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市民団体によるテレビ朝日HDへの株主提案。「報道ステーションで番組に政治介入あるも検証されていない」

赤澤竜也作家 編集者
テレビ朝日HDに株主提案した『テレビ輝け!市民ネットワーク』の面々(筆者撮影)

テレビ局の株を買い集めて株主提案権を獲得し、報道機関としてのテレビに本来の役割を果たさせることを目的に結成された『テレビ輝け!市民ネットワーク』。

4月8日午後1時、共同代表を務める田中優子法政大学名誉教授・前総長と前川喜平元文部科学省事務次官、および事務局を務める弁護士がテレビ朝日HDに対し、議案を提出した。

このうち『第1号議案』は、子会社テレビ朝日の制作する『報道ステーション』において、過去に番組報道に対して露骨な政治介入があったにもかかわらず、社内において検証が行われていないことを問題視し、第三者委員会を設置して調査公表することができるよう定款変更を求めていた。

内容は以下の通りである。

第1号議案
1 定款の追加
子会社の制作番組を含め報道番組などについて政治的な権力を持つ者からの圧力、介入により報道機関の公正報道を保ち難い疑いのある事例が過去10年以内にあった場合に、独立の第三者委員会を設立し、調査、公表する旨の定款を追加する。
2 提案理由
2015年1月、子会社の報道ステーションのコメンテーター古賀茂明氏の発言を巡って、政権幹部からの介入事例があり、テレビ朝日が政権の意向を忖度して古賀氏、同番組制作担当者を同年3月末に降板させたとの批判した文献などが存在する。
もし、この事実が真実ならば、憲法で保障された放送の自由を侵害するものである。
 テレビ番組の役割のおおきな目的の一つに政権に忖度、迎合しないで自主・自立の立場から放送する使命がある。この立場から、過去10年間の事実関係の存否、その経過、会社の対応について(又将来に同様の「介入」事例があった場合に)、独立の第三者委員会を設置し、調査し公表することを定款に定めることは、政治権力を持つ者の「介入」を予め防止する役割も持ち、同時に視聴者の信頼性をより高めることになる 。

コメンテーター古賀茂明氏の発言をめぐる政権幹部からの介入事例とはいったいなんなのか?

午後2時から行われた記者会見にて配布された「提案内容説明メモ」には以下のように記されていた。

第2次安倍政権が成立して以降、自民党によるテレビ番組への組織的、網羅的な介入が相次いだ。今回の提案とは直接関係のない他局へのものであるが、テレビ朝日への政治的圧力のキッカケとなった事案からご説明したい。

2014年11月18日、衆議院解散を表明した直後である安倍晋三首相はTBSの報道番組「NEWS23」に生出演した。番組内で景気回復についての街頭インタビューのVTRが流れ、「アベノミクスは感じていない。大企業しかわからへんのちゃう」といった批判的な意見も紹介される。アベノミクスへの賛意を示す方も取り上げられていたのだが、安倍首相はそのバランスが気に入らなかったのか、キャスターに向かって不快感を示し、「街の声ですから選んでおられると思いますよ」「事実6割の企業が賃上げしているんですから。これ全然、声反映されていませんが。おかしいじゃないですか」と抗議した(多くの文献記事あり・紹介は略)。

2日後である11月20日、在京テレビキー局の編成局長・報道局長宛てに、萩生田光一・自民党筆頭副幹事長、福井照・自民党報道局長の連名で「選挙時における報道の公正中立ならびに公正の確保についてのお願い」なる要請文書が送付された。(実際はまず自民党担当・平河クラブのキヤップに手交)。同文書は「出演者の発言回数や時間」「ゲスト出演者の選定」「テーマ選び」「街頭インタビユーや資料映像の使い方」など詳細にわたって番組内容に注文をつけるものだった。ちなみにこの報道圧力を即時に報じたテレビ局は一社もない。(多くの文献記事あり・紹介は略)。

そのうえでテレビ朝日に対し、11月26日、福井照・自民党報道局長名で『報道ステーション』担当プロデューサー宛てに「要請文書」を送付された。同文書では、11月24日放送のアベノミクスに関する同番組の特集内容について、肯定的な見方が紹介されておらず「放送法4条4号の規定に照らして十分意を尽くしているとは言えません」などと記載されていた。(『分断と凋落の日本』古賀茂明・講談社から引用)。

