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元世界ヘビー級チャンプ、ティム・ウィザスプーンが語る「井上尚弥の未来」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:山口裕朗

 元世界ヘビー級チャンピオンのティム・ウィザスプーンに、日本の至宝、現WBA/IBFバンタム級王者である井上尚弥の最近の4試合を見てもらった。

 昨年10月末日のジェイソン・モロニー戦では直後に印象を訊いたが、今回、改めて見直してくれた。

ティム・ウィザスプーン親子は井上尚弥の試合をじっくりと見た。 撮影:著者
ティム・ウィザスプーン親子は井上尚弥の試合をじっくりと見た。 撮影:著者

 「井上、非常にいいね! 彼のファイティングスタイル、好きだなぁ。物凄く自信を持ってリングに上がっている。ハードパンチャーだが、肩の力が抜けていてパンチも速い。ハードヒッターは時に『倒してやろう』と力んでしまうんだが、そうすると本来のパワーが出せないもんなんだ。

 井上に関してはそれが無い。スムーズに動き、チャンスにまとめて打てる。直近の4試合のなかで、一番インパクトが強いのはモロニ―戦かな。各ラウンドで相手を凌駕したね」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「俺が見る限り、井上のベストパンチは左フックかな? 目を見張るものがある。ジャブもストレートと呼べる速さだし、的確だ。この調子なら近いうちにバンタム級王座を統一するだろう。まったく問題ないと思うよ。

 メンタルも強いし、攻撃面はパーフェクトと言えるんじゃないか。ただ、まだまだ伸びる選手だからこそ、敢えて言う。ノニト・ドネア戦でいいパンチを食らっているように、ディフェンス面を磨く必要がある」

井上のファイティングスタイルがとても好きだと語った、元世界ヘビー級王者  撮影:著者
井上のファイティングスタイルがとても好きだと語った、元世界ヘビー級王者  撮影:著者

 「井上はバンタム級で敵がいなくなったら、ジュニアフェザー(スーパーバンタム)級にアップするだろう。5フィート5インチ(165センチ)の彼は自分よりも背が高く、手も長い選手との対戦が増える筈だ。

 そういった体躯で、世界のトップに相応しいテクニックを持ち合わせているチャンピオンたちと、今後井上は戦っていくんだ。オフェンスが井上と同レベルの選手もいるだろう。だからこそディフェンスが、成長の大きなカギになる」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「井上はカウンターも上手い。リーチの長い選手の右ストレートを左肩で受けて、そのまま右ストレートなんていうカウンターも使ってほしいな。フロイド・メイウェザー・ジュニアがよくやっていただろう。

 またヘッドスリップをしながら、距離を詰めていくことも覚えてほしい。ジョー・フレージャーやマイク・タイソンみたいに背が低い選手が相手の懐に入る際に、最適なんだ。

1971年3月8日、ニューヨーク、マジソン・スクエア・ガーデン。フレージャーは左フックでモハメド・アリからダウンを奪った
1971年3月8日、ニューヨーク、マジソン・スクエア・ガーデン。フレージャーは左フックでモハメド・アリからダウンを奪った写真:ロイター/アフロ

 現役時代、俺はディフェンスに自信を持っていた。ヘビー級は、一発のクリーンヒットを浴びたら終わってしまうからね。グリーンボーイ時代、参考にしたのがフレージャーさ。彼のヘッドスリップは速く、リズム感に溢れていただろう。絶対に下がらず、常に前に出ていたからSmokin(蒸気機関車)と呼ばれたんだよ。ヘッドスリップで相手のパンチを躱したからこそ、フレージャーは得意の左フックを武器に、32勝のうち27ものノックアウトを飾ったのさ」

フィラデルフィア郊外にある「Tim Witherspoon Boxing & Fitness Gym」にて  撮影:著者
フィラデルフィア郊外にある「Tim Witherspoon Boxing & Fitness Gym」にて  撮影:著者

 「ヘッドスリップをマスターすると、世界レベルでも本当にパンチを食わなくなる。俺はフレージャーより背が高く、もぐらなければ相手にパンチが届かないってことはなかったけれど、打たさずに打つことで、上っていけた。

 是非、井上も今後のデカい相手に対し、フレージャーのように接近して、あの強い左フックをぶち込んでほしいな」

WBOスーパーバンタム級チャンピオンのステファン・フルトン Photo: Amanda Westcott/SHOWTIME
WBOスーパーバンタム級チャンピオンのステファン・フルトン Photo: Amanda Westcott/SHOWTIME

 ティムの地元であるフィラデルフィアでは、先日、WBOスーパーバンタム級チャンピオンが誕生したばかりだ。

 「ステファン・フルトンのことは昔から知っている。アマチュア時代のヤツを見て、まさか将来、プロの世界で世界チャンプになるなんて思いもしなかった。でも、とにかく真面目なんだ。寡黙だしね。聞く耳を持ち、トレーナーのアドバイスを守ってコツコツ努力した結果だな。

 井上との対戦も十分あり得るだろう。フルトンとは同じジムを使っていた時期もあるし、井上より強いとか弱いとか、俺の口からは言えないよ。ただ、いいジャブを持った選手だってことは確かだ。

 井上はボブ・アラムが組むビッグマッチをこなしていけば、マニー・パッキャオのようになる可能性を持つ男だ。パッキャオはチューンナップ試合を挟まずに、いつもその時点で最強の相手と戦ったのが良かった。井上にも是非、そんな道を歩んでほしいね」

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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