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LiSAから目が離せない 初ドラマ主題歌「愛錠」への思い、新作『LEO-NiNE』、「炎」を語る 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ・SACRA MUSIC、東海テレビ

LiSA初のドラマ主題歌「愛錠」は、話題のクライムサスペンスドラマ『13』を盛り上げるダークバラード

「愛錠」(8月17日配信)
「愛錠」(8月17日配信)

“オトナの土ドラ”枠の、桜庭ななみ主演のクライムサスペンスドラマ『13(サーティーン)』(東海テレビ・フジテレビ系/毎週土曜23時40分~)が話題だ。桜庭の圧巻の演技がSNS上で絶賛されているが、LiSAが歌う主題歌「愛錠(あいじょう)」(8月17日配信)にも注目が集まっている。13年間監禁されていた百合亜(桜庭)の複雑な心の内、叫びを代弁しているかのような歌詞と歌が、ドラマをさらに盛り上げる。LiSAは意外にもこれが初のドラマ主題歌で、まさにこのドラマを表すキーワードとなっている「愛錠」という言葉を、どうやって「つかむ」ことができたのか、この曲にどんな思いを込めたのかを聞いた。さらに約3年ぶりのオリジナルアルバム『LEO-NiNE』、同発の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌「炎」についても聞かせてもらった。

「ドラマ主題歌は、演じる人達の歌になっていく。『愛錠』は物語に曲を添えていくような感覚」

初めてのテレビドラマ主題歌ということで、アニメの主題歌、テーマ曲を制作する時と大きく違った点はあったのだろうか。そして歌詞を紡ぐ上でも違う感覚があったのだろうか。

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「今までアニメの楽曲をたくさん作ってきて、アニメもドラマももちろん物語があって、誰かの気持ちと寄り添って作りながら、“自分”の歌として作品に寄り添ってきたという自負があるので、これまでの作品との関わり方を認めていただいて、お話をいただけたのかなって勝手に喜んでいました(笑)。原作も脚本も読ませていただき、オリジナルドラマも観させていただいて、単純にいい作品だなって好きになりました。クライムサスペンスと呼ばれる作品にはなっていますが、主人公の百合亜も犯人の一樹(藤森慎吾)も、みんなの素直で真っすぐな愛情が複雑に絡まっているという印象で、そういう意味で“嘘がない”作品、素直な感情が絡まったからゆえに、クライムサスペンスになったんだなって理解しました。アニメの主題歌を担当するときは、その世界観を主題歌を歌う自分が表現するべきという責任もあるので、それこそ「紅蓮華」もそうですが、世界観に似合うフレーズや印象的な景色が絡んできやすくて。でもドラマは、現実の人が演じているので、思いだけをストレートに書いても、その演じる人達の歌になっていくというか、世界観に寄り添っていけるので、また別の楽しみ方があると思いました。『愛錠』は物語に曲を添えていくような感覚です」。

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このドラマは英BBCの大人気サスペンスドラマ「サーティーン/13 誘拐事件ファイル」のリメイクで、13歳の時に行方不明となった少女・百合亜が、13年後に突如家族の元に戻ってきたことで、止まっていた歯車が動き出し人々の運命を変えていく――百合亜に対しての犯人の黒川一樹のいき過ぎた「好き」という気持ちが、歪んだ愛情に変わってしまったところから事件に発展してしまう。そんなサスペンス要素の根底に流れる“純粋な愛”の存在が、LiSAの心を動かした。

「素直な感情が絡まったゆえに“事件”になったけど、百合亜と一樹の間にはすごく純粋なものが存在しているはずで、そこは共感できる部分だと思う

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「百合亜も13年間も監禁されている中で、情なのか、愛情なのか、恋なのか、一樹への“思い”は確かにあったと思うので、それが結果的によくない愛情だったとしても、二人の中にはすごく純粋なものがあったのでは、と客観的に思いました。自分が一樹に心を許してしまった罪悪感のようなものも芽生えると思いますが、それが純粋で真っすぐな気持ちで、一樹のことも嫌いになり切れないから、彼との生活のことも警察や他人に話せないけど、自分には本当に好きな人がいて、自分のことを純粋に待っていてくれるんじゃないかという、そのピュアな心はみんなが持っていると思うので、共感できる部分だと思います」。

「『愛錠』は、物語を観終わってもそれぞれの心の中に残っている、ふんわりとした“違和感”を表すような曲にしたいと思った」

何が真実なのか見えないところが、ドラマを盛り上げる要因になり、主題歌の、強いダークバラード「愛錠」というタイトルは、ドラマの全貌を表しているかのような深くてキャッチーなワードだ。

