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注目は復帰の乾と初招集の加藤。「新戦力」の台頭で戦術の幅が生まれる可能性も。

森田泰史スポーツライター
乾がハリルJAPANで出場したのは1試合のみ。本人の胸にも期するものがあるだろう(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

日本代表は7日、キリンチャレンジカップ2017でシリア代表と対戦する。ロシア・ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選イラク戦に向け、試金石となり得る試合だ。

シリア戦・イラク戦に備えてヴァイド・ハリルホジッチ監督は追加で呼んだ宇佐美貴史を含め26名を招集。なかでも注目したいのは乾貴士、加藤 恒平である。

■およそ2年ぶりに日の丸を背負う乾

乾にとっては、2015年3月31日に行われたJALチャレンジカップのウズベキスタン戦(5-1)以来、およそ2年2カ月ぶりの代表戦だ。これまで誰も成功を収められなかったスペインで、エイバルの主力として2シーズンを戦い抜いた乾を、指揮官はついに招集した。ただ、ハリルJAPANでサイドアタッカーに要求されるのは、得点力だ。原口元気、久保裕也もそうして代表に定着してきた。

最終節バルセロナ戦で鮮烈な2ゴールを決めた乾だが、今季リーガエスパニョーラで記録した得点数は「3」だ。決して得点能力の高い選手ではない。しかしながらエイバルでは1年を通じてキレのある動きを披露した。その連携力でエイバルのチームメートの信頼を勝ち取った乾には、代表において長友佑都とのコンビネーションで左サイドを制圧することを期待したい。それができれば原口や久保とは異なるタイプとして、今後もハリルホジッチのオプションになるはずだ。

長友はアジア最終予選第6節UAE戦(2-0)こそ、相手MFオマル・アブドゥルラフマンを抑えるためにオーバーラップを控えたが、前に乾がいれば上がりやすくなるだろう。乾は前線からのプレスを信条とするエイバルで積極的なチェイシングを叩き込まれている。スペイン移籍後、ハードワーカーに変貌を遂げた乾が守備面で長友を大いに助け、ディフェンス時にエネルギーを貯められた長友が敵陣を颯爽と駆け上がるという相乗効果が生まれるとベストだ。

左で崩して、右で仕留める。その逆も然り。大事なのはチームとして得点を奪い、失点を抑えて勝利を収めることである。幸い、右サイドには現在絶好調の久保がいる。ベルギーで得点を量産している彼は、まさに今「ケチャップがドバドバ出ている状態」にあり、代表戦でもその好調ぶりを示している。左サイドで乾と長友が躍動し、中央の岡崎慎司あるいは大迫勇也、逆サイドの久保がフィニッシュする形を機能させたいところだ。

■「デュエルの象徴」になる加藤とCBの空いた1枠

そして、もう一人着目したいのが、「ブルガリアのカトウ」として一躍脚光を浴びた加藤である。彼に求められるのは、言うまでもなく「ボールを刈り取る能力」だ。PFCベロエ・スタラ・ザゴラで人知れず磨いてきた能力を、ボスニア・ヘルツェゴビナ人指揮官は高く評価している。デュエルの強さ、中盤での守備はハリルJAPANの基盤となっているだけに、出来次第では一気に代表定着への足掛かりをつかむかもしれない。

ハリルホジッチは、ここ2戦で4-3-3を使用している。招集の際に加藤を「ホタル(山口蛍)と似ている」と評していた監督は加藤をアンカーで起用する考えだとみられる。加藤自身は「良い形でボールを奪って攻撃につなげたい」とアピールに意欲的だ。

また気になるのは、吉田麻也の相棒を誰が務めるかだ。三浦弦太、昌子源、槙野智章の3選手がCBの「1枠」を争う。このポジションには長く森重真人が座って来たが、彼は今回招集されていない。アジア最終予選全7試合で続いてきた吉田&森重のコンビを、シリア戦とイラク戦で埋めなければいけない。経験から言えば、槙野だろう。代表では左サイドバックのバックアッパーとして重宝されてきた。ハリルホジッチの敷く戦術に対する理解度も一番高い。

■システムの変更と戦術の多様性

最終予選では、ハリルホジッチは5試合で4-2-3-1を使用してきた。だが、UAE戦と第7節タイ戦(4-0)では4-3-3を使用している。アンカー+センターハーフ(CMF)2名を中盤に置き、時には4-5-1に姿を変えられるシステムをハリルホジッチは好んでいるように見える。中盤の安定感はハリルホジッチの掲げるサッカーの肝だ。就任当初はダブルボランチとトップ下でトライアングルを形成する布陣で、セットプレーで正確なキックを誇る清武弘嗣がトップ下の定位置を確保していた。だが長谷部誠の離脱で、指揮官はシステム変更に舵を切らざるを得なくなった。

主将を失い、UAE戦で試されたのが4-3-3だった。山口をアンカーに、今野泰幸、香川真司をCMFに配置した布陣はUAEのエースであるオマルを左SBの長友と連携しながら完璧に封じ込めることに成功。縦に速く、垂直な攻撃を嗜好するハリルホジッチは、世界との戦いを見据えている。奇しくも日本は2010年の南アフリカW杯、4-3-3でカメルーン戦(1-0)、オランダ戦(0-1)、デンマーク戦(3-1)を戦い抜いてグループステージ突破を決めている。このシステムが世界の強豪相手に一定の守備力を担保するのは証明済みである。

ハリルホジッチは第4節オーストラリア戦(1-1)で本田を1トップに起用し、サプライズを起こした。UAE戦ではGKに西川周作ではなく、川島永嗣を起用。その采配も周囲を驚かせた。指揮官は「ここぞ」と言うときに胆力を見せる。乾や加藤だけではなく、井手口陽介、遠藤航ら若い選手も虎視眈々と出番を待っている。代表常連組ではない選手が活躍すれば、競争は激しさを増し、かつチームに戦術の幅をもたらすことができる。それこそがハリルホジッチの真の狙いなのかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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