AIで運命の人に出会える時代に。34歳女性社長の挑戦
文系大学を卒業した34歳女性はなぜマッチングアプリ会社の社長になったのか
遂に結婚した人の出会いのきっかけ1位にまで躍り出たその一方で、いまだに「出会い系」とネガティブなイメージを持つ人も多い。
マッチングアプリは運営者が見えにくいので今回、バチェラーデートというマッチングアプリを運営している株式会社バチェラーデートの代表取締役である祖山由佳さん(34歳)に取材することにしました。
「大学は国際学部で、NGOとか国連とかボランティアに興味がありました。新卒でHR系のスタートアップに就職して営業をやっておりました。その当時の仲間から、海外で新規事業立ち上げをやらないかと誘われて2016年ごろに前職を辞めて日本を離れたのです」
祖山さんは海外でも企業と企業をつなげたり、企業と人をつないだり、今と変わらず繋がりを作る手伝いをしていたそうです。
ほとんどのマッチングアプリ企業のトップがエンジニア出身の中で、祖山さんの経歴はとても珍しいと思う。
マッチングアプリはすでに海外でメジャーになっており、日本でも認知され始めていました。これは日本でも来ると思って、色々と立ち上げていた事業の一つとして、2018年から日本にてベータ版をリリースし、恋活・婚活のパートナーを探している男女へヒアリングを行いました。立ち上げから創業メンバーとともに運営してたが、昨年法人化を機に代表に就任されたそうです。
テレビで紹介され「マッチングアプリってすごいね」というメッセージが来た
祖山さんは長野県のご出身です。マッチングアプリを作ると聞いて、長野にいる親はどんな反応だったのか聞いてみました。
「幸い、うちの両親はあまりマッチングアプリにネガティブなイメージを持っていませんでした。しかし、当時はまだマッチングアプリの認知度が低く分かりにくいこともあり、事業内容に関して具体的には話していませんでした。
2020年に有名なバラエティ番組でマッチングアプリが取り上げられ、次世代マッチングアプリとして弊社のサービスも紹介されました。番組を見て『マッチングアプリってすごいんだね』とメッセージが来たときは、とても嬉しかったですね」
“次世代マッチングアプリ”というのも、アプリ開発に着手した2018年時点ではPairs、Omiai、With、タップル、Tinderといった大手マッチングが既にリリースされていました。
祖山さんたちは日本に戻ってきて、まずマッチングアプリユーザーのヒアリングを始めたそうです。
「メッセージのやり取りが面倒くさい。メッセージを送っても会えないという声が多かったです。それでも『マッチングアプリってそういうものだよね』と思って使っていらっしゃる方が多かったのですが、利用者が増えるほどいずれ不満やストレスは顕在化するかなと思い、メッセージを省いて会えるような出会い方があればニーズがあるかもしれないと思いました」
メッセージのやり取りがなく会えるというコンセプトでサービスをリリースしたそうです。
数百人のデート日の調整をやっていたベータ版時代の苦労
サービスリリースから大変だったことを伺ってみました。
「アプリリリース前のベータ版ではユーザーの希望からAIがマッチングする仕組みはできていたのですが、デート日の日程調整は私たちがやっていました。
メッセージのやり取りがなく会えるサービスに果たして需要があるのかもわからず、はじめはユーザー一人一人に『今週末はデートしますか?』とメッセージを送っていたのです。月曜日になったらスタッフ1人あたり100名以上にメッセージを送っていました。
仕事が忙しい方が弊社のサービスを便利に思ってくれる方が多かったので、急な出張が入る方もいらっしゃいました。そのような時は再度デート日程を調整したりと、本当に大変でしたね。
今はデート参加から時間変更、キャンセルの対応までシステムで行っておりますが、一人一人のユーザー様とメッセージのやり取りを通して向き合えたことで、より具体的にどういったユーザー様が多いのか、どのような課題をお持ちなのか等想像ができ、その結果サービスの特徴や新しい機能開発に繋がったのだと思います。そのため、この地道な経験は良かったなと思っています。
今でも覚えているのは、デート参加申請した男性ユーザーの方から、地方で土砂崩れがあった時、どうしても土日に復興の手伝いに行きたいためデートをキャンセルさせて欲しいという連絡を頂きました。その方の想いや人柄が知れて、そのような方が使ってくれることを嬉しく思いました。」
