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奨学金の返済に困ったらどうすればいいのか?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

学費の高騰や雇用の不安定化の影響により給付型奨学金を求める声が高まっており、新聞やテレビでも、奨学金を返せずに裁判を起こされたり、自己破産に追い込まれたりした方々のケースが紹介されている。次の選挙でも給付型奨学金の創設が争点の一つになるだろう。

他の先進諸国と比較しても日本の学費は高く、かつ日本には給付型の奨学金がほとんどない。大学生や専門学校生の多くが日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を利用して学校に通っているが、この奨学金は将来的に返済しなければならない「借金」である。国際的にはこれは教育ローン(student loan)と呼ばれ、奨学金(scholarship)には分類されない。

私が代表を務める労働NPO「POSSE」には、この奨学金返済の相談が数多く寄せられており、また年々増え続けている。そのほとんどが、学校を卒業後「ブラック企業」に入ってしまって返済に困っていたり、そもそも就職難で安定した仕事に就けず非正規で働いているため返済に充てるお金がなかったりと、返す意思があるにもかかわらず返すだけのお金がない人からの相談だ。

そこで、本記事では同じように奨学金の返済に困っている人や、これから奨学金を借りようという方向けに、奨学金返済に困ったときの対処方をお伝えする。

奨学金の返済で困るケース

私たちの相談窓口には、連日、奨学金の返済で困っている人の相談が寄せられる。実際に寄せられた事例をいくつかみてみよう。

日々の生活で精一杯で学費に回すお金がなかったため、大学生の息子と短大生の娘がふたりとも奨学金を借りている。返済は自分(親)がするということで借りたが、今の勤務先でパワハラと長時間労働があり精神的につらい。しかし、退職してしまうと奨学金の返済どころか生活できない。

(50歳代、男性)

専門学校に通うためにJASSOから月10万円を2年間借りた。しかし、卒業後は月給10万円ほどのパートの仕事しか見つからず度々返済が滞っていたため、JASSOと電話で話し合い月々の返済額を3000円ほど減らすことができた。その後、しばらくすると「支払が滞っている」と、いきなり連帯保証人である両親と叔母に請求がきた。JASSOに確認しても「減額されていない」の一点張りで埒が明かない。(20歳代、大阪、パート、女性)

このように奨学金がネックになりブラック企業を辞めるに辞められなかったり、そもそも奨学金を返済できるほどの収入がなかったり、という相談が増えている。

しかも2番目のケースのように、返還が困難になった学生を支援すべきJASSOが、返済者に配慮のない対応をすることでトラブルになるケースは非常に多いのである。

返済困難時の救済制度

では奨学金の返済に困ってしまったらどうすればいいだろうか。JASSOはそのような人に対して、いくつか方法を用意している。それらは「減額返還」「返還期限猶予」「返還免除」である。それぞれみていこう。

(1)減額返還

この制度は、毎月の返還額を半分に減額して返還するものである。例えば、毎月2万円返済する約束をもともとしていたが、生活が苦しくなったため月1万円の返済に減らすということだ。この制度を利用するには必要書類を提出した後にJASSOの判断を待つことになる。

ただ、注意すべきは、減額返還になったとしても返還総額が減額になるわけではないという点だ。1か月の返済額は半額になるがトータルで返済しなければいけない金額は同じであるため、2倍の年月をかけて返済を先延ばしになるだけである。また既に延滞している場合は使えず、さらに使うための条件として「災害」「疾病」「失業」などの項目に該当しないといけない。

(2)返還期限猶予

こちらは、奨学金の返済を一定期間「待ってもらう」という制度である。生活に困ったりした時(年収300万円以下)に、最大で10年まで返済が延期される。猶予を希望する期間の数カ月前にJASSOに書類を提出し、その申請は1年毎に行う必要がある。

ただし、こちらも返済総額が変更になるわけではなく、利子がなくなるわけでもない。また、使える期間は最大10年までであるため、10年以上低収入が続く場合はこれまで通り返済しなければいけない。

(3)返還免除

これは文字通り、返還そのものが全部もしくは一部免除されるという制度だ。

しかし、その対象は、本人が死亡していたり病気で働けなくなったりした場合など、かなり限定されている。また明確な基準が明らかになっていないためどの程度の病気であれば免除されるのか個別に問い合わせてみないと分からない。

奨学金で困ったらすぐに専門家に相談を

以上のように、奨学金返済に困った際には「使える制度」がいくつかある。それぞれの制度をしっておくことで、返済にこまったときにある程度は解決しやすくなるだろう。

ただし問題は、これらの制度は十分ではないうえに、申請をした場合にも、なかなか手続きが進まないケースがあることだ。

奨学金を貸す側のJASSOに相談しても、根本的な解決にならないどころか、先のケースのように直近の返済の相談にすら乗ってもらえない場合も多い。それどころか、返済猶予の申請をしても、JASSO側が手続きを進めてくれず、請求がき続けて「滞納扱いにされた」といった相談が後を絶たない。

JASSOや彼らが委託した債権回収機構は、「福祉」の機関ではないために、なるべく猶予の手続きなどをせずに、債権回収を急ぎたいのが本音なのだろう。そうしたトラブルの際には、私たちのような支援団体を間に挟むことで問題が解決することが多い。個人を相手には手続きをなかなか進めてもらえなくとも、団体や弁護士が入ることで話が進みやすくなる(これまでに、私たちが手続きを進めるように交渉し、猶予の手続きが進んだケースもある)。

だから、奨学金の返済で困ったり悩んだりしたら、すぐに専門機関に相談してほしい。労働相談と同じように奨学金の相談に関しても、専門家のアドバイスを踏まえた上で行動することが大切だ。私たちPOSSEは奨学金相談に特化した窓口を設けているし、「奨学金問題対策全国会議」という弁護士や研究者の集まりでも相談を受付けている。

すぐに相談すれば、期限が来る前に支払い猶予の手続きを行うことなどができる。もし猶予の手続きが進まない状態をそのままにしておくと、JASSO側は延滞金や利子を請求してきて、トータルの返済額がどんどん膨れ上がってしまう。金融機関のブラックリストに名前が載ってしまったり、訴訟を起こされたりする可能性もある。

また、もし上の制度では対応できず、すでに訴訟を起こされたりしても、専門の法律家を間に立てて、JASSOと話し合うことや法的な借金の整理などを追求すれば今後の生活にさほど影響ができない形で立て直すこともできる。弁護士に相談する前にPOSSEに法的な手続きの情報を聞くのもよいだろう。とにかく早めに専門家に相談することが大切だ。

無料相談窓口

NPO法人POSSE 奨学金ナビ

03-6693-5156

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/syogakukin/index.html

奨学金問題対策全国会議

03-5802-7015

http://syogakukin.zenkokukaigi.net/

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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