猫耳アイドルを卒業して引退する坂元葉月(わーすた)。人前が苦手だった少女から成長した10年の想い
猫耳がトレードマークのアイドルグループ・わーすたから、22歳で最年長の坂元葉月が年内いっぱいで卒業し、芸能界も引退する。デビュー候補生からだと10年に渡ったアイドル活動。もともと人見知りで人前に出るのも苦手だったのが、わーすたでの6年で大きく成長し、次のステップへの自信もついたという。卒業シングルとなる『詠み人知らずの青春歌』の発売を前に聞いた。
一度の人生だからいろいろな経験をしたくて
――卒業に関して「メンバー、スタッフで何度も話し合いを重ねた」とのことですが、最終的に決断の決め手になったことは何だったんですか?
坂元 同じ年齢の友だちが就職したこともきっかけになりましたし、アイドルという誰もができるわけでない仕事を長い間やらせていただいて、ぜいたくではあるんですけど、人生は1回しかないので。もっといろいろな経験をしたい。やれるだけのことをやりたい。ならば、23歳でアイドルを卒業して、社会に出て働きたい気持ちが大きくなりました。
――普通の人が大学を卒業するような感覚?
坂元 そうですね。ストリート生(iDOL Streetデビュー候補生)からだと、アイドルを10年近くやらせてもらったので。逆にアイドルしかやってこなかったので、それがなくなったら自分に何ができるのか、不安もありましたけど。
――猫耳がしんどくなったわけではないんですね(笑)。
坂元 そうではなくて(笑)。顔は幼いので、そこはまだ全然いけたと思います。
――アイドル活動自体に限界を感じたわけでもなく?
坂元 アイドルがイヤになったとかは全然ありません。節目節目で今後の目標を考えていた中で、ただいろいろなことをやってみたくなったんです。最初は自分がアイドルをこんなに続けられるとは思ってなくて。歌やダンスが得意だったわけでもないし、人前に出るのも苦手だったのに、10年も続けてこられた。これから先も、何があっても私は行けると、すごく自信に繋がりました。
友だちの就活の話を聞いてワクワクしました
――就職した友だちと話して、何か惹かれたことも?
坂元 友だちは「就活が大変」と言うんです。「ここも受けて、あそこも受けて、落ちたときのためにここも……」みたいな話を聞くと、確かに大変でしょうけど、私にはそのハラハラ感が楽しそうに思えて(笑)。自分の知らない世界に憧れて、「普通に働くって、どんな感じなんだろう?」と、勝手にワクワクしちゃいました。
――葉月さんもリクルートスーツを着て就活をするんですね。
坂元 やらなきゃいけないと思います。面接はオーディションくらいしか受けたことありませんけど。
――外の世界に目を向けるうえで、語学を勉強したことも大きかったのでは?
坂元 スペイン語を勉強して3年くらいで、自分がこんなに頑張れるとは思っていませんでした。日本語もままならないのに(笑)、外国語をしゃべれるのかと。でも、スペイン語の勉強は楽しくて、海外にも興味を持てました。もっと話せるようになったら、1人でスペインに行ってみたいです。わーすたで海外遠征をして、「同じ人間だから、世界の人と仲良くなれるんじゃない?」というのが、自分の中ですごくあります。
――メンバーには卒業することは、話し合いの場で一気に伝えたんですか?
坂元 そうですね。自分の意志が固まってから、みんなに集まってもらって、「私は今、こういう気持ちです」と伝えました。個々に将来について話したりはしてましたけど、事前に卒業の相談をすることはなかったですね。
――みんなビックリだったでしょうね。
坂元 メンバーもビックリだし、私自身もビックリでした(笑)。自分は最後までわーすたにいて、解散するときに芸能生活も終えると勝手に思っていたので。みんなも「あれ? 葉月が?」というのはあったと思います。
最後だから楽しんで他のメンバーが泣いてます(笑)
――卒業自体は年末でまだ少し先ですが、葉月さんのラストシングルとなる『詠み人知らずの青春歌』のレコーディングやMV撮影で、「これが最後」という感慨はありました?
