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相続がガラッと変わる~「知らなかった」では済まされない!「遺言書」作成の変更点と注意点

竹内豊行政書士
相続法の改正で自筆証書遺言の作成方法がガラッと変わります。(写真:アフロ)

今月7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立して7月13日に公布されました。

民法の相続法の分野については,昭和55年の「配偶者の法定相続分の引上げ」等以来,約40年間におよび実質的な見直しはされてきませんでした。しかし、その間にも,社会の高齢化が更に進展し,相続開始時における配偶者(主に、夫が死亡後の妻)の年齢も相対的に高齢化しているため,その保護の必要性が高まっていました。

今回の相続法の見直しは,このような「社会経済情勢の変化」に対応するものです。残された配偶者の生活に配慮する等の観点から,配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。

このほかにも,遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争(俗に言う「争族」)を防止する観点から,自筆証書遺言の方式を緩和するなど,多岐にわたる改正項目が盛り込まれています。

今回の相続法の改正内容は、「知りません」では済まされないレベルのものです。

そこで、いくつかある改正項目の中から、「自筆証書遺言の方式」がどのように変わったのかを見てみます。さらに、改正後の注意点についてもご指摘します。

なぜ自筆証書遺言の作成方式を変えたのか

自筆証書遺言は、自書能力(自分で文字が書けて理解できる能力)があれば、他人の関与を受けずに、一人で自由に作成することがでます。費用はほとんどかからないし、法律で要求されている方式も平易です。

具体的には、書面(ただし、材質は問わない。その上に字が書けて、押印できるものであればよい)による作成を前提として、「全文を自書」し、「日付を記入」し、「氏名を自書」し、「押印する」ことで足ります(民法968条)。

しかし、それでも法的知識が十分とはいえない一般の人々が作成した遺言が方式違反で争われる事例は少なくありません。そこで、「遺言者の意志の尊重」という点から方式の緩和が主張されてきました。

今回の相続法の改正では、自筆証書遺言の要件を一部緩和して、「自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については自書することを要しない」としました。

また、「争族」を回避する有効な手段として、作成方式を緩和することで「遺言」を普及させる狙いもあります。

なお、今回の法改正によって、条文は次のとおりに改正されます。

「改正前」の968条(自筆証書遺言)

1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2.自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

「改正後」の968条(自筆証書遺言)

1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2.前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3.自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

改正後の5つの注意点

方式が緩和されるといっても、「簡単に作れる」とは限りません。以下に「改正後」に懸念される注意点を5つ挙げます。

1.パソコンで作成できるのは「財産目録」だけ!

パソコンで作成できるのは、「相続財産の全部又は一部の目録」、つまり、財産目録(相続財産の一覧表)だけです。

「本文」「日付」「氏名」は従来と同様に自書しなければなりません。押印も現在と同様、省略できません。

2.印刷した「財産目録」には署名・印が必要!

「遺言者は、その目録の毎葉(括弧内省略)に署名し、印を押さなければならない」(改正民法968条2項)とされています。

つまり、パソコンで作成した「財産目録」には遺言者が自ら署名して印を押さなければなりません。

3.「財産目録」の訂正は要注意!

自筆証書遺言を訂正する場合は、「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」(改正民法968条3項)と定められています。

つまり、通常の文書の訂正方法(たとえば、訂正箇所に二重線を引いて訂正印を押す)とは全く違う「厳格な方式」が定められています。この訂正方法は「財産目録」も同様です。

では、出来上がった自筆証書遺言に訂正箇所が見つかったらどうしたらよいでしょうか。私は、民法が定める訂正方法は難しいので、新たに作成し直すことをお勧めします。

その際は、間違った遺言書はシュレッダーにかけるなどして処分すること。死後に2通以上遺言書が出てくると、遺言書の真贋や解釈をめぐる「争族」が発生する危険があります。

4.「数字」の打ち間違いに要注意!

たとえば、「財産目録」に記載する不動産の地番を「5番地」とするところを、キーボードを押し間違えて「6番地」としてしまったら、「全く違う物件」となってしまいます。また、預金の口座番号を正しくは「1235」を「1234」としたら「全く違う口座」になってしまいます。そうなると、遺言者死亡後の遺言執行(遺言の内容を実現する行為)が困難になるか最悪できなくなることもあります。

作成した遺言書は念には念を入れて確認しましょう。

5.肝心なのは内容!

いくら「財産目録」がパソコンで作成できて自筆証書遺言が作成しやすくなったといっても、肝心なのは遺言の「内容」です。これは「改正前」でも「改正後」でも変わりません。

たとえば、「長男に不動産を相続させる」としても、その長男が遺言者より先に死亡してしまったら、その不動産はどうなってしまうのでしょうか。この場合は、その不動産は遺産分割の対象、つまり、相続人で話し合って分けなければならなくなってしまうのです。そうなることが本意ではない場合は、「万一、長男が遺言者より以前に死亡してしまった場合は、長男の子である孫の太郎に相続させる」など「予備の遺言」を書いておく必要があります。

以上の注意点を念頭に置いて、法改正をきっかけに遺言書の作成に挑戦してはいかがでしょうか。

なお、実際にこの条文が施行されるのは「公布の日(2018年7月13日)から起算して6か月を経過した日」となります。それまでは、今までとおり「全文自書」しなければなりません。くれぐれもご注意ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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