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劇伴音楽作家・林ゆうき氏に聞く「音楽作家の権利とは」(後編)

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
林ゆうきさん(本人提供)

作詞家、作曲家など音楽を作っている人は「音楽作家」と呼ばれ、音楽作家たちにとって著作権使用料(印税)は大切な収入である。しかし、昨今ではJASRACのイメージ悪化を受けてなかなか肩身が狭い状況にあるという。こうした音楽作家の有志が集まって、現状を少しでも改善したいという思いのもと「音楽作家はつらいよ」というサイトが立ち上がったことは以前にもお伝えした。

前編に引き続き、「音楽作家はつらいよ」の活動に賛同する劇伴音楽作家・林ゆうきさんにインタビューし、林さんの「音楽作家と権利」についての思いを聞いた。

(前編からつづく)

Q:状況としては、林さんがむかし新人だった頃と比べると良くなっていますか、悪くなっていますか。

林:良くなっていると思います。昔より劇伴作家がめちゃめちゃ増えているとは思うんですけれども、そのぶん引退されている先生方とかもいらっしゃいますし。

なにより、前はテレビドラマ、映画、アニメぐらいしか、僕らの音楽が生きる場所はなかったんですが、最近だとテレビゲームもあるし、携帯アプリのゲームもあるし、NetflixだったりAmazonプライムだったり、そういう動画系のメディアがものすごい増えたので。YouTubeとかそういう動画配信に使われる音楽って、ものすごい増えたと思うんですよね。

音楽を作るというお仕事も、ものすごく増えていると思うし、1個の作品に対して1個の音楽を作りますという、なんか一緒に作品を作りますとかというのもあるけれども、誰が使ってもいいんですよ、月額幾らでここにあるものは使い放題みたいな「ライブラリーミュージック」というのがあって、そういったお仕事とかもあるので。前よりいろんなところで使われる、なんか分母は広まっているかなと思います。

Q:チャンスは増えているという感じなんですね。

林:だと思いますね。僕らより前の人たちというのは本当に、例えばどこどこの先生のご自宅に行って弟子にしてくださいみたいな感じで弟子について、やっと……みたいな人もいますが、今は別にTwitterでダイレクトメッセージを送っていけば、それでチャンスがもらえたりみたいなこともありますし。そう考えたら、チャンスはだいぶんありますね。

もちろん僕らの先輩の、バブル期から作っていた人から聞くと、1回のドラマの制作に何千万使えたよ、みたいな幻のような話を聞いたりするんですが、僕らはそれの10分の1ぐらいでやっていますよ。

もちろんそれはあるんですけれども、コンサートをします、CDが売れました、放送使用がありますとか、昔の人はそれだけだったかもしれないけれども、今だとその3つに加えて、海外で聴かれます、海外からの使用料も入ってきますとか、なんかもっといろんなことが増えてくると思うし、例えば徴収できるものの正確さも上がってきたりだとか、こういう技術があって、よりどこでどういうふうに聴かれたかというのも分かるようになってきてますし。

制作単価は下がるかもしれないけれども、放送使用とか利用で使われたものに対する単価だとかというものは、そんなに変わっていないというか、むしろ昔はそんなのはなかったという。

林ゆうきさん(本人提供)
林ゆうきさん(本人提供)

Q:ぜひいろんな才能あふれた若い方が入ってきて、一層盛り上がっていくといいですよね。

林:そうですね。やっぱりクリエーターとしての思いと、その分才能ある方は本当にいると思いますし、そういったときに、ちゃんとそれで食える、それで生活が回るというふうになっていないと、そんなジャンルは廃れてしまうと思うので。

Q:そういう意味で、一般の方々に「ぜひこういうことを分かってほしい」というようなことはありますか。

林:やっぱり、権利的なところなんですかね。最初のほうに申し上げたように「好きなことをやっているんだから権利主張なんかしてんじゃねえよ」というふうに思われたりすることもあるんですけれども、じゃあプロ野球選手が高額なお金をもらっていることに対しては、みんな不平不満を言わないじゃないですか。

王さんとか長嶋さんがスーパースターで、すごいいい暮らしをしているといって「野球をやって好きなことをしているんだから、そんないいお金をもらっているんじゃないよ」と言う人っていないと思うんですよね。その意識の違いはどこから出てくるんだろうなという。

昔からあるかどうかというところと、目に見えない音楽の権利があるんだよという意識が、普通の一般の人たちにわかりづらいということが、一番問題なんじゃないかなと思いますね。

