「前線」でも「後方」でも〜新型コロナが引き起こす経営破綻という名の医療崩壊
最前線の苦闘と後方の閑散
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりにより、医療機関は厳しい状況に追い込まれている。
重症患者急増により不足するベッド、人員不足、院内感染、マスクや防護服の不足…。こうした状況を戦争に例えるのは不適切だろうという声もあるが、野戦病院とでも言わざるを得ない状況だ。
私の知人の中にも、こうした最前線の現場に身を置く人たちがおり、厳しい状況を訴える声が届いている。
一方、そんな最前線からやや距離を置いた一般の病院では、逆の現象が起きている。患者が大幅に減っているのだ。
不要不急の受診が控えられている、外出が少なくなり、怪我や事故が減っているなど、様々な理由がある。
患者数の減少は、病理医である私も実感している。
現在私は複数の病院に非常勤として勤務し、病理診断を行っているが、どの病院も病理診断の標本の数が大きく減少している。
これは患者数の減少を反映していると当時に、学会などが不要不急の内視鏡検査や外科手術を控えるように言っているのも理由だ。
日本消化器内視鏡学会は以下のように提言している。
毎日新聞の記事によれば、新型コロナウイルスの検査をしている病院が風評被害を受けて患者が受診を避けるようになったことで患者数が激減しているという。
救急患者の数も減っている。
経営危機に直面
こうした患者減は、病院の収入源につながる。経営破綻する病院が増えるのではないかとも言われている。
これは民間病院にとどまらない。自治体病院など公立、公的病院も、以前から人口の減少などの影響を受けて赤字が続く病院も多く、昨年(2019年)には厚生労働省がこうした病院の統廃合の方針を示していた。
こうした中にさらなる患者減が加わったのだ。
新型コロナ患者を受け入れても赤字
新型コロナウイルス感染者を受け入れても、経営面からすればプラスにはならない。新型コロナウイルス感染者への対応は、マスクや防護服、そして治療、看護、検査等にあたる医療者の負担を増やす。患者一人当たりにかかる費用は多い。
全国医学部長病院長会議は以下のような声明を出している。
新型コロナウイルス患者を受け入れても、受け入れなくても、経営が厳しいということだ。
配置転換ができない
単純に考えれば、患者減になって余力ができた医療人材を、新型コロナウイルスの治療や看護、検査の最前線に投入すればいいのではないかと思ってしまう。
新型コロナウイルスを治療する病院とそうでない病院を分けて、人材を再配置すればいい。日本の病床数は世界有数だ。
しかし、ことはそれほど簡単ではない。
日本では、医療者に医療機関を超えた配置転換を指示することができる機関がないのだ。
前線の疲弊、前線も後方も経営破綻、配置転換もできない…。新型コロナウイルス感染症は、日本の医療体制が抱えてきた弱みにつけ込んで広がりつつあるのだ。
危機を乗り切るために
ここで嘆いていたところで何も変わらない。最前線に負担がかかり、後方には余剰人員がいるという状態をなんとか解消しなければならない。
自治体病院や公的病院は病院間での配置転換等がやりやすいかもしれない。民間病院や開業医は、経営の安定を担保として新型コロナウイルスの治療に協力するという形にするしかないかもしれない。いずれにせよ、様々な矛盾や不満が噴き出すだろう。物資不足、感染対策への不安、風評被害等に直面するだろう。
しかし、医療崩壊をただ眺めていることはできない。知恵を絞り総力戦で取り組んでいくしかない。
そしてこの危機を乗り越えたあと、日本の医療体制はどうあるべきか、問い直さなければならない。
病床数が多くても有効に活用できないのでは意味がない。
病院が多く、医療者が分散してる現状、民間病院主体で市場原理に医療を任せ、患者の奪い合いをしている現状…。こうした現状をどうするのか。
ともかく、私も含め、条件さえ整えば、なんらかの形で新型コロナウイルスの診断、治療等に関わる覚悟のある医療者は多いはずだ。まずは危機を乗り越えよう。