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「物語を読みながら、自分の中で印象的だったフレーズや描写部分を書き出してみると、「愛」という言葉が多くて。それでメロディに乗せながら自分で歌っていた時にやはり「愛情」という言葉がしっくりきたのですが、でもストレートな「愛情」ではなくて、もっとしっくりくる言葉を考えていたら、カギがついている「手錠」で繋がれているシーンが出てきたので、それで「愛錠」にしました。もちろん自分には13年間閉じ込められていた経験はないですが、誰かを思う気持ち、誰かを恨み切れない気持ちとか、その人に芽生えてしまう“情”の部分では、すごく理解できるなと思いました。家族とか親友、恋人と長く一緒にいると、やっぱり「情」や「情念」というものが生まれてくると思うし、それってどこか“カギ”のようだなって思って。このドラマの第一印象として、寂しさや儚さだったり、せつなさが伝わってくる作品だなと思ったので、バラードがいいなと思いました。この物語が終わっても、解決できていない気持ちが、ドラマを観た人の心にはあるだろうなと思って、解決しない音というか、ずっと不安定な気持ちを感じられる様に曲を作りました。私がアニメの主題歌やテーマ曲で歌っている、強い意志や希望を感じるものではなく、それぞれの心の中に残っている、ふんわりとした“違和感”を表すような楽曲にしたいと思いました」。

「愛錠」は「紅蓮華」を始め、これまでLiSAと共に数多くの作品を手がけてきた、草野華余子が作曲、江口亮がアレンジという、彼女が信頼するパートナーと作り上げた。

「曲もアレンジもこういう感じでいきたいですと伝えて、イメージに相応しいものを作っていただきました。演奏しているミュージシャンもいつもライヴでやってくれているバンドなので、ライヴ感も感じてもらえると思うし、レコーディング前に物語の説明と、自分の気持ちをメンバーにしっかり伝えたので、人間の情感が音にすごく入っていると思います。これは江口さんの言葉ですが、『ピアノが全てを引っ張っていた』と。ピアノの野間(康介)さんが不穏な感じとか、ドラマの世界観を素晴らしい音色で表現してくれました」。

「『紅蓮華』は、これまでの作品との関わり方、向き合い方が間違っていなかったんだと、自信をもらった作品」

「紅蓮華」が大ヒット&ロングヒット中で、これから発表する作品一作一作に、さらに大きな注目が集まってくる。そんな中で楽曲への向き合い方への変化はあったのだろうか。

「紅蓮華」(通常盤)
「紅蓮華」(通常盤)

「『紅蓮華』は『鬼滅の刃』の主題歌として作らせていただいた楽曲です。今まで色々な作品に関わらせていただいて、一つひとつについて、その時できることを全力でやってきました。『紅蓮華』もそのひとつで、それが受け入れられたことによって、逆に今までやってきたことを認めてもらえた感覚があって、作品との関わり方、向き合い方は、このやり方で間違っていなかったんだなって、自信をもらった感じです。そういう意味ではこれから発表していく作品も、スタンスは変わらないと思います」。

ワクワクの、その先へ。「進むべき方向に迷いがあった30代前半。でも『LEO-NiNE』で、大人になった今の自分が作る音楽によって、新しい道を切り拓くことができたと感じています」

先日、10月14日に3年ぶりの待望のオリジナルアルバム『LEO-NiNE』と、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌「炎」が同時発売されることが発表された。『LEO-NiNE』は3年分の進化と深化がつまった、濃いアルバムなっている。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』キービジュアル((C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable)
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』キービジュアル((C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable)