「ご飯を作りました。1,000円です」とかというのは、物があるから分かりやすいし、それを実際に食べたりするし、作ってもらってそれに対してお金を払っていますということは分かると思いますけれども、音楽をテレビとか映像で使って、なんでお金を払わないと駄目なんですかというのが分かりにくい。

あのJASRACという謎の組織は何ですか? みたいな。あの人たちが回収してくれたお金が、回り回って僕らのところに来て、僕らも生活ができて子どもを育てられているし、ご飯も食べられているんですよというところが分からないと謎の組織のままだから。やっぱりそこの説明が全てだと思いますね。

Q:今後、そういう認識を一般の方に持ってもらうために、どういうことをしていこうというお考えが、何かありますか。

林:僕らのお仕事を知ってもらうということが、そちらにつながるのかなということは思いますし、10年前と比べて、劇伴サウンドトラックの作曲家ってどういうものなんですかという認知は、だいぶん上がっていると思いますよね。

じゃあ、その人たちがどういうふうにお金をもらっているのかとかということも、少しずつ理解されているのかなとは思うんですよね。SNSとかを見ていても、「この曲が好きだからカラオケで何回も歌って、推しにお金を届けよう」みたいなことを言っている人もいますし、カラオケでの利用が、その人の収入につながっているんだなということを、ご理解しているんだなと。

 JASRACさんは、要は荷物を受け取って運んでくれているようなもので、運送料を取っているだけなのに、「なんであいつらは取り立てているだけなのにあんなにお金を取っていくんだ」と言うんですけれども、いや、荷物を運んだら、その分人件費が要るし、みんな働いてくれているし当たり前だよと思うんです。けれども、それが人、物じゃなくて音になると、そこが響かないんだなという。音なのに響かないんだなというジレンマがありますね。

Q:世間における音楽の印税のイメージって、どう思われていると感じていますか。

林:そもそも、印税が入ってくるんでしょう?というふうに言われるけれども、じゃあどういうふうに入ってくると思います?と言ったときに、答えられる人って、おそらく1割もいないんじゃないかなと思っていて。

実際には、ものすごい複雑な経路で、いろんなお金がいろんな方向から来るじゃないですか。でもそこを、一般の人に詳しく、「こうなんですよ」ということを、例えばJASRACの説明のところとかを見ても書いてあるんですけれども、ものすごく分かりにくいし。

普通の人が絶対分かるはずないのになということを、どれだけ分かりやすく説明できるかということだと思いますけれども、音楽がそもそも権利ビジネスだと思っていない人のほうが多いと思いますよね。1曲を作っていくらですというスタイル、つまりアンパン1個いくらですというスタイルでやっている音楽もあるし、アンパンの作り方、レシピを教えますといったレシピ本でお金をもらっている人もいるし。

同じ物を売っている。でもお金の入り方が違うんですよというところの意識の違いかなという感じはありますけれども。

Q:最後にこの記事を読んでくださっている読者の方に一言メッセージをお願いします。

林:よくサブスクリプションとかはお金にならないんでしょう?みたいなことを言われたりもするんですけれども、じゃあ今音楽をどうやって聴くんですか? と言ったら、おそらく大多数の人はそれを使って聞いているんですよね。

僕らの音楽を、どこにいてもどの国にいても聴けるって今までになかったし、海外のすごいマイナーなアーティストのCDを取り寄せて、みんなが飛行機でやっと届いて聴けるみたいなことだったのが、ボタンをポンと押すだけで聴けるということは、素晴らしいことだなと思うので、その音楽というのが、どういう人によって作られたんだろうと。

その音楽は、どういうふうに作った人たちの元に、聴いてもらったら対価として戻ってくるんだろうというところを、ちょっとでも意識してもらえたらいいな。いっぱい楽しんでもらって、どこかで感じてもらえたらないいなと思いますね。

Q:ありがとうございました。

林ゆうきさん(本人提供)
林ゆうきさん(本人提供)

林ゆうき

1980年生まれ/京都府出身

元男子新体操選手。競技者としての音楽の選曲から伴奏音楽の世界へ傾倒していく。音楽経験はなかったが、大学在学中に独学で作曲活動を始める。卒業後、hideo kobayashiにトラックメイキングの基礎を学び、競技系ダンス全般の伴奏音楽制作を本格的に開始。さまざまなジャンルの音楽を取り込み、元踊り手としての感覚から映像との一体感に重きを置く、独自の音楽性を築く。主な作品:ドラマ「あさが来た」「リーガルハイ」アニメ「ハイキュー!!」「僕のヒーローアカデミア」「スタートゥインクルプリキュア」「からくりサーカス」映画「ONEPIECE FILM GOLD」「僕だけがいない街」ほか

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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