奨学金、騙されて「延滞金」の訴え 5年で1万5000件の「自己破産」も発覚
奨学金の返済に関する相談が、私が代表を務めるNPO・POSSEに急増している。特に多いのが保証人からの問い合わせだ。
日本学生支援機構(以下、JASSO)はこれまで保証人に対して残金の全額を請求していたのだが、今年5月の裁判で、保証人の負担額は残金の半額が上限でありそれ以上は「過払い」となるため返金すべきという判決が下されたことがきっかけだ。機構の発表によれば、約2000人に対して計約10億円が過払い金として返還されるようだ。
参考:奨学金の返済が「半額」に? 日本学生支援機構の敗訴で「過払い金」の発生も
参考:保証人2千人に10億円返還 奨学金返済の過払いで支援機構
しかし、奨学金の返済について困っているのは保証人だけではない。自身が返済している場合でも経済的な理由から支払いが困難になったという相談は少なくない。また中には日本学生支援機構と返済に関してトラブルになっているケースもある。
そこで今回は、日本学生支援機構の対応の問題点を改めて分析し、奨学金制度を変えていくための取り組みについて紹介したい。
返済に関するトラブル
保証人の過払い金が問題となる中で、日本学生機構によるそのほかの不適切行為にも厳しい目線が注がれるようになっている。POSSEスタッフによるこのツイートが3万回以上もリツイートされるなど大きな反響を呼んだ。
このツイートは実際にPOSSEに寄せられた相談が元になっている。問題は、経済的に困窮したことで当初の契約通りの金額を支払うことが困難になってしまったAさんが、日本学生支援機構に支払いの変更を求めて架電したことからはじまる。
Aさんによれば、電話の担当者から「一部でもいいので支払いを続けてほしい」と言われたため、担当者との話し合いの末、これまでの金額の約2/3を毎月支払うことで合意した。
そして、その金額を数年間払い続けていると、突然、日本学生支援機構から「延滞」になっていることを理由に、残金と延滞金の一括返済を求める請求書が届いた。つまり、毎月、1/3が過少払いであるから延滞として処理されており、Aさんは過去数年間、ずっと延滞状態として扱われていたのだ。
Aさんの主張が正しければ、日本学生支援機構の対応には大きな問題があるといえる。そもそも返済に困った場合、「減額返還」や「返還期限猶予」といった返済を一時的に「緩和」する措置が設けられている。
電話の担当者が適切に「減額返還」について説明し、Aさんがその手続を講じていれば、支払いを続けていながら「延滞」状態にはならなかっただけでなく、延滞金を負担する必要もなかった。
また、仮に2/3の支払いでの合意が成立していなかったのであれば、なぜ日本学生支援機構は数年間も過少支払いを放置していたのだろうか。もし毎月3万円の家賃がかかるアパートに暮らしていて2万円しか振り込まなければ、すぐに大家から電話がかかってくるだろう。
毎月、一部(しかも定額)しか振り込まれないままであれば本人に確認を取るはずだが、Aさんに対してはそのようなこともなかった。これでは、できるだけ長い期間、過少支払いにさせ延滞期間をのばすことで、延滞金を得ようとしていると捉えられてもおかしくない。
類似のケースは複数存在
実はAさんと同じように、日本学生支援機構の対応を「信じた」ことで、延滞や未払いになっているという相談は過去に何件も寄せられている。例えばこのようなケースだ。
専門学校に通うためにJASSOから月10万円を2年間借りた。しかし、卒業後は月給10万円ほどのパートの仕事しか見つからず度々返済が滞っていたため、JASSOと電話で話し合い月々の返済額を3000円ほど減らすことができた。その後、しばらくすると「支払が滞っている」と、いきなり連帯保証人である両親と叔母に請求がきた。JASSOに確認しても「減額されていない」の一点張りで埒が明かない。(20歳代、大阪、パート、女性)
これらのケースからわかるのは、日本学生支援機構の対応に関して困っている人が多数いるということだ。「奨学金」や「学生支援」といった名前がついているにもかかわらず、経済的な事情による返済困難者への対応はかなり問題を含んだものであることがうかがえる。
(なお、過去の相談事例については、拙著『ブラック奨学金』(2017年、文春新書)をご覧いただきたい)
15000件以上が奨学金破産に追い込まれる
