ブラジルに必要だった連結させる選手。アルトゥールがコパ・アメリカで示した存在感。
ブラジル代表が、コパ・アメリカを制した。
ブラジルが最後に優勝したのは2007年に遡る。12年ぶりに、9度目のコパ・アメリカ制覇を達成している。
■ネイマールとコウチーニョ 交錯する運命
ただ、南米王者の称号を得るには、困難を乗り越える必要があった。大会直前の国際親善でネイマールが負傷。エースのコパ・アメリカ欠場が決まった。
ネイマールを欠いたブラジルだが、彼の生まれた年は同国の黄金世代であった。ネイマール、フィリップ・コウチーニョ、カセミロ、アリソン・ベッカーはいずれも1992年生まれで、なかでもネイマールとコウチーニョは早くから将来を嘱望されていた。
ネイマールとコウチーニョは2006年にU-14ブラジル代表で初めて顔を合わせている。そして、2008年にスペインのカタルーニャ州で行われたMIC(ミック/地中海国際大会)において、U-16代表として臨み優勝を果たした。しかし、同年に行われたU-17ワールドカップではグループリーグで敗退している。
その先は、運命の悪戯(いたずら)が彼らを襲う。
2011年1月にネイマールがU-20南米選手権に出場してブラジルの優勝に貢献した。だが、すでにインテルに移籍していたコウチーニョはその大会に参加していない。同年7月には、コウチーニョがU-20ワールドカップに参加。だがネイマールはコパ・アメリカ出場のために同大会参加を回避せざるを得なかった。
ネイマール(2億2200万ユーロ)、キリアン・ムバッペ(1億8000万ユーロ)、コウチーニョ(1億6000万ユーロ)。彼らの獲得に必要だった資金と移籍金においては、そのランキングで世界のトップ3に入る2選手になっている。
だが、今回のコパ・アメリカを前に、彼らに用意されたのはまたも異なる道だった。
そして、ネイマール不在のブラジルの課題はミドルゾーンに集約される。
■連結させる選手
「祝宴を行うには、リズムを刻む選手が必要だ。それはつまり、味方と味方を連結させるプレーヤーである」
ブラジル代表のチッチ監督は2018年2月に地元メディアのインタビューでそう語った。前任者であるドゥンガの下で、守備的なフットボールに傾倒していたカナリア軍団だが、チッチ監督に指揮が託されて中盤の重要性は高まっていた。
しかしながら、指揮官のチーム作りは右往左往する。2017年11月に行われた国際親善試合に向けて、チッチ監督は当時招集可能だったジョルジーニョ(現チェルシー)をブラジル代表に呼ばず、その代わりにジエゴ(フラメンゴ)やジュリアーノ(アル・ナスル)をリストに含めた。ジョルジーニョは最終的にイタリア代表でプレーする決断を下し、ブラジル国内ではチッチ監督の判断に対する批判が強まった。
そして、出現したのがアルトゥール・メロである。
ブラジルのエコ・システム(生態系)として、彼は機能するはずだった。だがチッチ監督はアルトゥールを呼ばなかった。呼べなかった、と言った方が正しいかもしれない。
2017-18シーズン、アルトゥールはリベルタドーレス杯で負傷して3カ月の離脱を余儀なくされた。さらに、ロシア・ワールドカップ直前に、今度は別の箇所を負傷して競争から外れる形となり、彼は世界最高峰の大会をテレビで観戦する羽目になった。ネイマール、コウチーニョ、ガブリエル・ジェズス、ウィリアンを攻撃陣に擁したブラジルは準々決勝でベルギーに敗れ、ベスト8で散った。
2010年の南アフリカワールドカップを制したスペインにはシャビ・エルナンデス、2014年のブラジル・ワールドカップで優勝したドイツにはトニ・クロースがいた。対して、2018年のフランスで輝いたのはエンゴロ・カンテで、すなわち中盤で回収力を発揮する選手だった。
このコパ・アメリカは、ブラジルにとって、分水嶺になり得る大会であった。チッチ監督はカセミロとフェルナンジーニョをダブルボランチに置き、4-2-3-1の布陣を敷く考えを持っていた。守備的なMFを2枚置くのか、連結させられる選手を据えるのか。結果として、指揮官はアルトゥールに賭け、タイトルを獲得した。
だがブラジル国民が期待するジョガ・ボニート(美しいフットボール)というのは、もう少し次元の高いものだろう。ネイマールが復帰するとなれば、彼を組み込みながらチームを作るという、また違った問題が発生する。それでも、老練な指揮官にとっては代表を率いての初タイトルであり、勝利が組織を強くするのも真理なのである。