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ミドル級頂上決戦、ゴロフキン対カネロ戦は本当に実現するのか 前編

杉浦大介スポーツライター

Photo By  Will Hart/K2 Promotions

4月23日 ロスアンジェルス ザ・フォーラム

WBA,WBC,(暫定) IBF世界ミドル級タイトル戦

王者

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/33歳/34勝全勝(31KO))

IBF3位(指名挑戦者)

ドミニク・ウェイド(アメリカ/25歳/18戦全勝(12KO))

ウェイドって誰?

ゴロフキンの次戦の相手の名前を聴いて、“誰?”と思ったボクシングファンは多かったに違いない。

ウェイドがプロ転向して7年が経つが、まだ18戦のみ。10ラウンド以上を戦ったのも2戦だけとキャリアの浅い選手である。前戦では42歳の大ベテランのサム・ソリマン(オーストラリア)を下したものの、2−1の微妙な判定だった。

アマ戦績こそ豊富だが、それでもウェイドは米国内でも注目されていたプロスペクトではない。 2008年以降は21連続KO勝利を継続中の王者の相手としては、役者不足は否めないというのが正直なところである。

もともとゴロフキン陣営はWBO新王者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)との統一戦を希望したが、サンダース側が超高額報酬を望んだために決裂。代わりにIBF1位トレアノ・ジョンソン(アメリカ)との指名戦を目論むも、ジョンソンは右肩負傷のために4月の試合挙行は叶わなくなった。そんな状況下で、IBF3位ながら指名挑戦者としてウェイドにお鉢が回ってきたというわけだ。

25歳のチャレンジャーに現実的な番狂わせのチャンスを与えるファン、関係者は皆無。それでもほとんど誰もカザフスタンの怪物とは戦いたがらない中で、勇敢(無謀?)にも手を挙げたウェイドは、それだけで賞賛されているのが現状なのである。

ゴロフキンは紛れもなく現役最高の“ブギーマン(恐れられて対戦相手の見つからない選手)”。マッチメークは難しくなる一方。そんな流れを目にして、ウェイド戦後に予定されるビッグファイトが本当に挙行されるのかを心配するファンは多いのではないか。

カネロ戦は9月に挙行予定のはずだが

昨年11月21日に行われたWBC 世界ミドル級タイトル戦、ミゲール・コット(プエルトリコ)対サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の勝者には、次戦で暫定王者ゴロフキンの挑戦を受けることが義務付けられていた。

しかし、12月上旬にWBCも交えて催された会合で、両陣営は直接対決前に1戦を挟むことで合意。ゴロフキンはウェイドと、カネロは5月7日にアミア・カーン(イギリス)と対戦し、その後に2週間の交渉期間が与えられる。そこで話がまとまらなかった場合には、興行権入札になるというのがWBCの描く青写真である。目論見通りにいけば、ゴロフキン対カネロ戦は9月のメキシコ独立記念日の週末に挙行される方向だ。

この一戦こそが、現在のボクシング界で考えられる最大のファイト。一部で話題になっている通りにAT&Tスタジアム(カウボーイズ・スタジアム)で開催となれば、10万人近い観衆を集めるのではないか。

ただ、ビッグファイトが常にスムーズには決まらないのがボクシング界。ミドル級王者でありながら、カネロ側が155〜157パウンド程度のキャッチウェイトを主張した場合、話はこじれそうである。また、カネロ対コット戦のPPV売り上げは約90万件、昨年10月のゴロフキン対デビッド・レミュー(カナダ)は約15万件と興行実績には差があるだけに、カネロ側は多額のファイトマネーも要求するに違いない。

強敵との激突を望むカネロ

もっとも、ゴロフキン側は報酬面で大幅に譲歩しなければならないという現実を理解していること、K2プロモーションズとゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)の関係が良好なことなどから、このメガファイト実現に楽観的な関係者は少なくない。

他ならぬ筆者も、どちらかが前哨戦で負けるという事態がない限り、ゴロフキン対カネロは遅かれ早かれ実現すると見ている。カネロがこれまで強豪相手でも率先してリングに上がる姿を観てきた後で、ここで尻尾を巻くとは思えないからだ。

2013年以降、メキシコの新鋭は王者級と立て続けに拳を交え、その中にはオースティン・トラウト(アメリカ)、エリスランディ・ララ(キューバ)、フロイド・メイウェザー(アメリカ)といった苦手のアウトボクサーも含まれる。

特にトラウト、ララとのマッチアップにはGBPは消極的だったというが、カネロが強引に押し切った上で実現に至った。

この3戦は全敗したと見る関係者もいるし、毎度のようにキャッチウェイトを要求する点にもアンチは多い。筆者はトラウトにはカネロが明らかに勝ったと見たが、それでも実力自体は過大評価されていると考える。しかし、例え突っ込みどころは多くても、カネロが自身のレガシーを真剣に捉え、少々無鉄砲なまでにライバルとの対戦を望む選手であることは疑っていない。

ララやトラウトと違ってゴロフキンは破壊的なパンチャーゆえに、戦えば将来まで引きずるダメージを負いかねない。カネロを抱えるGBPは、大事なドル箱を冒険マッチに挑ませることを望んでいないのではないかという推測は消えない。

しかし、どんな理由をつけようと、ここまで待望された試合を受けなければ、カネロが失うものはとてつもなく大きい。これまでのキャリアを見てきて、彼が“戦わぬまま敗れる”方向を選ぶとは筆者には思えないのである。

ただ・・・・・・

(後編に続く)

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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