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久々に飲むとすぐ酔う理由は…お酒が弱くなった人は筋トレをすると良い?!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:アフロ)

先日、「久々に飲んだら大変酔っ払ってしまった」、「しばらく飲んでいないと酒に弱くなる」ということが話題になっていました。コロナ禍で外出や外食を控えており、少し感染状況が落ち着いてきたことをきっかけに、久々に飲み会に行ったという方も多いのかもしれません。しかし、しばらく飲まないと本当にお酒に弱くなるのでしょうか?

今回のテーマは次の3点です。

①酒への強さ弱さはどうやって決まるのか

②しばらく飲んでいないと酒に弱くなるのか

③安全に酒を楽しむ方法は?

というわけで、アルコールの代謝と、安全な酒の楽しみ方をご提示しようかと思います。年末年始は正攻法で乗り切りましょう

酒の吸収と影響

酒への強さというのはなんでしょうか?酒の様々な影響はどのようにして起こっているのでしょうか?まずはここから話を始めます。

アルコール(酒に含まれるのはエチルアルコール=エタノールですが、便宜上以下はアルコールと記載します)、実は経口摂取されると、口腔から直腸までの全ての消化管で血中に吸収されます。ただメインは胃と小腸で、約20%が胃、約80%が小腸で吸収されます。血中に吸収されたアルコールは肝臓に運ばれてアセトアルデヒドに分解され、アセトアルデヒドは酢に分解されます。酢と聞いたら無害な感じがしますよね。でもアセトアルデヒドは極めて毒性が強く、血管拡張により顔面や体を赤くしたり、頭痛、吐き気、動悸などの不快な症状を引き起こしたりします。まさに酒に悪酔いした状況です。というわけで、酒の影響はアルコールによるものと、アセトアルデヒド(以下アルデヒドと記載)によるものがあります。

アルコールそのものは中枢神経に作用します。少量だとまず大脳の前頭葉の機能低下が起こり、多幸感、多弁、ほろ酔い気分となります。その後、他の大脳機能も低下し、痛覚、視覚、嗅覚、味覚などの感覚が鈍麻していきます。アルコール濃度が高くなると大脳辺縁系や小脳が抑制されて、感情の抑制が効かず、千鳥足になります。いわゆる酔っ払いですね。そして脳幹部が抑制されると、昏睡状態、呼吸停止となり死に至ります。

酒の強い弱いはどうやって変わる?

以前の記事でも触れましたが、アルコールの分解は肝臓が行うので、アルコールの分解速度は肝臓の機能次第です。とはいえ、余程の肝機能障害がない限りはそこまでの個体差はなく、基本的に代謝速度は1時間あたり20mg/dL程度と一定です。酔っ払ったなぁという程度の軽度酩酊で大体血中アルコール濃度は100mg/dL程度なので、これを完全に分解するには5時間ほどかかる計算になります。

アルコールが脳に及ぼす影響にはある程度個体差があり、習慣的に飲酒している人では、徐々に耐性がついていきます。睡眠薬や安定剤がなかなか効かなくなる現象に似ており、大量に飲酒しなければ酔いを感じなくなるほどになる場合もあります。これが依存症を形成することにつながるのですが、しばらく酒を飲んでいない場合は耐性がなくなり、少量のアルコールでも中枢神経細胞への親和性が高まり、中枢神経機能が抑制されやすくなるかもしれません。

次にアルデヒドです。肝臓でアルデヒドの分解を頑張ってくれている「ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)」という酵素には個体差があることが知られています。特に日本人の約40%の人は、ALDH2の活性が弱いので、酒に弱い体質となっています。さらに、約4%の人は「不活性型」と呼ばれ、ALDH2が全く働かないので、少量のアルコール摂取でもアルデヒドが溜まってすぐに気持ちが悪くなってしまいます。先述の通り、この酵素が働かなければアルデヒドが溜まって、全身が紅潮します。飲んで赤くなる人は、アルデヒドの影響でこうなっているのです。

