日本の政治は、戦後最大の危機にあり、今その真価が問われている!
現在の政治状況は、第二次世界大戦後最大の危機的状況にある。
日本の政治は、戦後多くの危機に直面してきた。だが、日本の政治は、行政中心の政策形成のもと、行政に依存し、またお互いに手を取り合って、それらの難局を乗り越えてきた。
その後、そのスキームは政策形成が機能不全を起こしはじめた。それが、1980年代後半頃の時期である。そして、政権交代を含む政治的な変化や混乱と共に、行政改革および90年代の政治主導実現のための政治改革等がおこなわれた。その結果、小選挙区比例代表並立制と政党交付金の導入を柱とする政治改革四法(1994年成立)による政治改革や中央省庁の再編(2001年施行)等が行われ、ある程度の政治主導が実現した。
一方で、2000年代には、小泉政権や戦後生まれの初の総理による安倍政権(第一次)などが生まれるなど、自民党内にも新たなる政治の可能性が生まれたりもした。また当時は日本の国民や日本全体においても改革の機運と支持が高まると共に、2009年には非自民である民主党による本格的な政権交代が実現したのである。
ところが、同政権および与党民主党は、政権運営の識見および経験の不足から、あっけなくとん挫した。そのために、自民党は、党内では大した改革も行われることもないままで、旧来型の残滓が濃厚に残り、しかも政治のダイナミズムが低下し弱体化した政党として、2012年に政権に復帰した。
その時総理総裁になったのが安倍晋三氏だった。安倍氏は、元々オーソドックスなやり方を志向するどちらかといえば旧来型政治家であり、第一次安倍政権での失敗経験から政権をより長く継続するために選挙に勝つことを第一優先に考える政権運営を行った。このため、同政権は、短期的なあるいは目前の課題などはそれなりに対処することに成功し、長期化したが(その点では評価もできるが、長期化することで問題・課題も生まれた)、一部の政策などを除くと、低迷する日本に新しい可能性に切り開いていく、新たで根本的かつ大きな政策や制度を創出することはできなかった。
また安倍氏は、次の政治リーダーの育成や新たな政治の方向や進展も打ち出すこともせず、時間だけが経過し、国際社会における急激な変化と進展のなか、日本のプレゼンスの相対的低下はさらに加速したのである。
これらの状況において、国民は、改革の期待に大きく反した民主党政権の失敗から、改革に挫折・失望し、改革への機運や期待は完全に喪失した。またこのことが、変化を望まず変革しようとしない安倍政権(第二次安倍政権以降)が長期的に継続する基盤を消極的かつ結果として形成したのである。つまり、国民の改革への失望と安倍政権の非改革性が相互にリンクし補強し合い、同政権が継続し続けたのだ。そのために、その時期は、本来は時代における大きな変化のなか、多くの大きな政治・政策課題に対して果敢に取り組み、解決すべき時期であったが、それがなされることはなかったのである。
また導入された小選挙区制によって、党内の派閥の力が減衰したことはよかったが、他方で党幹部の力や政党の中央集権化が強化され、個々の議員の力やダイナミズムは低下し、政権交代自体への失望感や野党への期待の低下などとも絡んで、日本の政治全体のダイナミズムや個性ある議員の活躍なども衰退してきているといっても過言ではないだろう。政治のパワーの源泉は、熟議なども重要だが、本来は闘争であり、闘いであることを考えれば、その状況はかなり問題といっていいだろう。
現政権は、政策的な試みや内閣改造等により、雰囲気を変え、向上させようとしてきたが、岸田総理の場当たり的で空疎な政策や言葉・行動ゆえに、国民からの内閣支持率は低下の一途を辿ってきていた。
その状況で起きたのが、昨今の政治資金の問題である。岸田総理は、本事案での対応でも後手かつ表面的な対応で、国民の支持はさらに下がってきている。また本事案は、特定の派閥のみならず、自民党全体そして、さらに野党の対応の不十分さと脆弱さから、政治全体への不信感にもつながっているように感じる。
だが今般の政治の問題が、第二次世界大戦後における最大の危機だというのは、そのことを指しているのではない。
岸田政権は、多くの世論調査からもわかるように、既に国民からの支持は失ったということができる。本来なら、完全に政権交代が行われるべき事態だ。あるいは内閣総辞職すべき事態だ。だが、自民党内にもそして野党にも、岸田総理を交代させられる人材や勢力および交代できる人材もいないのだ。また総選挙も行えない事態なのだ。つまり、変化も改善も行えず、ニッチもサッチもいかない、完全に手詰まり状態なのだ(注1)。
そのことこそが、第二次世界大戦後最大の危機なのである。
政治や政策は、どんなに優れていて有効でも、社会が変化したり、長期化すれば必ず行き詰まったり、支持を失うものだ。それは、社会の必然だ。しかし、社会には、絶えずそれに代わるオールタナティブが存在していることが必要かつ重要だ。最近なら、ニュージーランドや英国の首相の交代の事例をみれば、そのことは明白だ。
ところが、である。日本には現時点では、そのオールタナティブがいないのだ。またあるとすれば、ワンポイントのリリーフで、女性なり若手を自民党の総裁・総理にすることだろう。そして、その方を中心に新たな政治の枠組みを打ち出すのだ(注2)。そうすれば、国民の政治に対する信頼はまずは大きく変わるだろう。だが、そのような交代を実現できる人材や勢力も見当たらないのだ。
それは安倍晋三氏が凶弾に倒れたことで生じた政治的バキュームが生みだした状況だが、そのような事態こそ、日本の政治の戦後最大の危機であるといえるだろう。
日本は、現在このように苦しい状況にあるが、この事態を乗り越え、新しい政治の状況を作り出していかねばならない。日本の政治は今、その真価が問われているということができるだろう。
(注1)この点については、次の記事等を参照のこと。
・「「近代政治史にない絶望感」 御厨貴さんが指摘する安倍元首相の影」(朝日新聞デジタル、2023年12月21日)
(注2)この点については、次の拙記事を参照のこと。
・「「ここまでくれば」、国会に政治資金に関する独立の機関を設置し、改正法案を提案させるべきだ」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2023年12月18日)