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伊丹十三作品『スーパーの女』を観る 商店街復活に向けたマインドセット

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

『スーパーの女』という映画がある。伊丹十三が脚本・監督を務めた作品である。

ごく簡単に言ってしまえば、スーパーのことが大好きな主婦が、幼なじみの経営する業績のよくないスーパーを立て直していくという話である。なんということもない話だが、これがなかなか面白い。事実この作品は、大ヒットの末、日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞した。

筆者はこの映画が、商店街を復興させるためのマインドセット、すなわち基本的な心のもちようを形づくるために、有益であると感じる。希望を求めて歩みを進めていく姿勢には、強く好感が持てる。ここにみられるようなマインドセットこそ、成功をもたらすために必要な要素である。

あらすじ

スーパーが大好きな主婦、花子と、彼女の幼なじみである五郎の二人が、主人公である。

大手の激安スーパー「安売り大魔王」が繁盛するなか、五郎が経営する弱小スーパー「正直屋」は、はっきりいってダメダメである。しかし、五郎の夢は「正直屋を日本一のスーパーにしてみせる」だ。五郎は花子のもつスーパーについての目利き能力を買い、花子に入社をお願いする。安売り大魔王のいんちきな商売のやり方に憤りを感じていた花子は、正直屋への入社を決めた。

レジ係のチーフとして勤める花子。お客様本位である花子は、お客様のためにならないことについては頑として譲らない。そのため当初は疎まれ、他の部署の職人らと対立し、数々の問題が発生する。それでも花子は、様々な提案を経営に対して行い、実績を上げていく。

花子は副店長に昇格。お客様本位の姿勢は変わらない。主婦たちの意見を聞き、経営に反映していく試みや、商品のリパック禁止などを施策として打ち出していく。

ついに正直屋の方針が変更された。「日本一お客様に信頼されるスーパーになる」と、五郎が宣言したのだ。自分たちの都合ではなく、お客様をみるスーパー。そのために、社員はみな自分たちの力でスーパーを変えていくのである。嬉しそうに。

最初に改善されたのは青果部。勉強会を行い、おいしく野菜を出荷する方法や、野菜をみずみずしく保つための包丁の入れ方などを学んでいった。

鮮魚部は、スーパーでは到底売れない高い魚を店頭に飾ることをやめ、生けすも解体することとなった。またチーフ職人は、技術を他の職人やパートへと継承することを要請される。最初は反発していた鮮魚部のチーフは、最後には花子を認めるようになる。

惣菜部は、たらこおにぎりの中身偽装をやめた。それから惣菜バイキングという新しい取り組みも行うことにした。

精肉部では、これまでひき肉は古くなった肉を使っていたが、以後は新鮮な肉を使うことになった。チーフ職人は猛反発である。しかしこのチーフが、出入業者に高級牛を横流ししていた事実が発覚。お咎めはなしだったが、結果的に商品の質の改善につながった。

成果が上がったことを実感できる瞬間が来た。正直屋にパートに来ていた主婦たちは、これまで正直屋で商品を買うことはなかった。しかし、自分たちで改善してきた商品。信頼できる商品である。ついに主婦らは、自らの勤める正直屋で、買い物をするようになったのである。

安売り大魔王の人員引き抜きが始まった。正直屋の店長と安売り大魔王の社長は、裏でつながっていたのである。必要な人員をいっぺんに引き抜き、正直屋を潰そうと試みた。しかし、店長および精肉部のチーフの二人と、ほか数名を除いて、ほとんどは正直屋に残ることを決意。自分たちが頑張ってつくってきた小さなスーパー、正直屋のほうが、大手の安売り大魔王よりも、誇りが持てるからであった。

よきマインドは言葉にあらわれる

この映画の何がいいって、一つひとつの施策が成功したら、従業員はみなその都度うれしそうにしているところだ。

作中から、いくつかの言葉を取り上げよう。ほとんどは花子の言葉である。

「お前、あんなこと言わしといていいのか?悔しくないのか?」

「主婦として絶対に許せない。」

「あら、でもお客様喜んでたわよ。」

「ルールを守って頂けないなら、お買い物して頂かなくて結構です。ほかのお客様のご迷惑になります。どうぞ、お引き取りくださいませ。」

「ありがとね、恩に着るからね。」

「いいものだけが並んでる売り場ってのはお客様に呼びかけるんだな。どうぞこっちいらっしゃいって。」

「卵のないスーパーなんてお客さんどう思いますか?信用には変えられませんよ。」

「あなたたちにこんな仕事させたくないわ。」

「花子さんがね、私らのために一人で頑張ってくれよるのをみて、つい口から出てしもうて。」

「店のためにお客様があるんじゃない。お客様のために店があるんだよ。」

「やるだけのことやろう。お店よ。最後には正直屋のお葬式になるかもしれないけど、やるだけのことやれば、お葬式になっても晴れやかな顔していられるよ」

「そうだな。じゃ倒れるとこまで行ってみるか。」

これらの言葉には、徹底したお客様志向がある。自分の仕事に責任をもち、そのために邁進する姿勢がみられる。よきマインドは伝播していく。一生懸命に頑張っていれば、必ず。

これと反対の言葉については、作品を観て頂ければよくわかるので、取り上げないことにする。よき行動を邪魔するのは、悪しきマインドを持った人たちである。よって行動を成果に結びつけるには、彼らのマインドをよきマインドへと変えるように仕向けるしかない。あるいは、悪しきマインドを持った人たちとは関わらないことを選択しなければならない。

よきマインドがなければ、よき行動には到らない。後ろ向きな姿勢、どうせやっても無理だからといった姿勢では、物事に真剣に取り組めない。やらされ感があるようでは、まったく楽しくない。それでは成果は上がらない。

そうではなく、前向きに、楽しくやっていこうじゃないかという気持ちが必要である。また、もし無理でもやるだけやったといえるならいいじゃないかという心持ちが必要である。笑顔を忘れず、希望を持つこと。これが何よりも重要である。すべての結果は、よきマインドセットによって生じた、行動の結果なのである。

どうかぜひ一度、この作品を観てほしい。筆者にはものを伝える力がない。ゆえに探し当てたこの作品に、思いを託したい。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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