坂元 レコーディングはサラッと終わりました(笑)。「ありがとうございましたっ!」という感じで。いつもレコーディングはすごく緊張したんですけど、最後だからこそ全力で楽しんじゃおうと思ったんです。そしたら気が楽になって、今までで一番リラックスして歌えました。
――MVは葉月さんが主人公を演じるドラマシーンがメインでした。
坂元 演技は今までほとんどしたことなかったんですけど、昔の自分を思い出したり、等身大に近い部分がありました。みんなで道を歩いていて、私1人が立ち止まって4人の後ろ姿を見るシーンで、「卒業するんだ」と実感しました。
――最後に花束をもらって、しんみりしたりは?
坂元 私は意外とまだなくて、他のメンバーがそういうタイミングでよく泣いてます。「卒業するのは私なんだよな」という(笑)。
――確かに、葉月さんはライブなどでも泣かないイメージがありますよね。それにしても、『詠み人知らずの青春歌』はエモさ溢れる曲で。
坂元 「最後だから、みんなで歌えるような曲がいいです」とリクエストさせてもらいました。仮歌を聴いて「歌い出しから最高だな」と他人ごとのように思っていたら、自分がそこを歌うことになって(笑)。疾走感もエモさもあって、わーすたの良いところがギュッと詰まったような、素晴らしい楽曲をいただきました。
人の良いところを見つけて自分もできるかもと
――葉月さんは「わーすたのメンバーはみんな自分より優れている」と話していたことがありました。
坂元 私の性格上、人の嫌なところより良いところを見つけてしまって。それはいいことですけど、みんなの良さを見つけすぎて、「自分には何もないかも」と思ってしまうことも多かったです。でも、感覚的には「ついていけない。置いていかれる」というより、「メンバーができるんだから、私もできるかも」と前向きな感じでした。上を見て自分も成長できたので、メンバーにはめちゃめちゃ感謝しています。
――『詠み人知らずの青春歌』のMVにあったような、4人に背中を押された経験は?
坂元 それはめちゃめちゃあります。緊張してたり不安なことがあると、何も言わなくても「葉月ならできるよ」とか「絶対これはやったほうがいい」と言ってくれたり。一番近くで自分を見てくれているメンバーの言葉は信じられて、いろいろ助けられました。
――大きなライブの前に不安を取り除いてもらったり?
坂元 ライブ前は他のメンバーのほうがテンパってますけど(笑)、今回の歌い出しでも、(廣川)奈々聖や(三品)瑠香に「この歌い方でいいのかな?」とか相談しました。ダンスに関しては、(松田)美里や(小玉)梨々華に動画を観てもらって「これで合ってる?」と聞いたり。大きいことより、細かいことが多かったかもしれません。
人見知りだったのが話せるスイッチができて
――わーすたに入ってから、葉月さんは人としても変わったようですね。フェスのバックステージで他のグループのアイドルと話しているのを松田美里さんが見て、「あんなに人見知りだった葉月が……」と胸を打たれたとか(笑)。
坂元 人見知りはだいぶなくなりました。他のアイドルさんとは、昔は写真を撮ったら「いつ帰ろう?」となっていたのが(笑)、今は雑談ができるようになって。素の自分が変わったかはわかりませんけど、わーすたの坂元葉月としてはそういうスイッチができて、成長したと思います。
――握手会とかでも?
坂元 最初は「わーっ、人だ!」と思って(笑)、何を話せばいいかわからなかったんです。でも、ファンの方は私と話したくて来てくれているんだから、ありのままでいいかと。ヘンに「アイドルはこうでなきゃ」とも考えなくなって、MCも気負わず話せるようになりました。私はちょっと変わっていて、好きなものに共感してもらえないことが多いんです。「人と同じものを好きにならないとダメかな」と思ったりもしましたけど、そこをキャラとして受け入れられるようになって。ファンの方とも話題にできるようになりました。
――どんなことで人と好みが違ったんですか?
坂元 お笑いが昔から好きだったんですけど、深夜の番組で見た、ちょっとマイナーな芸人さんのことを話しても、誰も知らなかったり。トラックや子ども向けのぬいぐるみが好きなのも、広い世界ではいっぱいいると思いますけど、周りには同じ感覚の人がいなくて。でも、「トラックが好き」と言っていたら、運転手の方が「トラックを好きなアイドルがいるの?」と興味を持ってくれたりもしました。人と違うのも悪くないと、自分を出せるようになりました。
身近なアイドルになれて良かったです
――わーすたでの6年間の活動で、特に達成感が大きかったことは何でしょう?
