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東京五輪で女子ゴルフの連覇を狙う韓国朴セリ監督が描く「戦略」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
朴セリ(撮影:KANG MYUNG HO)

朴セリ独占インタビュー(5)

韓国スポーツ界を代表する国民的英雄にして、世界の女子ゴルフ界が認めるレジェンドである朴セリ。2016年10月に現役を引退したあと、現在はゴルフ中継の解説やフィリピンのゴルフ場設計、さらには輸入ワイン業者やアバレル・ブランドとコラボレーションした商品開発にも携わるなど、さまざまな顔を持つが、彼女にはもうひとつの肩書がある。

女子ゴルフ韓国代表監督という肩書だ。2016年リオデジャネイロ五輪でも女子ゴルフ韓国代表監督を務めたが、来年夏に日本で行われる2020年東京五輪でも、女子ゴルフ韓国代表の監督を務めることになった。

女子ゴルフが116年ぶりにオリンピック種目となった2016年リオデジャネイロ五輪で、韓国はパク・インピが見事に優勝。監督を務めた朴セリが浮かべていた涙が印象的だったが、来年の東京五輪にはどう挑むつもりなのか。連続インタビューの最後のテーマは東京五輪だ。

―今年1月に韓国ゴルフ協会から正式に女子ゴルフ韓国代表監督に再任され、来年の東京五輪を目指すことになりました。すでに来年について構想を始めていますか?

「東京五輪はすべての選手に可能性が開かれていますよね。監督である私が選ぶのではなく、ランキング上位者が東京五輪に出場することになります。現在、韓国はもちろん、アメリカでも多くの韓国人選手が活躍していますし、日本にも良い選手はたくさんいます。最終的に誰になるか、私も楽しみです」

(参考記事:日本だけじゃない!! アメリカで活躍する“韓国女子ゴルフ”ツヨカワ10傑を一挙公開

―前回リオデジャネイロ五輪に続き、ふたたび女子ゴルフ韓国代表の監督を受諾した理由が気になります。リオ直後、「苦しくて大変だった」と涙目で語っていましたが?

「とても大変でしたよ。ただ、私は子供の頃からオリンピックに出場したいと思っていたんです。

ただ、現役生活の終盤にゴルフが正式種目に復帰することが決まったときから、その機会は後輩たちに譲るべきだと思っていました。実際、ランキングでは彼女たちに敵わなかったわけですが(笑)、そんなときに“監督として参加しないか”と打診があった。オリンピックの舞台に116年ぶりに女子ゴルフが帰って来る。監督としてその舞台に立てるだけでも光栄に感じて、リオでは受諾しました。でも、想像していたよりも大変でしたね」

―選手を指導したり、戦略を立てることですか?

「いえいえ。リオに出場したパク・インビ、エイミー・ヤン、キム・セヨン、チョン・インジら選手たちはよく知っていたので意思疎通はまったく問題ありませんでした。ただ、選手たちの心理状態が私には手に取るようにわかるわけです。国民の期待と関心、それに伴う負担とプレッシャー、選手個々がその内面に温めてきたメダルへの想いなど、そのすべてが重くて大きく、彼女たちがどれだけ多くのものを背負っているかが私には手に取るようにわかっていました。ただ、私がそれを軽減させることもできない。監督をして、それが一番つらかったですね。ただ…」

―ただ?

「だからこそ、私は彼女たちの防波堤になり、傘になり、マネージャ―になろうと思いました。ルーティーンにしても生活リズムにしても、選手たちが普段と同じ通りできるようにしましたし、個々にコーチがいるので技術的なことは一切介入せず、彼女たちが自分のプレーに集中できるような環境を整えようと努めました。リオで私がしたことと言えば、栄養補給や精神的な安定を確保するために奔走したくらいです。監督というよりも、マネージャーのつもりで大会に臨んでいましたけ

―金メダルに輝いたパク・インビ選手は、「女子ゴルフ界の英雄がそばにいるだけで心強かった」と言っていました。

「嬉しい言葉ですね。ご存知の通り、大会前にインビに寄せられた期待は大きく、その一方で彼女はケガを抱えており、リオに行くべきかどうかと賛否が多かった。そういう状況下でリオ入りした彼女とミーティングの席を設けて、いろいろと話しました」

―どんなことを話し合ったのですか?

「“あなたの置かれた状況や心情、よくわかる。雑音は気にせず、最善を尽くそう。メダルを取れたらいいけど、成績のことは気にしないでいい。私たちはオリンピックの女子ゴルフを初めて経験する。つまり、道を作る立場。私たちがダメでも、その道を続く後輩たちにいつかいろいろと教えられるように、ベストを尽くそう”。そんな話をしました。結果的にはインビが最善を尽くして最高の結果を手にしたことで、最後のハッピーエンディングでしたよね」

―リオで作った道を、来年は東京でも歩むことになります。東京五輪に関してはどんな準備をされていますか?

「まだ具体的に準備を始めたわけではありませんが、事前視察は徹底させたいですね。リオは遠くてできませんでしたが、東京は韓国からも近いので、宿舎、移動導線、食事、練習環境、何よりも試合会場となる霞が関カントリークラブのコース・セッティングなどはくまなくチェックする必要があります。そのためにまた、東京に足を運ぼうと思っています」

―久しぶりに日本に来るわけですね。

「そんなことないですよ。2年前かな? ゴルフではなく観光旅行で初めて日本に行きました。温泉にも行ったしし、名古屋や大阪にも行って美味しいものをたくさん、いただきました。カレーうどん、焼き鳥、しゃぶじゃぶが特に美味しかったです(笑)」

―では、東京視察も楽しみですね(笑)

「いえいえ(笑)。グルメよりもゴルフです。美味しいものはオリンピックが終わったあとに、選手たちとたくさんいただくようにしますけ

―ぜひ期待しています。最後に、「今は人生のバックナインをプレーしている」ということですが、引退後のスコアはどんな感じでしょうか?

「そうですね。まだ引退して1年と半分くらいですから、ちょうど10番ホールを終わった感じでしょうか。スコア? 無難にパーで終わった感じでしょうか(笑)。監督として2度目のオリンピックとなる東京五輪は11番ホール。ぜひバーディーを取りたいですね」

*この記事は韓国スポーツ新聞『スポーツソウル』の協力で実現した独占インタビューであり、本稿掲載の許可を得ています。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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