナーがプライベートチームに加わるという驚きのラインナップだ。
トップドライバーが活躍する24時間
今回の「富士24時間」には実に多くのトップドライバーがエントリーリストに名を連ねている。SUPER GTを戦うドライバーたちも「富士24時間」は強烈なプレッシャーの中で戦うレギュラーレースとは違い、少しリラックスして助っ人参戦する。
「ST-X」「ST-Z」「ST-TCR」の3クラスではスーパー耐久がプラチナドライバーとして認定したプロドライバーに対してレース中の乗車時間制限を設けられており、1チームあたりのプラチナドライバーの数が限定されるが、それ以外のクラスにはプロドライバーの乗車時間に制限がない。そのため、複数のプロドライバーを擁し、富士24時間制覇を狙うチームも現れてきている。
また、トヨタ86が中心の激戦区「ST-4」クラスは坪井翔、中山雄一、大嶋和也、石浦宏明、国本雄資らのSUPER GT/GT500クラスのトップドライバーが参戦。GT300クラスからは蒲生尚弥、中山友貴、宮田莉朋、松井孝允、佐藤公哉、平中克幸、石川京侍ら今ノリに乗っているドライバーたちが目白押しだ。
「ST-4」クラスは昨年もレース終盤まで優勝を争った僅差の戦いが予想されている。プロドライバーの走行時間に制限がない同クラスでは、プロドライバーがいかに長い時間、速いペースで走行し、マージンを築けるかが勝負の鍵になってくるだろう。
アマチュアとプロが組み、最大6人編成のチームを形成して戦う「富士24時間」。このレースの見どころはとても一つの記事では語りつくせないが、プロが刺激的な走りでレースを盛り上げ、それを追うようにアマチュアが飛躍的にスキルアップしている「スーパー耐久」。今年は単にサバイバルの24時間というだけに留まらず、数多くのバトルとドラマに満ちた24時間レースになるのではないだろうか。