カワサキがヤマハを猛追だ!3度の世界王者ジョナサン・レイと共に25年ぶりの優勝なるか?
7月29日(日)に決勝レースを迎える「コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース第41回大会」(以下、鈴鹿8耐)は3年連続の王者「ヤマハ」と2年連続で2位表彰台を獲得している「カワサキ」による対決の構図が濃厚になってきた。今年は世界王者のジョナサン・レイを迎え、1993年の優勝(スコット・ラッセル/アーロン・スライト組)以来25年ぶりの勝利を狙う「カワサキ」に熱い視線が注がれている。
驚くべきジョナサン・レイの速さ
ついに鈴鹿8耐にジョナサン・レイが帰ってきた。2012年、当時「F.C.C. TSR Honda」のライダーとして鈴鹿8耐で優勝したイギリス人ライダーである。
レイは2014年まで同チームから鈴鹿8耐に参戦したが、2015年にレギュラー参戦の「スーパーバイク世界選手権」でホンダからカワサキワークスチームに電撃移籍。その後は同選手権で圧倒的なポテンシャルを見せるカワサキZX-10Rを駆り、3年連続でスーパーバイク世界選手権チャンピオンに君臨している。
レイはカワサキ移籍後の2015年〜17年でトータル39勝をマークし、3年間の勝率は50%。今季もすでに10勝をマークしており、史上初の4連覇に向け堂々のポイントリーダーにつける。また、優勝回数は62回でカール・フォガティが持つ最多勝記録を更新。チャンピオンという肩書きに留まらず、もはや誰もが認める「市販車バイクレースのマイスター」だ。
そんな最強のスーパーバイクライダー、レイはカワサキのトップチーム「Kawasaki Team Green」から昨年2位表彰台を獲得したレオン・ハスラム、渡辺一馬とトリオを形成して4年ぶりに鈴鹿8耐に参戦することになった。
ただ、あくまでレギュラーのスーパーバイク世界選手権が優先であるため、テスト走行できるチャンスは7月10 日〜12日の公開合同テストのみ。ライバルメーカーが合同テスト以外にも頻繁にプライベートテストを実施する中、レイの合流が実現できなかったことが不安視されていた。しかし、その心配はあっという間にかき消されることになる。レイは猛暑になった合同テスト2日目に鈴鹿8耐のターゲットタイムとなる2分6秒台のタイムをあっさりマークしたのだ。これには鈴鹿サーキットにいた誰もが驚いた。僅か1日半、5回のチャンスでまとめあげてくる実力はさすが世界チャンピオンのパフォーマンス。近年、多くのビッグネームが参戦した鈴鹿8耐だが、ここまでの早さで好タイムをマークしてきたライダーはそうそういない。改めて彼が史上最強の存在であることが明らかになった。
ワークスとも言える体制で勝利を狙う
今年の鈴鹿8耐にはヤマハ、ホンダのファクトリーチーム(ワークス)が参戦することで、「メーカーワークス対決」が一つの見所になっているが、カワサキは表立ってワークスを謳う体制ではない。「Kawasaki Team Green」は川崎重工の製品販売元であるカワサキモータースジャパンの運営によるチームである。
ワークスではないとは言え、その中身はワークスに近い。全日本ロードレースJSB1000への「Kawasaki Team Green」としての活動は、スーパーバイク世界選手権のカワサキワークスチーム「Kawasaki Racing Team」(KRT)が使用するカワサキZX-10RRの開発を担うという側面もあり、川崎重工・本体と密接な関係にある。開発の最前線にいることは変わりなく、ジョナサン・レイ三連覇の縁の下を支えるプロフェッショナル集団と言えよう。
「Kawasaki Team Green」は鈴鹿8耐に2014年から復帰。期待値は大きかったが、転倒するなどして好成績をあげられなかった。2016年からは鈴鹿8耐優勝経験を持つイギリス人、レオン・ハスラムを加えて躍進。献身的にチームに尽くすハスラムの加入はチームのポテンシャルを大幅に高めることになった。
そして、今季は全日本ロードレース・JSB1000のオートポリス(大分県)でエースの渡辺一馬が優勝。若手の松崎克哉と共にカワサキZX-10RRが1-2フィニッシュを達成するなど良い波に乗っている状態にある。さらにジョナサン・レイの好調ぶりとなれば、カワサキファンの期待は高まらない方がおかしい。
