Yahoo!ニュース

「Clubhouse上が音楽で溢れ、アーティストとファンが繋がる日を」活動続ける音楽家の想い

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
Clubhouseで活動を続けるオカリナ奏者みるとさん(本人提供)

新型コロナ感染症の拡大で演奏の機会が急激に減ってしまったミュージシャンたち。多くの演奏家たちが苦境に立たされ、経済的に逼迫している中、「音声SNS・Clubhouse上で複数の演奏家がほぼ遅延ゼロに近い状態で、かつリアルタイムでのセッションを行うことでミュージシャンたちに新しい活路が開けるのではないか」と考え、日々試行錯誤を繰り返しているミュージシャンたちがいる。

そのひとりが、オカリナ奏者のみるとさんだ。みるとさんは、自らも重度の持病を持つことから、新型コロナ感染症予防のために外出を限りなくゼロに抑えた生活を送っている。オカリナ奏者のみるとさんは、友人でありギタリストの加藤裕幸さんと大野元毅さん、遠隔セッションエンジニアの橋本敏邦さんと、一体どのような考えで、どのような活動をしているのか。

みるとさんから現在の心境などについて書かれた書面が寄せられた。以下、みるとさんの文章をそのままご紹介する。

なぜ僕はClubhouseに飛びついたのか?

Clubhouseが日本に上陸すると、僕は、いち早くそれに飛びつきました。Clubhouseのことを知り、そのコンセプトを聞いた時、最初に抱いた印象は「ついに音楽家が主役のSNSが上陸した」というものでした。音楽家の本質である音をダイレクトに発信できる媒体なのではないかと感じたのです。

以前から他にも音楽系SNSはありましたが、Clubhouseは、音楽に限定されないSNSという点が面白いと思いました。

音楽は、他カテゴリとの親和性が極めて高く、だからこそ、老若男女問わず様々なバックグラウンドを持つ方々が混在するClubhouseで音楽の可能性が無限に広がるだろうと期待に胸を膨らませました。

となれば、多くのミュージシャンたちが集まるSNSへと発展していくのではないかと考えたのです。これがClubhouseに飛びついた理由です。

もう一つ理由があります。僕は、以前から「遠隔セッション(アンサンブル)」に取り組んでいたため、遠隔セッションツールとの相性が非常に良いという予想が出来たことです。

オカリナ奏者みるとさん(本人提供)
オカリナ奏者みるとさん(本人提供)

重度の持病で外出できない日々と「Syncroom」との出会い

僕は重度の持病があるため、新型コロナウィルス感染を予防するため外出を自粛、さらに感染拡大で緊急事態宣言が出されましたが、宣言が解除されても、ほとんど外出が出来ない状況が続いています。

宣言解除後、周囲のミュージシャンたちが、無観客配信等のためにライブハウスやスタジオで音を交わす日々へとシフトしていく様子を横目に、自分だけが取り残されたような感覚を覚えました。

そんな中で現状を打破する可能性をもたらしてくれたのが、YAMAHAさんが開発した「Syncroom」です。

このソフトは、インターネットを介して限りなく小さな遅延で音を伝達し、まるでステージ上にいるかのような感覚でセッションを可能にしてくれる、画期的なツールです(通常の会議ソフトでは音が遅れて届く為、二人以上で音を交わすと、たちまちに崩壊します)。

すぐにSyncroomについて研究し導入したことで、在宅環境下でもミュージシャン同士でのセッションが可能になり、音楽配信をすることが可能になったのです。

しかし、問題もありました。

在宅でSyncroomを使った活動だけでは、『拡がっていかない』という問題です。

わざわざ回線切れ等のリスクを抱えてまで、敢えて遠隔でセッションをチャレンジするミュージシャンはそう多くはありません。僕は、限られたメンバーとの音楽活動しかできなくなりました。

また遠隔セッションでライブをしても、終了と同時に回線を切れば、自宅にいる僕にはすぐに静寂が訪れます。以前のように、皆で打ち上げ会場に行きライブの余韻に浸ることもありません。

音楽活動こそできていても、周囲のミュージシャンたちを見て、時折、自分だけが閉ざされた世界にいるような孤独感を抱くことがありました。

ClubhouseとSyncroomの融合がアーティストを救うかも

そんな壁を感じていた僕にとって、Clubhouseは、その壁を打ち破る最高のツールになると確信しました。

すぐに招待をしてくれる仲間を探し、ClubhouseとSyncroomを融合させる新たなスタイルの研究を始めました。1年にわたって完全在宅で活動し、研究し続けた経験をそのまま活かして、すんなりと遠隔セッション配信をClubhouse上で行うことに成功しました。

Clubhouseだけでは、音の遅延が大きすぎてまともにセッションはできません。そしてSyncroom自体に拡散力は期待できません。2つのツールが、こうしたそれぞれの弱点を見事に補いあい、大きな価値を生み出していると感じています。