「このアルバムは実は3~4月頃には完成していて、もう100回くらい聴きました(笑)。その時々に寄り添えるアルバムというか、コロナ禍で自分達の活動がどうなるかわからないという状況の中でも、こんな今だから、とにかくできることをやろうと思っている「今」も、ちゃんと寄り添える楽曲がたくさんあって、我ながらすごくいいアルバムだなって思います(笑)。3年ぶりのアルバムということもあるのですが、自分の中でどこに向かっていけばいいのかということを、30代に入って迷っていたというか、見つけられていない気がしていました。正直にいうと、コロナ禍でこういう状況になる前から『LEO-NiNE』を作っている時は、本当にこれでいいのだろうかと迷っている自分がいました。今までとにかく突き進んできた私に、きっとみんなはもっとゴリゴリ攻める姿勢を求めてくれているのではないかと思って、そういう気持ちもわかると思いながらも、これから先、音楽を続けていくにあたって、それをやり続けていくのはちょっと難しいかなって思っていた30代前半の自分がいて。それで試行錯誤しながら「紅蓮華」や「unlasting」というシングルやこの「愛錠」を作って、自分がこれからも音楽を作り続けていくために、という提示をしたかったのが『LEO-NiNE』というアルバムでした。STAY HOME期間中、何もできないもやもやした時間を過ごす中でこのアルバムを聴いていると、やっとそこに自分が立てたというか、大人になった今の自分が作る音楽によって、自分で新しい道を切り拓くことができたと感じています。この状況の中で私はこのアルバムが“希望”になってくれたし、すごく「今」ピッタリなアルバムだと思います。その時々の思いをまっすぐ楽曲に込めたので、今聴いても自分の中で勝手にグッときてしまうというか。この作品を聴いてもらった時に、今まで応援してくれた人達は、『LiSAはこれからもっとワクワクした面白いところに行くんだな』って思ってもらえるようなアルバムになったと思うし、最近ファンになってくれた人たちも、『これから楽しいところに連れていってもらえるかもしれない』というワクワク感を、感じてもらえると思います」。

「『LEO-NiNE』は、辛い思いをして頑張った人こそが、ここにある歌、歌詞の気持ちをわかってもらえるはず」

日常や常識がコロナによってひっくり返され、感じたことがない不安に苛まれ、押しつぶされそうになっている人も多いと思うが、そんな時だからこそLiSAは『LEO-NiNE』を、特にリード曲の「play the world! feat.PABLO」を聴いて欲しいという。

「私はこれまで辛い思いや悔しい思いをたくさんして、もちろん楽しいこともありましたが、色々と乗り越えてきて、昨年つかみ取ったというか、みなさんに連れていってもらった「紅白歌合戦」という舞台に立てたことが、とても印象的な出来事でした。それを経てここからまた前へ前と進んでいくし、それが最高だと信じたいと思いながら作ったのが『play the world! feat.PABLO』です。『LEO-NiNE』って、言い方が難しいんですけど、辛い思いをして頑張った人こそが、ここにある歌、歌詞の気持ちをわかってもらえるというか。頑張って何が何でも生きていくんだという希望を持ちながら、悔んだり落ち込んだり挫折したり、そんな経験をした人達が、きっと私のことを好きになってくれるんだろうなと思っていて。今回コロナ禍の中でそういう経験や思いをした人も多いと思うし、『play~』の歌詞で<最高だって信じたい 産まれ落ちたからには最後まで beat me beat me そうだよな この世界を遊び尽くせ>という言葉があるのですが、こういう時だからこそ、みなさんに聴いて欲しいと思いました。『LEO-NiNE』は応援歌とか、戦っている人達の楽曲が多いので、もがきながら、必死に生きている人にこのアルバムを聴いていただきたいです。私も考えすぎるくらい考える時間を過ごし、そこで心に浮かんだことは「炎」に投影しました。そういう意味では、『LEO-NiNE』から続いていく先が見えていたし、待っていたので、過ごしてきた時間に感じたことは、きちんと音楽に落とし込むことができました」。

大ヒット曲「紅蓮華」が、アルバムの中でどういう存在になるのか、どんな光を放っているのかも、気になるところだ。

「『LEO-NiNE』の中の「紅蓮華」、めちゃくちゃいいです!(笑)。全然違う感じの『紅蓮華』が待っていますので、お楽しみに(笑)。発売されて一年以上経っていて、本当にたくさんの方に聴いていただけている曲が、また違う感じで聴こえてくるはずです」。 

「新しい表現ができるという気持ちで向き合えたアルバム。ライヴももっともっと素敵なものになる」

アルバムが完成したら当然ライヴで聴きたいと思うし、本人も歌いたいと思っているはずだ。でもライヴ開催の目途はまだ立っていない。そんな中でLiSAが今一番やりたいことを聞いてみると――。

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「とにかくみんなに会いたいです。でもやっぱりライヴかな…。自分自身が音楽スタイルも含めて、新しい表現ができるという気持ちでこのアルバムと向き合えたので、もっともっと素敵なライヴができる自信があります。ライヴがガラッと変わると思います。今までのライヴも最高なんですけど、もっとみんなが楽しいと思えることが絶対にあると思いながら、試行錯誤しながら今まで全力で走ってきて、今回じっくり考える時間があったので、さらに練りに練って、想像ばかりが膨らんでいるので(笑)、早くこれを具現化して、お見せしたいです」。

LiSA オフィシャルサイト

ドラマ『13』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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