王座交代した日本ライト級。2敗を肥やしにした新チャンプ
4月26日、仲里周磨が3回KO勝ちで宇津木秀を下し、第64代日本ライト級チャンピオンとなった。宇津木は3度目の防衛に失敗した。
タイトルマッチから少し時間が経ったGW終盤、渡辺均・ワタナベジム会長が、愛弟子の敗北を振り返った。
「宇津木はプロデビュー以来12戦全勝10KOで、日本王座も2度防衛して力を付けてきたな、という印象でした。私も期待を込めてリングサイドから見守ったんです。そこで、一番恐れていたことが起こってしまった。
仲里に関しては、昨年2月の保田克也(大橋)戦を目にしており、パンチがあることは分かっていました。宇津木は中盤から後半に良さが出てくるタイプです。日本タイトル初防衛戦の富岡樹(角海老宝石)との一戦でも、序盤にポイントを失っています。
仲里はその立ち上がりに仕掛けてきましたね。私自身は、後半勝負で防衛できると予想していたのですが……第1ラウンドに喰らったのがマズかった。残念無念です。宇津木は、本当に後半に強い選手ですから。
今は、ゆっくり休養してほしいです。宇津木が上を目指すなら、徹底した前半のディフェンスが課題になるでしょう。でも、また頑張ってくれる男だと私は思っていますよ」
初黒星を喫した宇津木だが、仲里も過去の2敗を肥やしにしたからこそ、今がある。
"2敗"を金星に結び付けたのは、モハメド・アリもそうだ。1974年10月30日、32歳だったアリは、40戦全勝37KOの世界ヘビー級チャンピオン、ジョージ・フォアマン(25)に挑む。
<ランブル・イン・ザ・ジャングル>と名付けられた、あの歴史的一戦である。フォアマンは直近の8試合で、全ての対戦相手を2ラウンド以内に沈めていた。この時、アリの戦績は46戦44勝(31KO)2敗。
アリはロープを背負ってフォアマンの強打を空転させ、スタミナを奪う作戦に出た。ディフェンシブに戦いながら、フォアマンが疲れるチャンスを窺っていたのだ。
そして第8ラウンド残り15秒。疲れの見えたフォアマンにアリが右のトリプルを放つ。次の瞬間、身体を入れ替えながらダブルのワンツーをヒット。王者は半回転しながらキャンバスに崩れ落ちた。
この試合について、私はじっくりとフォアマンをインタビューしている。彼は語った。
「敗北直後は色んな言い訳を探した。プレッシャーに負けたとか、コンディションが悪かったとか、ロープが緩かったとか、そんなことが理由ではない。私は、世界ヘビー級タイトルに挑戦した一戦で、ジョー・フレージャーをKOしていただろう。アリはそのフレージャーに負けていた。アリとフレージャーとの試合は会場で見たよ。
私の2人目の挑戦者だったケン・ノートンも私が彼の顎を折ってのKO勝ちだった。正直に言うが、フレージャー、ノートン戦は2試合とも私にとってEasyだった。その2人に負けたアリは衰えている。私がアリに負けることはあり得ない、そう確信して3度目の防衛戦を迎えたんだ。
長引いたとしても3ラウンドには仕留められるだろうと考えていた。でも、アリはそれまでの対戦者とはまったく違った。5ラウンドになって、私は疲れを感じた。息遣いが荒くなったことが自分でも分かった。
リングで『俺のパンチをこれだけ浴びているのに、何故、彼は倒れないのだ?』と思いながら、私は疲労を蓄積させていった。まさしく、それがアリの描いた作戦だったんだ。そして、ご存知のように第8ラウンドにノックアウト負けさ……。
あの日のアリにあって私に無かったものは、経験だった。すなわちキャリアの差が明暗を分けたんだね。負けを知った男っていうのは強いのさ。私自身も、38歳でカムバックしてからの方が、25歳の頃よりも強かった」
仲里の戴冠は見事だった。一方の宇津木は、負けをいかに乗り越えるか。両者のボクサーライフは、まだまだ続く。