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「8bit風」「16bit風」ゲームって何? 不可思議なジャンル表記が招く危うさとは

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:ロイター/アフロ)

プレスリリースなどに散見される、あいまいなジャンル表記やキャッチコピー

筆者は日々、各ゲームメーカーから送られてくるプレスリリースや、ニュースサイトの紹介記事、あるいはゲームの配信サイトに目を通しているが、昨今とりわけ気になることがある。それは、ゲームのジャンル表記、あるいはキャッチコピーが非常にわかりにくいタイトルをしばしば見掛けることだ。

「これはヘンだな……」と思うケースが特に多いのは、レトロゲームをオマージュした(と思われる)新作ゲームのプレスリリースだ。ここ1、2年ほどの間に、「本作は『8bit風』ゲームです」とか、「『90年代風』アクションゲームの最新作」などと紹介されたタイトルをしばしば目にするようになった感がある。

だが、画面写真やトレーラー映像を見ると、「これのどこが『8bit風』なんだ?」と首をかしげたり、「説明文と実際の内容が違っていないか?」と疑問を抱くことがままあるのだ。

「Yahoo!ゲーム」のトップページより。多種多彩なジャンルのゲームがズラリと並ぶ(筆者撮影 ※写真は本文の内容とは一切関係ありません。以下同)
「Yahoo!ゲーム」のトップページより。多種多彩なジャンルのゲームがズラリと並ぶ(筆者撮影 ※写真は本文の内容とは一切関係ありません。以下同)

ジャンル名がわかりにくいと、宣伝効果に悪影響が……

「8bit風」「90年代風」といった呼称は、いつ、誰が最初に言い出したのかは、筆者も正直よくわからない。気が付いたら、あちこちのメーカー、あるいはパブリッシャー、メディアがいつの間にか使うようになっていた、というのが率直な印象だ。

筆者なりの理解では、例えば「『8bit』風ゲーム」は、80年代に登場したファミリーコンピュータなどに代表されるゲーム機が8ビットのCPUを搭載していたことから、当時のゲームの作風を真似て作ったものに対して、このようなジャンル名で呼ぼうと決めたのだと思われる。

その特徴を大雑把に言えば、CGは2Dのドット絵だけで描き、昔の性能が低いハードと同様に、同時に表示するキャラクターや色の数をあえて少なくして古臭く見せることによって、「懐かしさ」をセールスポイントにしたことだろう。

でも、ちょっと待ってほしい。そもそも「bit」とは「binary digit」、すなわち1ケタの2進数(0か1)の略称であり、コンピューターにおける情報量の最小単位を意味する言葉だ。なので、「『8bit風』ゲーム」を直訳(?)すれば、「8ビット(2の8乗)単位でデータを処理できるっぽいゲーム」ということになってしまう。

(※実際には、こんな解釈をしながら読む人はまずいないだろうが……)

例えば、プレスリリースに「本作は、海軍を率いて艦船に指令を出し、世界制覇を目指すシミュレーションゲームです」と書かれていれば、どんな遊び方をするゲームなのかが、読み手に対してはっきり伝わるだろう。だが、「本作は、80年代の作品をオマージュした『8bit風』アクションゲームです」などと書かれた場合は、読み手にその意味が十分に伝わらず、「大昔のゲームを、今頃マネして何が楽しいんだろう?」などと思われて最後まで読んでもらえなかったり、トレーラー映像を再生してもらえなくなってしまう。

さらに、ライター(メディア)の立場から言わせていただくと、文章を読んでも画面写真を見ても、内容がよくわからないプレスリリースは正直、記事化しにくい。特に、発売前の新作ゲームを実機がない状態で原稿を書く場合は、そのゲームにはどんな特徴があって、どこが面白いのかを想像するのが困難だからだ。

せっかく頑張ってゲームを作ったのに、不可思議なジャンル名でリリースしたことでその内容が十分に伝わらず、その結果ユーザーに読まれなくなり、メディアや配信サイトにも注目されない事態になっては本末転倒だ。

8ビットCPUを使用したファミコン用のソフト、「星のカービィ 夢の泉の物語」のゲーム画面(Nintendo Switch Onlineにて筆者撮影)
8ビットCPUを使用したファミコン用のソフト、「星のカービィ 夢の泉の物語」のゲーム画面(Nintendo Switch Onlineにて筆者撮影)

「8bit風」のほかにも、「16bit風」という表現も何度か見掛けたことがある。これも「『8bit風』ゲーム」と同様に、80年代末期~90年代前半に人気だった、スーパーファミコンなどのCPUが16ビットだったことから、この時代に登場したゲームに作風を似せたというのが、そのネーミングの根拠なのだろう。

「『16bit風』ゲーム」というジャンル名を採用したメーカー側は、もしかしたら「8bitと16bitの区別なんて、ひと目ですぐにわかるでしょ?」と思ったのかもしれないが、実際にはそんな簡単に済むような話ではない。例えば、ファミコンよりも1年早い、1982年に発売されたホビーパソコンの「ぴゅう太」は、CPUこそ16ビットだったが、描画性能は8ビットCPUのファミコンよりも低かったという例がある。

また、俗に言う「ピコピコ音」のことを「『8bit風』サウンド」と称したプレスリリースや紹介記事も何度か目にしたことがある。だが、同じく80年代に登場した、16ビットCPUを積んだパソコンのPC-9801シリーズであっても、初期の機種では「ピコピコ音」しか鳴らすことができなかった。よって、このようなジャンル、あるいはキャッチコピーもあいまいに思える。

このように、「8bit風」か「16bit風」なのかを明確に切り分けてジャンル名を決定するのは、実は非常に難しいことなのだ。もし、これらの定義付けをきっちりやろうと思ったら、それこそ1本の論文が書けるほどの綿密な研究調査が必須だろう。

スーパーファミコン版「スーパーマリオワールド」より。前掲の写真と比べると、ひと目ではどちらが8ビット機、または16ビットゲーム機用ソフトか、意外と区別がつきにくい(Nintendo Switch Onlineにて筆者撮影)
スーパーファミコン版「スーパーマリオワールド」より。前掲の写真と比べると、ひと目ではどちらが8ビット機、または16ビットゲーム機用ソフトか、意外と区別がつきにくい(Nintendo Switch Onlineにて筆者撮影)

独自性の強いジャンル名を使用する際は、ぜひ注釈の追記を!

それでもメーカー側としては、タイトルごとのオリジナリティを際立たせるために、どうしても特殊なジャンル表記にこだわりたいという思いはきっとあるだろう。実は筆者も、かつてメーカー勤務時代にプレスリリースを作成した経験があるので、その気持ちはよくわかるつもりだ。

そこで、各メーカーやパブリッシャーの皆さんには、プレスリリースやダウンロード販売サイト用の紹介文を作成する際は、「『8bit風』とは?」「『90年代風』とは?」といった注釈を添え、読み手に対するフォローをぜひお願いしたい。たったそれだけのことでも、ユーザーにもメディアにとってもぐっと読みやすくなるので、たいへんありがたい。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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