なお同日には、磯崎陽輔・内閣総理大臣補佐官が総務省の官僚に対し、「報道法第4条の政治的公平についての解釈について」の解釈について執拗な追及を開始している。(2023年3月2日、小西洋之参議院議員公表の総務省内部文書による)。

2015年1月18日、安倍晋三首相はエジプト・カイロにおいて「中東でIS国と戦う周辺各国に2億ドルの支援をする」と発言した。テレビ朝日『報道ステーション』コメンテーターだった古賀茂明氏はイスラム国に対し日本の政府が宣戦布告と誤解されると憂慮。1月23日の同番組において「(安倍首相の発言は)後藤さんを見殺しにする行為である」「日本人は安倍首相のように戦争したい訳ではない。『I am not ABE』というプラカードを掲げよう」と発言した。直後に首相官邸幹部がテレビ朝日の担当者に架電。さらに古賀は万死に値するという趣旨の抗議をしてきたと『官邸の暴走』古賀茂明・KADOKAWAに記載されている。

テレビ朝日の報道局はパニックになり、番組終了直後から報道局長が政治部長らと協議。担当プロデューサーらが呼び出され、「なぜあんな発言をさせたのか」と批判されたと『日本の中枢の狂謀』古賀茂明・講談社に記載がある。

2015年3月末をもって古賀茂明氏、および恵村順一郎氏が報道ステーションのコメンテーターを降板。当該担当プロデューサーも番組から離れる人事が行われる。古賀氏は最後の出演時である3月27日、「テレビ朝日の早河洋会長と古舘プロジェクトの会長の意向で今日が最後ということになりました」「菅義偉官房長官をはじめ、官邸の皆さんにはバッシングを受けてきた」と話したうえ、「I am not ABE」と書かれたフリップを提示。「官邸からまたいろんな批判が来るかもしれないが、陰で言わないでほしい。直接私のところに文句を言ってきて」と語った。

2015年4月17日、自民党の情報通信戦略調査会が、NHK『クローズアップ現代』のいわゆるやらせ疑惑と、テレビ朝日『報道ステーション』のコメンテーター古賀茂明氏の降板時の放送に関し、NHKの堂元光副会長とテレビ朝日・福田俊男専務を呼び出し「真実が曲げられた放送がされた可能性があるのかも含めて話を聞きたい」として非公開で事情聴取を行った。(『安倍官邸とテレビ』砂川浩慶・集英社)。

この聴取の動きについては、2015年11月6日、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである」と指摘し、同時に「放送に携わる者に対する干渉や圧力への毅然たる姿勢と矜持を求めている」旨の報告を行った。(『安倍官邸とテレビ』砂川浩慶・集英社)。

以上のように、テレビ朝日はその報道内容につき、政権中枢部より様々な政治的圧力を受けてきたと、様々な文献によって指摘されている。これら文献において指摘された内容の存否及び、もしそのような事実があったとすれば、会社ではどう対応したのか、その対応に問題があったのか、なかったのかについて内部で本来は検証されるべきである。しかし、文献において指摘された事実の存在、不存在かについて検証したという情報も視聴者に伝わってきていない。もし、指摘されているような政権幹部らからの攻撃などがあれば憲法で保証された表現の自由に対する重大な侵害と言える。仮にそのような事実が不存在であるならば、テレビ報道機関に対する「批判」がある以上、その事実を否定してテレビ報道機関の説明責任を果たし、視聴者に安心感を与えねばならぬ責務があろう。同じような批判が将来もあり得るとすれば、過去の事実の存否、実際の内容、その時の会社の対応などについて、独立の外部の者からなる第三者委員会を設立し、調査、公表する旨の定款の追加制定を求める次第である。

『報道ステーション』に対する安倍官邸からの執拗な政治介入についてはある程度わかっていたつもりだったが、自民党の情報通信戦略調査会が幹部を呼び出して非公開で事情聴取をしていたこと、NPOが「放送に携わる者に対する干渉や圧力への毅然たる姿勢と矜持を求めている」旨の報告を行ったことはまったく知らなかった。

6月下旬には行われるであろう株主総会において、テレビ朝日HDはいかなる回答をするのだろうか。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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