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橋岡大樹、小川航基、田中碧、齊藤未月……東京五輪の切符をつかむのは誰?

清水英斗サッカーライター
橋岡大樹(写真は2019 E-1選手権より)(写真:ロイター/アフロ)

AFC・U-23選手権、森保五輪ジャパンは1分け2敗でグループステージ敗退となった。

ここが一つの節目と考えていいだろう。競争と発掘のフェーズは終了した。次の3月の代表活動では、堂安律、久保建英、冨安健洋といったU-23欧州組が加わり、場合によっては大迫勇也らのオーバーエイジが早期合流するケースもあり得る。

これから五輪代表は、本番のチーム作りへ突入する。最終章の始まりだ。

すでに8~9割方のメンバーは固まったはず。オーバーエイジやU-23欧州組が加わっても、尚、生き残ることができる選手。すなわち今回のU-23選手権でアピールに成功した選手は誰か?

右サイドのタフガイ

最も印象に残ったのは、浦和レッズの橋岡大樹だった。

東京五輪は酷暑と過密日程の中で行われ、登録選手は18人という少数構成を強いられる。恐ろしい大会だ。森保監督は選手に求める3条件として「タフさ」「複数ポジション」「犠牲心」を挙げている。

「タフさ」。GK大迫敬介を除けば、中2日の3連戦でフル出場を果たしたのは橋岡1人だった。シリア戦では後半38分に右サイドから切り込み、上田綺世へ最高のクロスを蹴った。最もきつい後半の時間帯に、あれだけタフに、素晴らしい精度でプレーした。また、カタール戦も10人で戦うことになった後半に、切れの良い動きで相手のカウンターを防いでいる。東京五輪に向け、強烈なアピールに成功した。

さらに「複数ポジション」。カタール戦では味方の負傷もあり、橋岡は右センターバックに入った。右ウイングハーフだけでなく、ポジションを兼ねる選手であることを実証している。「犠牲心」も3試合を通して、特に10人で戦ったカタール戦では強いインパクトを残した。

一方、攻撃面では選択肢の乏しさを感じるが、とはいえ、E-1選手権を含め、試合を重ねるごとに成長している。クロスはまだ向上の余地はあるが、シリア戦の決定機に見られるように、味方FWの動きを確認してから蹴るのではなく、敵DFの急所に打ち込んで味方FWに“合わさせる”クロスを、橋岡は蹴っている。前者はタイミングが一歩遅れるが、後者は逃さない。合わせるのではなく、FWに合わさせる使役的なクロスを、橋岡は蹴っていた。今後もより一層、期待したい。

本命は後からやってきそうな1トップ

1トップは、小川航基が結果を残した。カタール戦では後半27分に見事なミドルシュートを叩き込み、相手に一泡吹かせている。

だが、それまでの時間帯はほぼ消えていた。上田に比べると、小川は最前線での駆け引きが乏しく、チャンスを引き出す動き、相手DFの背後を取る動きが少ない。オフザボールの質は低い。

ところが、後半は日本が1人少なくなり、勝たなければならないカタールは攻勢を強めた。途中から3バックを4バックに変更し、2バック気味で前掛かりになった。そして攻め疲れしたカタールが間延びする中で、小川もスペースを得て、千載一遇のチャンスを見事に決めている。

小川のゴールはこれらの状況に後押しされた面はある。とはいえ、ボールを受けてからシュートを打つまでの早さ、インパクトの強さは上田にないものであり、小川はクオリティーを見せつけた。

オフに優れた上田と、オンに優れた小川。2人を足したいところだが、そうもいかない。対世界の視点で言えば、機会は少なくとも一発のある小川のほうが可能性はあるだろうか。

しかし、この議論に意味はないかもしれない。なぜなら、オーバーエイジで大迫勇也が招集されることが濃厚になっているからだ。

大迫が招集される場合、小川と上田は共に落選し、前田大然が選ばれる可能性は高い。前田はシャドーでもプレーできるため、前述した「複数ポジション」の条件に当てはまる。また、1トップにポストプレーヤーと裏抜けタイプを組み合わせるのは、森保監督のセオリーでもある。アクシデントがない限りは、大迫勇と前田が有力だろう。

アツくなってきたボランチ争い

ボランチでは、川崎フロンターレの田中碧が光るプレーを見せた。パスさばきのほか、前線への飛び出しも積極的であり、攻撃に変化を付けていた。その動きを周りがもっと使ってくれれば、さらに目立ったかもしれないが。

とはいえ、田中碧はE-1選手権を含め、自陣で犯すパスミスなどの不安定さも気になる。このポジションはチームの心臓部だけに、森保監督は自身が信頼を置く柴崎岳を、オーバーエイジで望む可能性はある。同ポジションには中山雄太もおり、彼はこの世代のキャプテンシーを発揮する選手。田中碧はカタール戦の退場処分がどうなるかはわからないが、仮に処分が取り消されたとしても、依然厳しい状況だろう。

実は一歩リードしているのは、大阪体育大在学中の田中駿汰のほうかもしれない(J1札幌入りが内定)。サイズがあり、センターバックを兼ねられる「複数ポジション」の条件に当てはまるだけではなく、縦パスの精度も非常に優れていた。昨年6月のトゥーロン国際大会で姿を現した田中駿が、サプライズ招集を成し遂げる可能性はある。

最後に挙げておきたいのは、湘南ベルマーレの齊藤未月だ。

何といっても、ボール奪取には圧倒的な魅力がある。ポゼッションはやや難があり、シリア戦、特に前半はポゼッションのパスルートに蓋をするような立ち方をし、各駅停車のパス回しに、さらに臨時駅まで作ってしまった。ビルドアップの立ち方は改善点がある。

しかし、ボール奪取には圧倒的な魅力がある。

カタール戦では1人少なくなった後半頭から出場し、ハードワークで10人のチームを助けた。終盤にはボランチから右サイドハーフへポジションを移し、日本に脅威を与えていたドリブラーの20番ハリド・マジードを中心とする攻撃に対抗した。

カタール戦の采配、展開は、齊藤の重要性を強く認識させるものだった。勝ち切る、あるいは結果を得るためには、終盤にどうにか相手の猛攻を凌がなければならない。今回はサイドの守備強化として、齊藤を回す展開になったが、それ以外にも攻撃的なシャドーの選手を下げて齊藤に代える采配も考えられる。どこに入っても頼れる、圧倒的なボール奪取力。スタメンで起用しなくても、守備のユーティリティな切り札として用意したい選手だ。

誰が残るのか、誰が入るのか。世の中の話題は、解任とジャッジばかりだが、その裏で粛々と18人は絞り込まれていく。そんな四方山話も、代表チームの楽しみ方だったような気はする。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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