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巨匠のストップモーション傑作が相次いで誕生。作り手の2人、ティペットとデル・トロには固い絆も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『マッドゴッド』

アニメーション、というよりも映画の原初的手法であるストップモーション。一コマ、一コマ、わずかな動きを変えて撮影し、それをつないだ時に「映像」として完成される。

CGが全盛になったこの時代でも、いやそんな時代だからこそ、ストップモーションによる手作り感は新鮮な感動をもたらす。ストップモーションに惹かれるクリエイターたちは数多い。日本でも昨年、堀貴秀監督の『JUNK HEAD』が話題を集めた。

そして今、偶然にも2人の巨匠のストップモーション長編作品が誕生した。フィル・ティペットギレルモ・デル・トロである。前者は、1977年の『スター・ウォーズ』1作目から参加し、トーントーンやAT-ATなどを担当した特殊効果のカリスマ。『ジュラシック・パーク』などで2度のアカデミー賞を受賞している。後者は、オタクとしても有名な、こちらもアカデミー賞受賞監督。

じつはこの2人、プライベートでも仲が良い。

フィル・ティペットは、ギレルモにとって初のストップモーション長編作となった『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』をイチ早く観たと語った。

「ギレルモが『ピノッキオ』の上映に招待してくれた。上映の後に、われわれは3時間くらい食事をしながら語り合ったよ。おたがいの考え方や新たなアイデアなんかを延々とね。私とギレルモは同じ卵から孵化したんじゃないかな(笑)」

そう語るフィル・ティペット。ストップモーションの新作は今も世界中で次々と作られているが、テクノロジーが進化した現在、CGで“ストップモーション風”に見せることも可能になった。そうした状況をフィル・ティペットは残念がっており、1933年の『キング・コング』や、『アルゴ探検隊の大冒険』などを手がけたレイ・ハリーハウゼンの、根元的ストップモーションの味わいを追求したのが、企画から30年かけて完成させた『マッドゴッド』。日本で12/2から劇場公開となる。

ほぼセリフなしで、地獄のような奇妙な世界に誘う『マッドゴッド』は、怪しさこの上ないキャラクターが多数登場し、ストップモーション独特の動きで魅了する。悪夢的なムードが、いつしか恍惚へと変わる不思議な感覚は、まさにストップモーションならでは。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

一方で『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』は、あの有名なピノッキオのお話を、基本を守りながらも新たな解釈/エピソードを加えて映画化したもの。今年度のアカデミー賞で長編アニメーション賞の最有力といわれるほど、大絶賛が集まっている。

ピノッキオは木の人形なので、たしかにストップモーションの手法には最適な題材。ピノッキオが動き出す瞬間や、嘘をつくと鼻が伸びるおなじみの特徴は、ストップモーションの効果が絶大である。その他のキャラクターを含め、しかし『ピノッキオ』は『マッドゴッド』とは明らかに異なる、洗練された映像が現時点でのストップモーションらしい。

『ピノッキオ』はNetflixの作品で製作費は3500万ドル(約50億円)、『マッドゴッド』の製作費は明らかになっていないが、クラウドファンディングの助けも借りており、低予算である。

フィル・ティペットも「ギレルモはオスカー監督だし、製作費には困らないだろう」と言いつつ、「他の監督と違って、ギレルモだけはストップモーションの本質がわかっている」と、『ピノッキオ』への賞賛を惜しまない。

同じストップモーションでも、まったく違うテイストとスケール感の2作だが、作品への溢れる愛、作り手側のスピリットには共通点も感じられる。同じ卵から生まれた2つの才能を観比べながら、ストップモーションの真の魅力を満喫できる、2022年の12月である。

『マッドゴッド』撮影風景
『マッドゴッド』撮影風景

『マッドゴッド』

12月2日(金)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

(c) 2021 Tippett Studio

配給/ロングライド

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

一部、劇場で公開中。Netflixにて12月9日から配信

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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