残念ながら、遺伝で酵素の活性度合いが決まるので、鍛えてどうにかなる問題ではありません。アルコール分解速度が早いほど二日酔いしにくいという研究もありますが、もともとの肝臓の機能に影響されるものと考えられます。アルコールやアルデヒドの分解という意味においては、酒の強弱は体質次第と言わざるを得ません。ただし、ALDH2は肝臓の他、筋肉にもあることが知られています。鍛えて筋肉を増やすと分解速度が少しだけ上がるかもしれません。また、アルコール分解速度に関しても、筋トレにより筋肉量を増やすと分解速度がやや高まることが示唆されています。

というわけで、久々に飲んで酔っ払いやすくなったなと感じた人は、もしかしたら耐性がなくなりアルコールの影響を受けやすくなっているという可能性と、筋肉量が低下しているという可能性が考えられます。コロナ禍では飲み会もなく、トレーニングに通うのも一苦労でしたから…。酒に強くなるために、たくさんアルコールを摂取して耐性をつけるのは不健康への第一歩ですので、個人的には筋トレをおすすめします。

安全な酒の飲み方は?

さて、アルコールやアルデヒドの影響を減らすと酒に強くなるのかもしれませんが、なかなかに大変です。より簡単にコントロールできる部分があるとしたら、吸収の過程です。胃と小腸で大半が吸収されるものの、小腸の吸収速度は大変高く、胃から小腸に流れると、あっという間に血中濃度が高まります。例えば、胃切除した人は、酔っ払う速度が早まるのです。

同じようなことが、空腹時に起こります。アルコールの影響で胃酸が分泌され蠕動運動を高めるので、すぐに胃を通過して小腸にアルコールが流れ込み、摂取したアルコールの60~90%が30分以内に、95%が1時間以内に吸収されます。胃の内容物があったり、胃の運動が低下したりという場合はアルコールの吸収が遅れます。そのほか、炭酸ガスは胃の運動を高める効果があるとされており、小腸への移動を促進してしまいます。従って、空腹時に駆けつけ三杯ということでビールを一気に飲み干すと、あっという間に出来上がってしまいます。いきなり酔っ払ってしまわないためには、できる限り食事をして胃の中にものを入れてから飲酒するのが良いです。

ちゃんぽんはヤバい?

よく言われるのが、様々な種類の酒を飲むとヤバいというものです。いわゆる「ちゃんぽんはヤバい」説です。本当にヤバいのでしょうか?

実は、ビール単品、ワイン単品、ビール→ワイン、ワイン→ビールという4種類の飲み方を比較した研究がありますが、二日酔いの度合いに差がなかったという報告がなされています。結局、ちゃんぽんをするとアルコールの総摂取量が増えるので酔っ払ってしまうのだと思います。

ただし、酒の中に含まれるアルコール以外の物質(発酵の過程で産生される化合物でコンジナーと呼ばれる)が二日酔いの程度と関連しているのではないかという説があり、バーボンはウォッカよりひどい二日酔いを経験させるそうです。バーボンを飲むなと言っているのではありません。飲み慣れない酒や、二日酔いを起こした経験のある酒を飲むときは、少し量を控えるなどの工夫をおすすめします。

まとめ

①酒への強さ弱さはどうやって決まるのか

 →代謝の能力と、中枢神経細胞への親和性・耐性で決まる

②しばらく飲んでいないと酒に弱くなるのか

 →代謝能力は変わらないかもしれないが、耐性が落ちるかも

③安全に酒を楽しむ方法は?

 →空腹で一気しない(駆けつけ三杯などもってのほか)

 →総量を控える

 →二日酔いしたことがある酒は注意

どうか感染症にも気を使いつつ、節度を保った飲み会を楽しんでいただければと思います。救急搬送される人が減りますように。

参考文献

[1] Mackus M, et al. The Association between Ethanol Elimination Rate and Hangover Severity. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(12):4324.

[2] Stewart MJ, et al. Distribution of messenger RNAs for aldehyde dehydrogenase 1, aldehyde dehydrogenase 2, and aldehyde dehydrogenase 5 in human tissues. J Investig Med. 1996;44(2):42-46.

[3] Köchling J, et al. Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine. Am J Clin Nutr. 2019;109(2):345-352.

[4] Rohsenow DJ, et al. Intoxication with bourbon versus vodka: effects on hangover, sleep, and next-day neurocognitive performance in young adults. Alcohol Clin Exp Res. 2010;34(3):509-518.

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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