Yahoo!ニュース

相手をウソつき呼ばわりする前に、本当のジャーナリストならやるべきことがあるのでは?

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
炎上をさせてから持論の展開というのはどうなんでしょう?(写真:アフロ)

SMAPの謝罪生中継にベッキー騒動に清原逮捕に、と年明けから波乱の年を感じさせる幕開けの2016年ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

気がついたらこんな記事がYahoo!ニュースにアップされ、いろんな方面で物議を醸しているようです。

取材に対してウソをつく組織「Yahoo! JAPAN」が信頼と品質など担保できるわけがない

要は「ジャーナリスト」の藤代さんが、ヤフーの宮坂社長に取材を申し込んだのに断られた一方で、朝日新聞にはガッツリ取材対応をしているのを見て、ウソをつかれたと怒っている、という話です。

まぁ、藤代さんは10年以上前から「ガ島通信」で炎上記者ブログと呼ばれてた実績のある人ですからね。

今回の記事もあまりの可燃性の高い釣り記事っぷりに、最初はスルーの一択と思っていたのですが、何だか議論の展開があまりに納得いかないので筆をとることにしました。

この話について語る前にまず情報開示をしておくと。

私自身は藤代さんが、「ガ島通信」というブログを書き始めた頃に知り合ったぐらいのもう10年以上の長いつきあいです。

彼を通じて様々なメディアの人を紹介してもらいましたし、WOMマーケティング協議会という口コミの協議会は、私と藤代さん、そしてビルコムの太田さんの三人が言い出しっぺで始まったぐらいですから、ある意味彼は戦友であるとも言えます。

そういう意味では、最初この記事を見たときも、「またやっとるなぁ、懲りないなぁ」ぐらいの印象しか無かったのですが。

どうにも周辺の議論の展開が納得いきません。

とりあえず事情を知らない方に今回の件を時系列でまとめると多分こんな感じ

■2月?藤代さんがヤフー広報に社長の宮坂さんへのインタビューを申し込む

↓ 

■2月?『Yahoo!ニュースについては担当責任者から語らせたいという宮坂本人の意向』があり社長取材を断られる

■2月18日ヤフーがメディアステートメントを発表する

■2月19日藤代さんがヤフーのメディアステートメントを、ヤフーが「メディア」であると認めたシンボルとして受け止める(参考ツイート

■2月24日朝日新聞が宮坂社長のインタビュー記事を公開する

■2月24日藤代さんがYahoo!ニュース個人に、ウソつき糾弾記事を公開する

■この記事を起点に錚々たるメンバーが釣られて、騒動が拡大

やまもといちろう 公式ブログ - 藤代裕之さん、ヤフージャパンに喧嘩を売る

会社広報は取材依頼を断る時に、どこまで「ウソ」(建前?)が許されるのか

【広報対応問題】ヤフーの中の人には期待せず期待しますよ

「抜かれて悔しい」ってことじゃない。

Yahoo JAPANは嘘つきなのか ジャーナリストってなんだ みんな残念だ

反応をそれぞれ読んでビックリしたんですけど、驚くほど、みんな藤代さんに好意的というか優しいんですよね。

記事を最初に見たときはもう少しみんな冷たく反応するのかなと思ったんですが。

当然、藤代さんと面識がある人が多いから行間を読めるというのもあるでしょうし、それぐらいヤフーの今後について不安視しているエネルギーも一方であるという話ではあるんでしょう。

正直、今回記事を書くことにしたのは、あまりの見事な延焼ぶりにちょっとジェラシーを感じてしまったのがあるのは否定できません(苦笑)。

まぁ、こんな自社をウソつき扱いする記事も、ちゃんと消されずに放置されるのがYahooニュース個人というプラットフォームの面白い点なわけですが、それは置いといて。

藤代さんが追及したいのはおそらく、ヤフーは今まで「メディア」なのか「プラットフォーム」なのか曖昧な姿勢をとり続けることで、通常の「メディア」であれば本来取るべき責任を記事配信元に押しつけてきた歴史があって、それを今回ヤフー自身が明確に自ら「メディア」であると宣言したのに、本当にその覚悟があるのか信じられない、というあたりの話なんでしょう。

その辺を宮坂さんに取材してはっきりしたかったのに、広報経由でウソをつかれて取材を断られたから、やっぱりヤフーはそんな「メディア」企業としての覚悟がないウソつき企業だ、というのが藤代さんが描いている絵に見えます。

あくまで想像です。違ったらごめんなさい。

まぁ、個人的にもこの手の、ヤフーやスマートニュース、NewsPicksなどのニュース系ポータルアプリが果たして「メディア」として自らが配信する記事への責任を取るのか、「プラットフォーム」として中立の立場を取るのかという議論は大好物ですし、藤代さんが今後展開したいんだろう議論のポイントは分からないでもないんですが。

それにしても今回の藤代さんのやり方はヒドいです。

どうしても納得いかないので、一つずつあげつらいます。

すでに長いですが、ここからさらに長文注意です。

■そもそも広報の対応は「ウソつき」と言えるのか?