Clubhouse上で音楽が溢れるよう、多くの人に情報発信していこうと考えました。

吉藤オリィさんのアドバイスで広がりが広がりを生む展開へ

遠隔セッションエンジニアとして日本の第一人者であり、かねてから交流があった橋本さん、そして1年間にわたりSyncroomでセッションを続けてきた仲間達とチームを組み、実験的にClubhouse上で最初のセッション配信を行いました。その配信後、驚くことにオーディエンス(聴く側の方々)から拍手が送られてきたのです。これまでの配信方法では、生の拍手の音を聴くなんてあり得ないことでした。久しぶりの拍手の音を耳にして、こみ上げるものがありました。

Syncroomだからこそ出来るアーティスト同士のぶつかり合いと、Clubhouseだからこそ作れるオーディエンスとの一体感に、確かな手ごたえを感じました。

ただ、技術的な課題はすんなりとクリアできたものの、この活動を拡散していくためのノウハウを僕は持ち合わせておりませんでした。

そんな僕を、Clubhouseでの活動開始に先立ち、陰に日向に応援してくださる方がいらっしゃいます。

分身ロボット『OriHime』をはじめ、様々な発明を通じて『人類の孤独を解消する』ことに尽力されている、株式会社オリィ研究所所長の吉藤オリィさんです。

貴重な時間を割いてくださり、情報発信を行う時間帯やルーム名の設定方法等、拡散のための様々なアイデアやアドバイスを授け、さらには、忙しい最中、合間をぬって配信にも駆けつけてくれました。

吉藤オリィさんのアイデアに基づいて始めたランチタイムセッション配信は、瞬く間に大盛況となり、人の集まるところにまたアーティストも集まり、新たな出会いの連続となりました。オリィさんの読み通りの展開となったのです。

吉藤オリィさん(株式会社オリィ研究所 提供)
吉藤オリィさん(株式会社オリィ研究所 提供)

さらなる展開へ 素敵な仲間との出会い

日々、Clubhouse上で聴きに来てくださる方との素晴らしい出会いが続く中で、大きな出来事がありました。日本全国、そして世界中を駆け巡るピアニスト・作曲家の中村天平さんとの出会いです。

人が集まる場所にまた人が集まるClubhouseの拡散力、吸引力のおかげで、僕たちのランチタイムセッション配信の情報が彼の下にも届きました。彼は、僕がClubhouse上で実践していることについて、先駆者だと賛嘆してくださり、出し惜しみせず情報を共有しようと言う考え方に対し、強く共感をして配信の中で声をかけてくれました。

その後、僕が彼の企画する部屋を訪れると、驚くほどに僕と価値観が近く、そして器の広い方だと言うことがわかり、彼の人間性に惹かれ夢中で対話を重ねるうちに関係は深まっていきました。彼の音楽を聴いて、スキルと音楽性の高さに驚嘆したのはその後です。

天平さんを通じて素敵な仲間との出会いも広がりました。2月16日には、天平さんたちの音楽家チームと、僕の遠隔セッションチーム合同で、これまで培ってきたノウハウ、情報を共に発信する企画を立ち上げ、多くのミュージシャンの道標となる情報を発信しました。

Clubhouse上が音楽で溢れ、アーティストとファンが繋がる日を

これを機に、Clubhouse上で多くのミュージシャンが音楽発信を出来るようになり、Clubhouse中で素敵な音楽が溢れる日々になることを願っています。

アーティストがファンを呼び、ファンが他のアーティストを呼び、数珠繋ぎ式につながり、毎日が新たな出会いの連続となったことで、僕は、Clubhouse上で出会ったミュージシャン仲間とのセッションの日々を送っています。

当初は、オリィさんほどの方が、なぜこんなにも僕を応援してくださるのだろうと、光栄に思いつつも戸惑いがありました。Clubhouse参加から約2週間が経ち、僕自身の孤独が解消されていることに気づいた時、オリィさんの行動の真意と優しさに涙が溢れました。

今は、オリィさんはじめ、支えてくれているサロンメンバーや仲間の温かい応援に応えたいと言う思いで、日々、Clubhouse上での活動に力を注いでいます。

(本人提供)
(本人提供)

オカリナ奏者みると

日本の代表的なオカリナ奏者の一人。

オカリナの特性、そして即興性の高い自身の音楽感性、エフェクターを駆使する特殊なスタイルなどのアイディンティティを全て融合させた【プログレッシブ・イージーリスニング】を確立しつつも、様々なジャンルへ対応し、多岐に渡る活動を行っている。

そのテクニックと音楽性は、アジアで最も実力の高いオカリナ奏者の一人として、海外を中心に高い評価を得ている。

2012年国際オカリナフェスティバル出演以降、ほぼ毎年、各国で開かれる国際フェスティバルに招聘され続ける。(2020年USフェスはオンライン出演)

台湾:『Milt Ocarina Cocktails』総合アルバムチャート「インスト部門」18位

香港:プリシラチャン『By Heart』5週連続総合チャート1位

香港:プリシラチャン『evolve』3週連続総合チャート1位 

Saturday Night with you より、『よこはまカフェ』『The Tigris』が

テレビ朝日系 ANN&スポーツ『ポータル』2013年テーマ曲起用

その他、活動は多岐にわたる。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

鎮目博道の最近の記事