坂元 私は小さな目標をコツコツやっていくタイプなので、なかなかの頻度で達成感はありました(笑)。対バンのライブでもひとつ終わると、勝手に達成感を覚えていて。でも、ワンマンライブの会場が少しずつ大きくなっていったのは、うれしかったです。ステージに立っているときは、お客さんしか見ていませんけど、あとで後ろのほうから撮ってくれた映像を観ると「めちゃめちゃ人がいる!」と思ったり(笑)。それだけの人を集められて「私たち、意外とキテるかもしれない」と実感しました。
――卒業まで、まだ4ヵ月くらい残ってますが、アイドルとしてやり切った感覚もありますか?
坂元 あることはあります。でも、あとは楽しむだけというより、最後のライブのギリギリまで、上に行きたいというのがあります。やれるところまでは最大限、頑張っていきたいです。
――自分で思い描いていたアイドルにはなれましたか?
坂元 最初は手が届かないというか、高嶺の花のような存在になりたいと思っていたんですけど、フタを開けたら、ファンの方と身近な人になっていました(笑)。でも、それがいいと言ってくれる方がいっぱいいて、唯一無二のタイプを目指していたのは、ある意味叶ったと勝手に思っています。これはこれで成功だったかなと。
ファンの方が心の整理をできるように
――充実したアイドル人生だったかと思いますが、普通の10代のように恋愛したりする青春にも憧れはありました?
坂元 恋愛にはビックリするくらい興味なかったんですけど(笑)、文化祭や体育祭には出たかったですね。だいたい当日はライブとかあったので、リハーサルだけ参加して、本番は文化祭も体育祭も1回しか出られなくて。それは経験したかったです。でも、学校との両立はできていたほうで、悔いといったらそれくらいですね。
――12月で卒業することを半年前の6月に発表したのは、ファンの皆さんへの配慮からですか?
坂元 今のご時世的に先がどうなるかもわからなくて、たくさん会えるわけでないからこそ、なるべく早くお知らせしたくて。地方や海外で応援してくれている方もいらっしゃいますけど、できることなら1回でもいいから、後悔がないように会いにきてほしいです。
――「今月末で」とか「今日付けで」という発表だと、さよならも言えませんからね。
坂元 それに突然言われたら、ファンの方が心の整理をできないまま、卒業を迎えてしまったりもするので。私があまり泣かないこともあって、最後まで笑顔で終わりたいから、ファンの方に少しでも気持ちを整理する余裕があったほうがいいなと思いました。
1人なら芸能界より普通に生きようと
――来年以降のことは、まだ何も考えてない感じですか?
坂元 そうですね。たぶん地球上のどこかにはいます(笑)。突然スペインに行くかもしれないし、田舎に住みたくなって地方にいるかもしれませんけど、自分でもどうするか、まだわかってなくて。でも、バイトはしてみたいです。アイドル以外はしたことがないから、何が得意で何が不得意かも未知数。それは自分で知っておきたくて。何か1コやりたいというより、いろいろやって好きなことや適性を見つけられたら。
――ファン対応の延長で、接客業は得意かも?
坂元 どうですかね? 私は動くのが遅くて要領も悪いので、忙しい飲食店では働けなさそうですけど、言われたことは真面目に完璧にするタイプではあります。
――いろいろやるという意味では、アイドルは卒業するにしても、とりあえず芸能界に残る選択肢はありませんでした?
坂元 それはなかったです。芸能界にいるならわーすたでやりたかったし、逆にわーすたでないなら、1人で芸能界でやるより、一般人として普通に生きたい感じでした。
――もともと芸能界向きの性格ではなかったから?
坂元 今でも向いているかと言われたら、そうでない気がします。自分みたいなタイプは、他のアイドルさんでもあまりいませんでした。逆に、わーすたに憧れて「アイドルになりたいです」と言ってくれる方もいて。そういう方に対しては、私のような「目立ちたくない。人前に出たくない」という性格でもアイドル活動を楽しめるよ、この性格だからこそ伝えられるものもあるよと、教えてあげたいです。
人の喜ぶ顔を見るのが幸せでした
――葉月さんは「目立ちたくはないけどアイドルはやりたい」ということだったんですか?