まず、藤代さんの最初のウソつき糾弾記事の論拠はひとえに広報の人のこのコメントにあります。

『Yahoo!ニュースについては担当責任者から語らせたいという宮坂本人の意向』

藤代さんに対する取材は、このコメントによって断っておいて、朝日新聞の取材を受けているのは「ウソ」だ、という話ですね。

でもね、これウソって言えますか?

たしかに、上場企業の広報担当としてはこのメールの対応は脇が甘かった点があるのは明確です。

藤代さんの記事ではメールのやり取りも前後の文脈も良く分かりませんが、普通に考えたらこの部分はこう書くべきでしょう。

『Yahoo!ニュースについては「できる限り」担当責任者から語らせたいという宮坂本人の意向』

この一言が文章につくだけで、今回の件はウソにはなりません。

でも、この一言が無くてもこの文章ほとんど意味同じですよね。

語らせたい、という宮坂さん希望があるだけであって、別に宮坂さん本人の意向がかなわずに本人取材になることもあるわけです。

ハッキリ言って、このウソつき糾弾記事タイトルは、広報の人の揚げ足取りもいいところだと思ってしまうのは私だけでしょうか?

ひょっとしたら雑観練習帳さんが書いてるように、この文章以外にもヤフー広報側のいけてない対応があったのかもしれませんが、このウソつき糾弾記事では全く見えてきません。

これ、藤代さんが毛嫌いしていたタイトルだけでPV稼ごうとしてるバイラルメディアと何が違うんでしょうか?

素人目に見たらおんなじですよね?違います?

■広報のメール対応をあげつらうのはヘイトの連鎖じゃないの?

また、個人的には、今回のウソつき糾弾記事を広報のメール一つを起点に行うのも合点がいきません。

そもそも、

朝日新聞の記者も一度藤代さん同様に断られたのを食い下がったのかもしれませんし、

朝日新聞の記者の取材は最初は違う名目で打診されたけど結果的にYahooニュースの話だけになったのかもしれませんし。

ひょっとしたら朝日新聞の記者の取材を受けた結果、宮坂さんは今後はYahooニュースについては自分で対応するのをやめようと思ったのかもしれません。

その辺の確認もせずに、こんなウソと言い切るのには無理のある返信一つで、この記事を書いてるようにしか見えないわけですよ。

藤代さん本人は否定するかもしれませんが、これどう見たって自分が朝日の新聞記者と同じことを狙っていたのに出し抜かれたからキレただけに見えますよね?

そんな中、上記のヤフー広報のメールコメントを引用公開したことで、広報の人がどういう立場に追い込まれるか分かってやってますよね?

上記の発言を宮坂さんが本当に言ったのか、広報の人が方便で言ったのか分かりませんが、これは藤代さんによる広報の人に対する私刑だと思います。

誰もが情報発信できる時代。メディアパワーを持つのは、マスメディアだけではありません。誰もが私刑の引き金を引くことができるのです。やられたから、やり返す、マスメディアの人間は公人だから、晒しても良い。

その論理こそが、ネット上に溢れる恫喝や暴き合いの源泉であり、ヘイトが広がる芽になっているのではないでしょうか。私たち一人ひとりが、「私刑」の連鎖、ヘイトの連鎖を止めるための努力をしていく必要があります。

出典:ソーシャルメディアの実名暴き「私刑」の連鎖がヘイトを生む

この文章書いたの誰か分かりますよね?藤代さんですよ。

でも、今回の藤代さんの記事って、藤代さんが問題提起している私刑の連鎖、ヘイトの連鎖の起点になってませんか?

素人目に見たらおんなじですよね?違います?

■コメントして来た人の会社に連絡するのは萎縮効果狙いじゃないの?

さらに個人的にガッカリしたのがこの後の藤代さんのコメントに対する対応です。

今回の騒動は、やまもといちろうさんが藤代さんのウソつい糾弾記事をブログで紹介したことで拡散したわけですが、その記事に紹介されていた田野さんのツイッターコメントに対して藤代さんはガチ対応しています。

田野さんのコメントがこちら

地方紙出身フリーと朝日同列は無理でしょ

出典:Twitter

で、藤代さんの対応がこちら

これに関して広報から、LINEニュースはメディア・媒体に対してフラットな編集を行っている。個人のツイートであり社の方針とは無関係だが、所属を明かしている以上誤解を招く可能性があることは否定できないので厳重に注意する、と連絡ありました

出典:Twitter

これ、このコメントにわざわざ会社追及連絡するって、明らかに痛いところ突かれたからってことに見えますよね?