そんな「Kawasaki Team Green」のピットには今年は昨年までと違う変化がある。日本国内のチームに外国人スタッフが混じっているのだ。これはジョナサン・レイの参戦に関係がある。実は外国人スタッフたちはスーパーバイク世界選手権の「Kawasaki Racing Team」で仕事をするメンバー。その中にはレイのチーフエンジニアを務めるペレ・リバの姿があった。
ペレ・リバはグランプリやスーパースポーツ世界選手権で活躍したスペイン人の元ライダーで、2003年から2010年まで川崎重工のテストライダーも務めていた。ライダーからエンジニアへと転身し、ジョナサン・レイの三連覇を支えたキーマンがなんと鈴鹿8耐でもバックアップする。「Kawasaki Team Green」は昨年以上にワークス色を強めていると言えよう。
ヤマハに真っ向勝負のカワサキ
今季は春の早い段階から鈴鹿サーキットで頻繁に鈴鹿8耐に向けたテスト走行を行ってきた「Kawasaki Team Green」。全日本JSB1000の渡辺一馬だけでなく、レオン・ハスラムも英国スーパーバイク選手権のスケジュールの合間を縫ってテストに参加し、準備を進めてきた。2位表彰台に上がった2016年も2017年も、優勝した「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」と同一周回でレースを終えたのは「Kawasaki Team Green」だけ。ただ、2年間共にヤマハワークスに対して1周近い差がついているのは事実で、これを埋めるための努力を行ってきた。
ロングランが中心の合同テスト最終日に「Kawasaki Team Green」はヤマハを上回る、この日唯一の2分6秒台をマーク。カワサキの仕上がりが順調に進んでいることが明らかになった。開発の最前線に立っていた渡辺一馬は「レオン(=ハスラム)が速いのは去年まででも分かっていましたから、ジョニー(=レイ)の速さは楽しみにしていました。さすが世界チャンピオン、速いですね!僕もレオンも刺激をもらって、ペースが上がってきています」と語る。
ただ、王者のヤマハは手強い。全日本の中須賀克行、スーパーバイク世界選手権のアレックス・ロウズとマイケル・ファンデルマークの編成は変わっておらず、トリオの連携は鉄壁。ロウズとファンデルマークは共にスーパーバイク世界選手権で優勝し、波に乗った状態。タイヤが17インチホイール統一に変わったものの、すでに昨年の16.5インチを上回るペースを披露しているだけにライバルに対するマージンは昨年以上にあると見る向きもある。
それは追う立場のカワサキも自覚しているはずで、渡辺一馬は「ジョニーのテストがこの3日間しかないのは最初から決まっていたことです。雨のテストで確認もできましたし、あとはデータを見直してレース本番に備えるだけ。カワサキファンに楽しんでもらえるように頑張ります」とテストを総括する。
レースウィークになって様相が変わる可能性もゼロではない。ヤマハをキャッチアップするのは簡単ではないが、「Kawasaki Team Green」の新たな戦力、ジョナサン・レイはレースのキーマンとなるだろう。2010年、レイは初参戦の鈴鹿8耐で度重なるペナルティ消化と転倒で順位を落としたにも関わらず、3位表彰台を獲得するという伝説的なオーバーテイクショーを見せたことがあった。スイッチが入った時のレイのアグレッシブな走りはチームの大きな武器になるはずだ。
渡辺一馬、レオン・ハスラム、そしてジョナサン・レイというこれまでにないカワサキ最強のラインナップ。鈴鹿8耐にマジックをかけるのはきっと彼らだろう。カワサキファン、鈴鹿に集合せよ!
【Kawasaki Team Green近年の戦績】
2014年:予選4位/決勝12位
(柳川明/渡辺一樹/藤原克昭)
2015年:予選2位/決勝9位
(柳川明/H.ユディスティラ/渡辺一樹)
2016年:予選3位/決勝2位
(柳川明/L.ハスラム/渡辺一樹)
2017年:予選3位/決勝2位
(渡辺一馬/L.ハスラム/A.カマルザマン)