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ミドル級頂上決戦、ゴロフキン対カネロ戦は本当に実現するのか 後編

杉浦大介スポーツライター

Photo By  Will Hart/K2 Promotions

ミドル級頂上決戦、ゴロフキン対カネロ戦は本当に実現するのか 前編

来年の開催が有力か

ただ、その一方で、ゴロフキン対カネロの開催時期は今年の9月ではないかもしれないとは思う。カーン戦を終えた後、WBCの指示通りに一応は交渉の席に着くだろう。しかし、報酬、ウェイトなどの諸条件で折り合わず、カネロが一度はタイトルを返上するシナリオが最も有力ではないか。

案の定、2月中旬のBoxingScene.comとのインタヴューで、カネロが 「1〜2年の間にこの試合(ゴロフキン戦)の規模はより大きくなる」と答えたことが一部のメディアから取り沙汰された。

「カネロが(ゴロフキンと)戦うことは間違いない。しかし、問題はいつになるか。この試合はいずれ実現するよ」

ダラス・カウボーイズのジェリー・ジョーンズ・オーナーとの会談後、オスカー・デラホーヤはそう語った。この言葉からも、GBPがリスキーな試合を少し先にしたいという含みは十分に感じられるはずだ。

まだ25歳のカネロの方に、ここまでリスキーなファイトに急いで向かう理由はない。ミゲール・コット戦のPPV売り上げは約90万件という数字が、このメキシカンアイドルの人気を証明した。例えWBCミドル級タイトルを返上しても、ベルトなしでも大イベントの主役になれるだけの興行価値をカネロは備えている。

普段は無鉄砲なまでにビッグファイトを望むカネロも、ここでの自重にメリットが大きいことは認識しているのかもしれない。徐々にミドル級に慣れ、英語のスピーチも磨いてさらに人気とステイタスを上げる。その間にゴロフキンはミドル級の3〜4団体を統一。その後の来年5、9月に両者が満を持して激突する・・・・・・周囲の話を聴く限り、そんな流れを想定している関係者、メディアが多いようである。

これ以上待たされるのは”イリーガル”

「2年後?そんなのは“合法”ではないよ。僕の方は準備ができていて、2年も待ちたくない。今すぐにやりたいんだ」

一刻も早くビッグイベントを実現させたいWBC暫定王者は、2月21日にニューヨークで行われたウェイド戦の会見の際にそう繰り返していた。

間をとって“1年後”だったとしても、ゴロフキン陣営には簡単には受け入れ難いことだろう。この試合の早期実現をより必要としているのは、ゴロフキンであることは言うまでもない。米リングのセンセーション的な存在となった通称“GGG”だが、アメリカでの人気、知名度はあくまでボクシング界限定。いわゆる“クロスオーバー”のスターになるため、ビッグイベントの勝者となってその魅力を満天下にアピールする必要がある。

フロイド・メイウェザー(アメリカ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)がメキシコ系アメリカ人のデラホーヤに勝って真のビッグネームになったのと同様、人気、知名度を上げるために、メキシカンのスターを下す以上に効果的な手段はない。

逆に言えば、この一戦がゴロフキンのキャリアにとって不可欠なことが、交渉時に彼らの弱みになりかねない。

「誰かを無理にリングに上げることはできない。望まないなら、無理強いはできない。カネロはゲンナディと戦うか、タイトルを返上するか、そのどちらか。ゲンナディの目標は全世界タイトルを統一することだ。(カネロ対カーンの)勝者と試合ができないなら、WBCタイトルを手に入れることになる。残るはWBOタイトルだけで、そこでどうするか考えるさ」

ゴロフキンが所属するK2プロモーションズのトム・ローフラー氏は、9月に向けた統一戦の交渉の難しさを覚悟するようなそんな言葉を残していた。

ゴロフキン側にも先延ばしのメリットはある?

待たされる側の苛立ちはもっともでもあるが、カネロの言葉通り、晴れて全団体統一王者になったゴロフキンに、ミドル級として実績を積み重ねたカネロが挑む形の方が、この試合は規模的により大きくなるのは真実でもある。

また、来年にはカネロもミドル級リミットの160 パウンドで戦う準備が恐らくは整うはずだ。一部のファンが毛嫌いするキャッチウェイトが不要になるという点でも、延期しておく意味はあるかもしれない。

もちろん、現時点ではすべては推測に過ぎない。両雄が次戦をクリアした5月8日以降、注目のミドル級最終決戦の交渉は開始されるのだろう。

多くの人が予想する通り、カネロは決戦前にもうワンクッションを置こうとするか。それとも、タイトル返上時の周囲のバッシングを嫌い、あるいはすでに準備が整ったと考え、“ハイリスク・ハイリターン”の大勝負にまっすぐに向かうか。もしも今年中に実現するなら、報酬分配、ウェイトはどうなるのか。

ハードルが山のようにあったメイウェザー対パッキャオ戦と違い、ゴロフキン対カネロにはプロモーター、テレビ局の違いによる問題は存在しない。実現は「If」ではなく「When」。そして、基本的にはすべてはカネロとGBPの意思次第である。

スリリングな予感とともに、両陣営の運命的なチェスマッチが数ヶ月後には始まろうとしている。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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