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スリル満点の相掛かりを探究する藤井聡太二冠(19)おそれず応じて優位に立ったか? 竜王戦挑決第2局

松本博文将棋ライター
きのこ(写真:アフロ)

 8月30日。東京・将棋会館において第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局▲藤井聡太二冠(2組優勝)-△永瀬拓矢王座(1組優勝)戦がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 藤井二冠先手で相掛かり。序盤から激しい変化を含んでの進行です。藤井二冠が35手目を考慮中に12時となり、昼食休憩に入りました。

 永瀬王座の昼食、肉豆腐にはきのこが入っているのが目を惹きます。なぜその点が強調されるかというと、藤井二冠はきのこが苦手だからです。

 藤井二冠は東京・将棋会館近くの洋食店「ル・キャレ」でまだ注文をしたことがない段階で次のように語っています。

「ちなみにル・キャレで気になっているのが、ハッシュドビーフとビーフストロガノフのメニューにきのこが入ってるんじゃないかってことなんですが」

 高見泰地七段に尋ねて大丈夫と判断したか、挑決第1局ではハッシュドビーフを頼んでいます。

 苦手なものは、もうきのこぐらいしか残されてないのではないか、とも言われる藤井二冠。きのこを検知し、回避するための努力も惜しんでいないようです。

 先ほどの映像では、相掛かりの魅力をプレゼンする伊藤匠四段に対して、藤井二冠が感想を述べるやり取りがあります。

伊藤「相掛かりは比較的序盤の早い段階から、かなり激しい展開になりやすくて。そういうスリルを味わっていただけたら」

藤井「はい、あんまり最初からスリルを味わいたくない気もしますが」(笑顔)

 そうは言いながら、いつも藤井二冠は相掛かりで、自分から好んでスリルを味わいにいってるようにも見られます。

 12時40分、対局再開。藤井二冠はなおも考え続けます。やがてようやく手が動き、35手目、玉を右サイドに一つ上がりました。この一手の消費時間は1時間18分です。

 今度は永瀬王座が長考に入ります。

 筆者はこの頃、テレビ局のニュース番組を制作される方から戦況を尋ねられました。

「形勢は難しくて互角のようです。優劣がつくにはまだまだ時間がかかるでしょうね」

 そう答えたあとで中継の画面を見ると、評価値がかなり動いていました。

 36手目。永瀬王座は藤井陣に歩を打って形を乱しにかかります。決断の攻め。しかしここから形勢の針は、次第に藤井二冠へと傾きつつあるようです。

 藤井二冠は相手の手に乗りながら、中段の飛車を相手玉に迫る好位置に転換します。

 永瀬王座はうつむく時間が多くなってきました。その仕草だけを見ると、何か重大な誤算、錯覚があったのではないかとも思わせます。

 48手目。永瀬王座は攻防の角を打ちます。この手は「詰めろ飛車取り」。一見、永瀬王座の技が決まったかのようですが、藤井二冠の側には、それを上回る返し技があると見られています。

 17時20分頃、藤井二冠は飛車を切って金と刺し違えました。消費時間は32分。これがきれいな返し技。きわどいながらも、藤井二冠が優位に立ったようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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