実は日本学生支援機構は取り立てのために多くの人を裁判に訴えている。日本学生支援機構は方針として、支払いが一度滞ると本人への架電および文書の通知を行い、二回目は本人に加えて連帯保証人に連絡し、三回目は本人、連帯保証人および保証人に連絡することとしている。
そして、3ヶ月以上延滞すれば情報が個人信用情報機関に登録される。その数は2021年度で24,806件(人数ではなく債権の数でカウント)に上る。(独立行政法人日本学生支援機構「2021年度業務実績等報告書」)
ちなみに、延滞者の職場に電話がかかってくることもある。日本学生支援機構はホームページで「返還者の方から勤務先の電話番号を教えていただいている場合には、その勤務先へ電話にて連絡をすることはあります」と述べている(日刊ゲンダイ「4割が「苦しい」職場に取り立てが来る“奨学金地獄”の実態」(平成28年3月3日配信)における奨学金に関する記事について )。
そのうえで、もし9ヶ月間延滞が続くと、法的措置、つまり裁判に移行する。2021年度には7479件(支払督促申立6287件と仮執行宣言付支払督促申立1182件の合計)が裁判にかけられている。同じ2021年度には、それでも支払うことができなかった303件で財産を差し押さえるために強制執行が行われている。
また、返済できない多くの人が破産に追い込まれている。2012年度から2016年度の5年間にかけて、奨学金を借りていた人で破産した件数は8108件、保証人で破産したのは7230件(連帯保証人5499件、保証人1731件)と、15338件の破産が確認されている。
もちろん、奨学金以外にも借金があった可能性はあるが、いずれにしても奨学金の返済が出来ない状況になった人は珍しくないということだ(奨学金返還者の自己破産に関する報道について)。
「借金世代」としての若者
いまや学生の2.9人に一人(2020年度)が奨学金を借りて大学に通っている。2004年度には4.3人に一人であったことから、ここ20年間でその数が増えていることがわかる。その背景には、年々上昇する学費に加えて、家賃を含めた学生の生活費の上昇、そして親世代の貧困化によって仕送り額が減少していることがあげられる。つまり、借金をして学校に行かざるを得ないのがいまの若者世代なのである。
その中で奨学金が一つのビジネスとなっている。奨学金の原資は返還金や国からの補助などが主だが、一部、民間の投資家が購入した日本学生支援債券も充てられている。日本学生支援機構は「高い格付け」とその「ソーシャルボンド」やSDGsとしての性格をアピールしている(2022年7月 日本学生支援機構について)
しかし、毎年、1万人弱が裁判で訴えられるような借金、ましてや贅沢のためではなく教育を受けるためにせざるを得ない借金を、「ソーシャルボンド」やSDGs呼ぶことは、果たして適切なのだろうか。
日本学生支援機構は延滞金で年間約38億円を収入として計上しているが、これはいわば生活困窮に陥り返済が困難になった人が多くなればなるほど増えていく性格のものだ。そもそも奨学金の返済ができないことをもって、1.5%(2020年3月28日以降)のペナルティを請求することが正しいのだろうか(2020事業年度 財務諸表 法人単位)。
世界に広がる「学費ローン」に対する反発
実は世界的にこのような若者が置かれた過酷な状況に対する抗議行動が広がっている。日本と同じく高学費のアメリカでも学費ローン返還拒否運動が広がり、バイデン政権はこれまで返済を免除した250億ドル(約130万人)に加えて、先月、新たに20万人が借りていた60億ドルを帳消しにすると発表した(米政府、連邦学費ローンで20万人の債務60億ドルを帳消しへ)。
同じく日本でも20歳代のZ世代を中心に「奨学金帳消しプロジェクト」が立ち上がり、奨学金債務の帳消しと学費無償化および給付型奨学金の拡充を求めて、オンラインでの署名活動を展開している。開始1ヶ月ですでに約3万人の賛同が集まっているところをみると、奨学金がいかに多くの人にとって重要なイシューとなっているかがわかるだろう。
参考:#奨学金返せない 「奨学金」という名の債務の帳消しを求めます!
奨学金問題は個人の問題ではない。多くの人が返済に困っており、国レベルでの対策が求められる課題である。いま返済に困っている方や保証人となっている方など、奨学金に関して相談したい、もしくはこの問題を訴えたいという方はぜひ、専門の無料相談窓口を頼ってほしい。
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