そもそものウソつき糾弾記事が、言いたかったのが広報のコメントについてなら、このコメントに対してこんなガチな対応する必要ないわけですよ。

関係機関に「処分はしないのですか?」と問い合わせたり、その対応・やり取りの電話やメールを公開したりする。このような圧力に晒されれば、判断を停止して「とりあえず謝っておこう」「処分しておこう」というその場しのぎの 対処に至る企業や組織が出るのも不思議ではない。萎縮効果は抜群だ。

出典:インターネットと「私刑化」する社会

これも藤代さんが自分で記事に書いてたことですよ。

でも、今回の藤代さんの対応って、藤代さんが問題提起している萎縮効果狙いのネット民の行動と同じになってませんか?

素人目に見たらおんなじですよね?違います?

■これは自らの利益のための記事じゃないの?

私も藤代さんとは長いつきあいですから、藤代さんがヤフーに言いたいことは何となく分からなくもないです。

ただ、そのためのやり方として、今回のウソつき糾弾記事は、あまりにやり方がヒドいです。

てっきり、今回の記事の後にすぐに内容を補足する長文の記事でも出てくるのかなと期待してましたが、ネット上で物議が広がるのに任せて数日間も自分はだんまりを決め込むというのは、正直ジャーナリストとしてどうかと思います。

今回の記事を見て、常識的な企業の広報の人達がどう対応するか想像しましたか?

「やっぱりフリーのジャーナリストって危ない人多いよね」

「個人で取材依頼してくる人ってこういう人多いから今後はお断りのメールのテンプレを完璧にしよう。」

「今後は、企業メディア以外の取材対応はしないようにしよう」

とかってなるわけですよ。

藤代さんは業界のためとかって、いつもの個人的正義感に燃えて今回の記事を書いたのかもしれませんが、正直今回の騒動で多くのフリーのジャーナリストの人達やライターの人達は、結果的に迷惑を被る確率の方が高いと思います。

藤代さん個人は今回の騒動で、周りの人から「ヤフーにケンカを売るなんて藤代さん凄い」とか「さすが藤代さんは筋を通す」とかって言われて評価されてるのかもしれませんが、藤代さんの現在の本業って法政大学の准教授ですよね。

本職でジャーナリストの仕事に人生賭けてるわけじゃないように見えるわけですよ。

こういうと藤代さんは間違いなく怒ると思いますが、少なくとも収益構造上は違いますよね。

藤代さん本人も「メディアは大きな影響力を持つからこそ、読者を欺いて自らの利益の為にメディアを使うことは戒めなければなりません。」って言ってましたよね。

今回の記事は、藤代さん個人の満足のためにメディアを使う行為になってませんか?

素人目に見たらおんなじですよね?違います?

※記事の本題に関係ないパートについて、ご指摘を頂きましたので削除をさせて頂きました。

個人的には年始のスマップの謝罪生中継で、私たちと同い年のはずの木村拓哉と中居正広が、地元の高校の不良集団のように公衆の面前で謝罪をさせられるシーンに衝撃を受けて、あの出来事を自分の中で消化できずに今日までブログを更新できずにいたわけですよ。

藤代さんも考えるところあったでしょ?

まぁ、今回の騒動で私のブログ更新停止問題については消化できたことに感謝しますが、そろそろ私たちも良い年なんだから、回りに与える影響を考えて発言するべきだと思うわけですよ。

みんながジャーナリストになる未来を藤代さんが引っ張るつもりなら、是非みんなが参考にすべきジャーナリストとして引っ張って欲しいと思うわけです。

自分が書いてることを自分であっさり否定する行動しちゃダメだと思うわけですよ。

ということで、藤代さんへの私信がエラく長くなってしまったので今日の所はこの辺で。

藤代さんとヤフーさんが無事に双方謝罪して分かり合い、メディア企業とプラットフォーム企業の相違点とメディアが負うべき責任をテーマについて議論する際には、かぶりつきの席で拝聴したいと思いますので、よろしくお願い致します。

追伸:そうこうしている間に藤代さんの記事が公開されたようです。

無自覚だったYahoo! JAPANのメディア化、ステートメントの実質化に向けて改善へ

(個人的想像はそれほど外していなかったようでホッとしております。)

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

徳力基彦の最近の記事