キャンセルの対応や時間変更まで運営が行っていたのは驚きですね。
2020年の緊急事態宣言で休止に追い込まれる
無事にマッチングアプリとしてリリースしてからも苦労があったそうです。バチェラーデートはメッセージのやり取りを省き、まずデートしてみるというコンセプトです。
しかし、新型コロナ感染症が流行し2020年に一回目の緊急事態宣言が出ました。
デート場所であった殆どのカフェが立て続けに休業、不要不急の外出を控える等の自粛要請が続き、サービス提供が難しくなり、バチェラーデートは「サービス休止という」選択をしました。
「2カ月休止という選択をしたのですが、その結果、売り上げはほぼゼロになり、弊社を離れるメンバーもいました。
ビデオ通話で話せるビデオデート機能を搭載したり、お散歩デートを提案したこともありました。
今もビデオデートは機能としてはあるのですが、ユーザーの声を聞いてみたらやっぱり直接会いたいという方が多かったです。ビデオ通話では会話が盛り上がっているかどうかも分からないですし、相手の雰囲気が分からないので。
そこで、デートの集合場所として提案しているカフェに1件1件電話をして席数・席の感覚、感染対策等を調べました。
休止期間が明けてデートを再開後は自然な出会いがなくなったことによるマッチングアプリ市場の追い風に加え、リアルな出会いへのニーズの高まりもあり、デート数は前年に比べ3倍になりました。この経験からマッチングにとどまらず、『リアルな出会い』を提供するバチェラーデートの需要を確信しました。」
ユーザーの幸せのために、マッチングの精度を高め続けたい
「恋愛市場を盛り上げるためにも、マッチングの精度を上げることが使命だと思っています。今の相手探しは年齢、年収、学歴といった数値化できるもの以外の要素も重要です。
その中でAIに何を学習させていくのかが重要で、笑いのツボが合うか、話が合うのかといったコミュニケーション面で相性の良い人を紹介できるようにといった案も出ています。
昔であれば『ハイスペック男性』といえば高学歴・高収入・高身長のようなイメージがありましたが、令和ではマナー力、コミュニケーション力などの内面が優れている男性を『ハイスぺ』と呼ぶこともありますし、人により『ハイスぺ』の定義もバラバラになってきました。
コロナ禍で特に男性は自立した女性を求めるようになりましたし、恋愛面の強みがその時々で変化するため、変化に対応し続けていきたいなと思っています」
出会い目的以外の理由で登録する不正ユーザーって運営側は困っていないの?
私も気になっていることがあったので質問してみることにしました。
マッチングアプリの普及のせいでネットワークビジネスの被害者が増えたという報道があったりします。認知度が上がりユーザーが増えてきたら真面目な出会い目的以外で登録するユーザーが増えて困ることはないのだろうか?
「登録時の審査に加え毎デート後のユーザー評価による二段階審査制なので、そういう方が増えたという印象はないです。
運営側に不正ユーザーを通報する機能はありますが、直近数ヶ月で実際にデートした人からの違反の報告は0.3%(デート組数を母数とした場合)と変わらず低いです。通報されるユーザーのうち無断キャンセルが約4割で一番多く、真面目な目的以外での利用は1割に満たないです。無断キャンセルには罰金もあるのでユーザーが増えてドタキャン率が上がったということもないですよ」
『人生を変える出会い』を提供したい
祖山さんの出会いに対しての思いを教えてもらいました。
大学時代に当時流行っていたmixiがきっかけで、興味のあった国際協力のNGOのワークキャンプに参加しアフリカのウガンダへ行ったり、友人と7ヶ月かけて『繋がりと対話』をテーマに全国を自転車で周り、47都道府県で同世代の若者が集まって考えを話すイベントを行ったりと、色々なことにチャレンジするようになりました。
このように私自身が人生を変える出会いを経験したことと、自ら人と人とを繋げ、誰かの価値観・人生が少しでも変化するという経験をしたことが今のサービスへと繋がっていると思います。
また、共に立ち上げたメンバーも共通して、世の中へ貢献したい、世の中にプラスのインパクトを与えたいという想いを持ち、「出会い」を通じてユーザーの人生が少しでも豊かになればと、日々取り組んでいます。そういった思いも伝わったら嬉しいです