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2週間で2,400ミリの雨が降ったベトナム 次は『台風17号』上陸か

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ベトナムに向かっている台風17号の衛星写真 (出典: JMA/Himawari)

潤沢な雨が、豊かな農業を支えているベトナム。しかし今秋は中部を中心に「30年来で最悪」ともいわれるほどの大雨が降り続き、甚大な被害が出ています。

CNNによると、洪水や土砂崩れにより111人が亡くなり、22名が行方不明となっているもようです。25万軒の家屋が水に浸り、70万匹の牛や鶏が犠牲になっているとも伝えられています。

菅首相も、訪問先のベトナムで緊急支援の意向を表明しました。

モンスーンに台風の連続上陸

一体大雨の原因は何でしょうか。

そもそも10月というは、北東の季節風、いわゆる「北東モンスーン」の影響で一年でもっとも雨の多い時期に当たります。

今月はそれに加え、度重なる台風に見舞われています。11日(日)には台風15号、その4日後に台風16号が続けてベトナムに上陸しました。

古都フエでは、6日(火)から20日(火)までの総降水量が2,380ミリに達しています。これはフエの年間平均降水量の85%、さらに東京の1.5年分の降水量に匹敵します。とんでもない量の大雨が降っているのです。

フエの日降水量 (筆者作成)
フエの日降水量 (筆者作成)

台風17号も上陸へ

泣きっ面に蜂と言いましょうか、週末には新たな台風が上陸する恐れが高まっています。現在南シナ海を西進している、台風17号(国際名「ソーデル」)です。25日(日)夜にもベトナム北部から中部にかけてのエリアを直撃する見込みで、さらなる被害の拡大が懸念されます。

ベトナムの周辺国でも災害が多発していて、カンボジアでは24万人が被災し、30名超が亡くなったと伝えられています。またタイでも全77県中28県が被害に遭い、25万軒が被害に遭っているとのことですから、雨の影響は広範囲に及んでいます。

台風17号の予想進路図 (出典: 気象庁)
台風17号の予想進路図 (出典: 気象庁)

原因は「ラニーニャ」か

なぜ台風が次々にベトナムに上陸しているのでしょうか。その背景には「ラニーニャ現象」が関係しているようです。

ラニーニャ現象の発生時、太平洋東部の海上にはいつもより強い東風が吹いています。その結果、温かい海水が例年よりも西へと運ばれ、台風の発生しやすい場所も西に偏ります。さらに10月ともなると、台風は北上せず西進するようになるため、台風がインドシナ半島を直撃するコースを取りやすくなるのです。

海水温の平年差。太平洋東部では例年よりも海水温が低い「ラニーニャ」現象が起きている一方、東部は高くなっている。(出典: NOAA)
海水温の平年差。太平洋東部では例年よりも海水温が低い「ラニーニャ」現象が起きている一方、東部は高くなっている。(出典: NOAA)

偏りすぎる上陸位置

こうして台風の発生域が西に偏ったことで、今年はこれまで数多くの台風が陸地を直撃しています。これまでに発生した台風17個中14個がどこかの国に上陸し、上陸しなかったのは3つだけです。

上陸が多い国

上陸国にも偏りがあります。これまでベトナムには4つの台風が上陸していますが、17号も上陸すれば5つ目となって、平年の3個を上回ります。また朝鮮半島には平年の1個を大きく上回る5個の台風が上陸し、1951年以降で最多となったのです。

上陸が少ない国

反対に、幸いにして台風に避けられているのがフィリピンです。今年はこれまでに1つしか上陸しておらず、例年の4個を大きく下回っているのです。

さらに日本にいたっては、いまだ上陸数ゼロです。もしこのまま台風が上陸しなければ、1951年以降で5回目の珍事。もし上陸したとしても、観測史上もっとも遅い上陸第1号となります。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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