坂元 そうです。でも、わーすたでなかったら、ここまで続けられたかわかりません。このメンバーの仲の良さと雰囲気があったから、やってきましたけど、違うグループに入っていたら、こんな毎日は過ごせてなかった気がします。わーすたに入るときも、本当は喜ぶところなのに、「メジャーグループなんて無理かもしれない。責任が重すぎる」と思ってましたから。「楽しければいい。楽しくなかったらやめちゃおう」くらいの気持ちで生きてきたので、わーすたでメンバーやスタッフさんに恵まれて楽しく活動できたのは、本当に感謝しかありません。
――人を押しのけてでも前に出るような、ガツガツしたところはなかったと。
坂元 まったくないです(笑)。目立ちたい人がいるなら、私は「どうぞ」と譲って、その人が目立って喜んでいるのを見るのが好きなんです。わーすたのメンバーでも、個人でやりたいことをやって楽しそうな表情を見ると、私もすごくうれしくなります。メンバーのことも自分のことのように考えていて、みんなが幸せなら私も幸せです。
――ファンの方が喜んでいるのを見るのも幸せですか?
坂元 すごく幸せです。ファンの方がいつもニコニコしてくださるので、自分でもアイドルとして人を楽しい気持ちにさせることができるんだと発見できて、ありがたかったです。スペイン語検定に合格したときも、頑張った結果が出たうれしさはもちろんありましたけど、ファンの方がリプとかで「おめでとう!」とめちゃめちゃ反応してくれて。「そんな大ごとじゃないのに」と思いながら、すごくうれしくて「みんなが喜んでくれるなら、また頑張るよ」という感じでした。
――芸能界を引退しても、人を笑顔にする仕事が合っているのかもしれませんね。
坂元 すべてのお仕事が誰かの役に立っていると思いますけど、少しでも人と関われるといいなと思います。直接でなく、遠回しだとしても。
最後まで全力で楽しい思い出を作れたら
――アイドル人生の締めに、やっておきたいことはありますか?
坂元 個人的なことだと、メンバーとたくさん写真を撮りたいです(笑)。今さらなんですけど、私、本当にメンバーが好きなんです。顔も性格も含めて。だから、メンバーのいろいろな表情を撮っておきたいし、一緒に撮った写真もたくさん残しておきたくて。あとは1回でも多く、ファンの方と生で会いたいです。私は最後の最後まで全力を尽くすので、無理のない範囲で会いに来てくれるとうれしいです。最後までみんなでとことん楽しく過ごしたいです。
――しんみりする感じにはせずに。
坂元 そういう感じではなくて、「バイバ~イ!」みたいな。「またどこかで会おうぜ」くらいの気持ちで、私はいます。
――そうは言っても、最後のライブではやっぱり泣くでしょう……とも思いつつ、葉月さんなら本当に最後まで笑っていそうな気がします(笑)。
坂元 私も自分がどうなるのか、全然想像できません。意外としんみりして涙になるのか、「この人、卒業するんだよね」というくらい元気でいるのか。何にしても、みんなと楽しい思い出をいっぱい作れたらいいなと思います。
――そして葉月さんは、どんな人生を送っていくんでしょうね?
坂元 急にパッと1人になって、自分に何ができるのか、本当にわかりません。でも、それを探すのも楽しいのかな。たぶん昔の自分だったら不安でしたけど、私は結構強くなったと思うので(笑)、今はワクワクのほうが多いです。楽しんで人生を歩いていこうと思います。
Profile
坂元葉月(さかもと・はづき)
1998年9月9日生まれ、兵庫県出身。
2011年3月にエイベックスのアイドル専門レーベルiDOL Streetのデビュー候補生のストリート生に加入。2015年3月にわーすたの結成メンバーに。2016年5月にアルバム『The World Standard』でメジャーデビュー。2021年12月31日でわーすたを卒業し、芸能界を引退する。『わーすた LIVE TOUR 2021~君と僕の青春歌!~』を開催。9月18日Zepp DiverCity、9月20日Zepp Namba
わーすた公式HP<https://wa-suta.world/>
『詠み人知らずの青春歌』
8月18日発売
CD+Blu-ray 6500円(税込)