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11月の自殺者が昨年比11%増 長期化するコロナ影響・求められる支援は

市川衛医療の「翻訳家」
厚労省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」12月10日発表より筆者作成

※この記事では、自殺についてのデータを扱っています。具体的な事例の描写などはありませんが、いま、こころに余裕がない状態にいるかたは、読むと気持ちが暗くなってしまうかもしれません。以下の内容は、こころに余裕があるときにお読みください。

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厚生労働省は10日、11月末時点の自殺者数(速報値)を発表しました。11月の自殺者数は1798人と、昨年(1616人)と比べて11%ほど多くなりました。

この前月の10月には、単月の自殺者が2000人を超え、特に女性が大幅に増えたことが話題となりました。11月はそこまでの増加はなかったものの、やはり前年より多い状態が続いています。

国内の年間の自殺者数は、この10年ほど減り続けてきました。2011年には年間で30651人だったのが、2019年には20169人とおよそ3分の2にまで減りました。

ところが今年は、7月から前年を上回る状態が続いています。年間の累計でも11月までに19,101人と、昨年の11月まで(18,675人)を上回りました。

厚労省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」2020年12月10日発表より筆者作成
厚労省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」2020年12月10日発表より筆者作成

女性の増加が目立つ状態が続く

なぜ、増えているのでしょうか。特徴として指摘されているのが、女性の増加です。以下は、去年と今年の自殺者を男女に分けた推移をグラフにしたものです。

厚労省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」2020年12月10日発表より筆者作成
厚労省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」2020年12月10日発表より筆者作成

もともと自殺者は男性のほうが多く、今年もその状況は変わりません。ただ女性の2019年(黄緑)と2020年(赤)を比べると、7月以降を見ると、男性より増加の幅が大きいことが分かります。

なぜ、女性で増えているのでしょうか。背景には個人ごとに様々な要因があり、これがひとつと決めつけることは出来ません。

とはいえ、ひとつの要因として新型コロナの影響が長期化し、その経済的なしわよせが、特に女性に表れていることが指摘されています。

NHKと労働政策研究・研修機構が行ったアンケート調査では、雇用に大きな影響を受けた人(失業・離職・休業・労働時間急減)は男性が18%に対して、女性は26%と、4人に1人にのぼっていると指摘されています。

女性は、働いている人のなかで非正規雇用の割合が男性と比べて大きく、また、旅行業や飲食店など新型コロナの影響を受けた業界で働いている人が多いことが、その背景にあると考えられています。

著名人の自殺の影響も?問われるメディアの伝え方

もうひとつの要因として指摘されるのが、著名人の自殺のニュースです。

さきほど紹介した男女別のグラフを見ると、今年の7月、とくに女性で増加していることがわかります。7月は、ある著名人の方が自殺されたのでは?というニュースが繰り返し報じられました。

以前から著名人の自殺に関する報道が、子どもや若者、自殺念慮を抱えている人に強い影響を与え、「後追い自殺」を誘発しかねないことが指摘されています。

もちろん因果関係はわかりませんが、繰り返された報道やSNSでの拡散が、増加の要因となった可能性については否定できないと感じます。

厚生労働省は今年9月、メディア関係者向けに、「著名人の自殺に関する報道は「子どもや若者の自殺を誘発する可能性」があるため、WHO の『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道の徹底をお願いいたします。」とした文章を公開しています。

そのなかで、WHO(世界保健機関)の「自殺報道ガイドライン」から、下記のポイントを抜粋しています。

《自殺関連報道として「やるべきでないこと」》

・報道を過度に繰り返さないこと

・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと

・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと

・センセーショナルな見出しを使わないこと

・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

《自殺関連報道として「やるべきこと」》

・有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること

・支援策や相談先について、正しい情報を提供すること

・日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること

・自殺と自殺対策についての正しい情報を報道すること

上記はメディアへの提言ですが、この内容を心に留めておいて、逸脱するようなニュースやSNS投稿については見かけてもシェアしない、悪質なものに関してはプラットフォーム側に通報するといった対応をひとり一人がとることも役に立つかもしれません。

いのちを守るために、個人としてできることを

新型コロナの影響が長期化し、いま現在も「第3波」と呼ばれる感染拡大が全国で続いています。経済的に追い詰められ、先が見えない、つらい思いを抱えている人も少なくありません。そのなかで、自殺者数が前年を超える状態が続いています。

それを食い止めるのは、難しいことです。でも、私にもできることを考えてみると、例えば(考えたくはありませんが)今後、著名な方が自ら死を選ぶようなことが起きたときに、センセーショナルなニュースをシェアしないことはできます。

そして微かであっても、困窮者への支援やメンタルケアに取り組む団体や基金などに寄付してみることもできます。

それらが全体のトレンドを変えることに役立つかどうかはわかりませんが、まずは個人として、出来る範囲で出来ることから取り組んでいきたいと思います。

なお、いま生きづらさや、つらい思いを抱えていらっしゃる方向けに、各地域に「いのち支える相談窓口」が設置されています。もし相談してみようかな?と思われる方がいらしたら、いちど、下記のリンクを参照してみてください。

いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)

写真:アフロ

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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